テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
どうやら、俺の視線の理由をサイズに悩んでいると思ったらしい。
俺はクローゼットから最近はあまり着ていないジャージ生地のハーフパンツを引っ張り出してサイズを見る。Mサイズ。
念のために匂いを嗅いでみるが、自分ではよくわからない。
「臭くはないと思うんだけど……」
「ありがとうございます」
臭かったらどうしようと思いながら手渡すが、当然かもしれないがるりちゃんは匂いを嗅ぐことなくタオルケットの中でごそごそと穿く。
どうしてこうも無防備なのか。
男慣れしていないのはともかく、むやみに想像を掻き立てるような仕草は危険だ。
「るりちゃん?」
何を言おうというわけでもなく、名前を呼ぶ。
タオルケットから顔を上げた彼女が、へへっと笑う。
「穿けました」
穿けちゃったかぁ、なんて少し残念に思ったのは心に秘めておこう。
るりちゃんはタオルケットを足元に畳むと、ベッドから下りた。
俺が履くと膝上のパンツが、るりちゃんだと膝下。
だぼだぼのTシャツにだぼだぼのハーフパンツ、そして生足。
「可愛い……」
思わず本音が口をつく。
そんなに大きな声ではっきりと言ったわけではないけれど聞こえたらしく、るりちゃんが目をぱちくりさせた。
「か、可愛くないですよ! こ、こういう彼シャツ……的なのは、痩せてる子がやるから可愛いんであって――」
「――彼シャツ……」
「え!? あ、いえ、そういう意味じゃなくて――」
「――そういう意味って?」
ヤバい。めちゃくちゃ楽しい。
そして、動揺して困り顔のるりちゃんは、ドンピシャ俺のツボらしい。
真っ赤な顔でTシャツの裾をぎゅっと握る彼女に近づき、口に咥えた一本の髪の毛を人差し指で払う。
「いいね、彼シャツ」
「ごめんなさい……」
「どうして謝るの?」
眉を寄せて上目遣いで見つめられたりしたら、そりゃ理性も吹っ飛ぶ。
「俺のシャツで彼シャツは嫌?」
「そ、そんな! 滅相も――」
「――じゃあ、そのシャツを着ている間は、俺がるりちゃんの彼氏ね?」
「へっ!?」
戸惑うるりちゃんの頬に手の甲で触れながら、猫なで声で問いかける。
「だめ?」
「だめです!」
「へっ!?」
予想外にきっぱりと拒絶され、思わず一歩後退る。
「私なんかじゃ、だめです……」
俯いてそう言った覇気のない彼女の声に、悪ふざけが過ぎたようだと気づく。
「るりちゃん……」
いじめすぎたか……。
俺を極上イケメンだと褒めちぎるるりちゃんにしてみると、彼氏彼女なんてリアルな関係の対象ではないのかもしれない。
そう思うと、寂しかった。
同時に、もっと頑張らなきゃとも思った。
放してしまった手を伸ばし、再びるりちゃんの頬に触れる。
「私『なんか』って言い方はやめよう?」
「え?」
「俺にとってるりちゃんは最高の相棒だよ?」
ふっと表情が和らいだかと思うと、みるみるうちに顔が真っ赤になっていく。耳や首も。
俺は彼女の耳元に顔を寄せ、そっと囁いた。
「ね、るりちゃん。約束して」
我ながら卑怯だ。
るりちゃんは男との近距離に慣れていない。
俺だって慣れているわけではないけれど、本能的に女性がドキドキしそうなシチュは分かる気がする。
「俺の大事なるりちゃんを『なんか』なんて言っちゃだめだよ」
るりちゃんが、ほんのわずかな距離に迫る俺を意識しているのがわかる。顔を背けたくてもできず、かといって俺を見ることもできない。
可愛すぎる。
るりちゃんは小さく頷くと、その場から動かないまま少しだけ上半身を俺から離し、肩をすくめた。
「鴻上さん……」
「……」
「……凱人さん」
「ん?」
「美味しそうな匂いがします」
「うん。デリバリーをね? 頼んだよ」
「冷める前に食べませんか?」
この距離を何とかしようと必死なるりちゃんが可愛すぎて、真っ赤なほっぺが柔らかそうで美味しそうで、吸い寄せられるように口づけた。いや、口づけそうになった。
危なかった。
俺は一歩後退り、すうっと素早く息を吸った。
「うん。食べよう」
冷静になれ。
自分にそう言い聞かせて、そそくさと寝室を出る。
調子に乗り過ぎだ。
慎重にならなければ。
自分に言い聞かせながら、皿を並べ、ピザやパスタを取り分ける。
これから上司と部下として働いていくのだから、気まずくなるのはまずい。
俺がるりちゃんを好きな気持ちと、るりちゃんが俺に向けてくれる好意とは、重みが違う。
もっとじっくり間合いを詰めてから――。
コメント
2件
凱人さん、瑠璃ちゃんが可愛くて仕方ないのね💕抑えられない気持ちが溢れてる🤭 このまま少しずつ攻めてほしいな🥰
読んでいて、こっちごてれちゃわ😆