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夕方。
仕事終わりの帰り道。
空は少しだけ赤くて、昼とは違う静けさがある。
「……」
「……」
並んで歩く二人。
今はもう、自然に——
手は繋いだまま。
「……今日」
ジェーンがぽつり。
「はい」
「さっきの、騒がしいの」
「すみません……」
「別に」
少しだけ間。
「……嫌いじゃない」
「……よかったです」
少しだけ笑う。
歩道。
人が少し増えてきて、すれ違う人も多い。
「……」
その時。
前から走ってくる子ども。
「わっ」
避けようとして——
バランスを崩す。
「……っ」
ジェーンの体がぐらっと傾く。
反射的に。
ジョンが腕を引く。
「危な——」
そのまま。
ぐっと引き寄せてしまって。
距離が、一気にゼロになる。
「……っ」
顔が近い。
呼吸が触れる距離。
止まれない。
そのまま——
軽く、唇が触れる。
一瞬。
本当に一瞬。
でも確かに。
「……」
時間が止まる。
すぐに離れる。
「……っ」
ジェーンが少しだけ目を見開く。
「……今の」
ジョンも固まる。
「すみません!!」
反射で謝る。
「事故で……!!」
完全にパニック。
「……」
ジェーンは何も言わない。
数秒の沈黙。
(やばい……やばい……)
空気が読めない。
「……違う」
小さく。
「え」
「……今のは」
少しだけ視線を逸らして、
「違う」
はっきり言う。
「……」
その意味を考える。
(ちゃんとじゃない、ってこと……?)
「……やり直す」
ぽつり。
「え」
思考が止まる。
ジェーンが、一歩近づく。
さっきよりも、ゆっくり。
「……今度は」
少しだけ間。
「ちゃんと」
目が合う。
逃げない。
逸らさない。
さっきとは違う。
——“選んでる”距離。
「……いい?」
小さく聞く。
「……はい」
今度は、ちゃんと答える。
ゆっくり。
本当にゆっくり。
距離が縮まる。
呼吸が重なる。
目を閉じる。
触れる。
今度は、はっきりと。
優しく。
短く。
でも、確かなキス。
離れる。
静かな空気。
「……」
「……」
どっちも少しだけ動けない。
「……これが」
ジェーンが小さく言う。
「……ちゃんと」
「……はい」
声が少しだけ震える。
少しだけ間。
「……嫌じゃない」
いつもの言葉。
でも、今は全然違う意味。
「……俺もです」
また歩き出す。
今度は——
さっきより、少しだけ距離が近い。
手も、ちゃんと繋いだまま。
少し離れた電柱の影。
「……今の見た?」
小声の
シェドレツキー。
「見た」
頷く
デュセッカー。
「事故からのやり直しって何あれ」
「理想か」
そのさらに後ろ。
腕を組む
ビルダーマン。
「……完璧だ」
なぜか評価している。
「……でもさ」
シェドレツキーがニヤニヤする。
「今回は邪魔しなくて正解だったね」
「当たり前だ」
デュセッカーが即答。
夜に変わっていく空の下。
ぎこちないけど、確かな一歩。
“偶然”じゃない、“選んだキス”。
それは、二人にとってちゃんとした始まりだった。