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ゆぴ
67
床へ放置したままのスマホが光り、到着を知らせる通知が入る。ベッドへ寝かせるべきか悩み抜いた末に現状維持を選んだ結果、阿部ちゃんは未だ人形のように衣装ケースに座ったまま。名残り惜しげに栗色の柔らかい髪へ指を絡ませ、頬を撫でて慈しんでから、重い体を翻して玄関へ向かった。
「…どうも。何度も迷惑かけてすみません」
「全然迷惑かけられてないから、すみませんは返しと…~うおっ!なんだよ照っ!」
「着いて早々悪い、阿部んとこ行かせて。見付けたのって俺らが探したクローゼットなんだよな?」
「おぉい、人ん家勝手に入るなってー!…ごめん。照さ、昔っから阿部ちゃんにちょ~過保護で」
「あっ…いえ、阿部ちゃんの為に来て貰ったんで。寧ろ有り難いです」
「ん…そっかそっか。ありがとな、めめ。んじゃ俺も行かせて貰うねー。照一人にさせとくの心配だし」
扉を開けて先頭にいたのはふっかさん。押し退けるように現れた岩本くんの顔は固く強ばってて…据えて来る目に明らかに好意的な光は宿っていない。〝昔っから過保護〟その意味する事がほんの一瞬で分かってしまった。過保護で言ったら多分、ふっかさんも同じ…なんだろう。
二人とも、俺を見る目が違う。
背中を冷たい汗が流れ落ちる。まさか、まさか…俺が阿部ちゃんに何かしたって思われて……。
視線が不自然に傾いて行く。あれ、変だな…地震?なんて呑気に思っていた俺の体が揺すぶられ、意識が遠退き掛けていたんだと気付いた。
「おい…しっかりしろ。今めめが倒れたら阿部ちゃん悲しむだろうが」
「あ…ありがとう、翔太くん」
「…俺にとってはめめも阿部ちゃんも、どっちも大切な仲間だから。それ絶対覚えとけよ」
「…うん。翔太くんも来てくれたんだね」
「……めめの味方がいないのは不公平だろ」
「えっ……」
俺の意識を取り戻した翔太くんの腕に肩を抱き寄せられ、掠れた声で耳打ちをされる。振り返った時にはもうマネージャーさんと話をしている最中で、聞き返す事が出来ないまま殿を務めて阿部ちゃんが眠る場所へと向かった。
「阿部。俺、岩本。声…聞こえるか?」
「ん~反応なしかー。脈は…うん、遅いけどちゃんと打ってるね」
「阿部ぇ…笑ってくれよ、何時もみたいに照って言ってさ」
「阿部ちゃ、阿部ちゃ、俺にもふっかって言ってー」
「…………」
岩本くんとふっかさんならって期待していたけど…阿部ちゃんは瞼をピクリともしない。誰のものとも分からない溜息が零れる。それでもと岩本くんが阿部ちゃんの頭を抱き締めて、旋毛辺りに顔を埋めた。ふっかさんは腕をさすり続けていて、こんな時だっていうのに俺の胸にどろりとした黒い塊が湧く。分かりたくないが、分かる。明らかに嫉妬だ。
…なに、考えてんだ俺。情けねぇ。
歪んでいるだろう顔を俯かせた時、岩本くんの鋭い声が飛んで来た。
「…ここ、前に調べたクローゼットだよな。あの時確かに阿部はいなかった…覚えてるか?」
「覚えてます。二人で探したけど、阿部ちゃんはいなかった」
「だったらさ、俺が阿部を見付けられないようにお前が上手く誘導してたって事にならない?」
「…は!?なんで…そうなるの」
「あ~…のね、二人で見落とすってあんまないのよ。でも照すっげービビってたじゃん?実はよく見てなかったり…とか」
「正直に言うと、怖くてじっくりは見られなかった。だから…目黒は家主だし、俺の怖がり知ってるし、黒い布でも掛けてたら誤魔化せるんじゃないかって思ったんじゃ」
「待って……どういう事?俺が阿部ちゃん隠してたって、そう言いたいんですか?」
「……お前、阿部の事好きなんだよね」
「だったらなに」
「さっき、阿部に触れてる俺らを睨んで来てなかった?」
「っ!それは…っ」
パンっ!と手を叩く音が割って入った。ふっかさんだ。俺と岩本くんを交互に見て、ぎこちない笑顔で肩を竦める。
「取り敢えず落ち着きなって。特に照。ん~でね、めめってヤキモチ焼きで独占欲つよつよでしょ。阿部ちゃん独り占めしようとしたのかな~…なんて思っちゃってるの、俺達」
「…マジで言ってます?確かに俺はその通りの奴だけど。でもだからって、監禁なんてする訳ない」
「まぁ、してますなんて言えないよな」
「…岩本くん…」
「ひ~か~る~っ!」
パンっ!再び手を叩く音。俺と岩本くんとふっかさんが目を合わせるが、三人の誰でもない。…翔太くん、だった。いつになく険しい表情でこちらを見渡している。
「落ち着くのは全員だよ。一番にする事は言い合いじゃなくて、阿部ちゃんを病院へ連れて行く事じゃないの?違う?」
「びょ…いん……そうかっ!ごめん、翔太!忘れてた!」
「ごめんは阿部ちゃんに言えって。マネさんに病院手配して貰ったから、車に運ぶの…めめ、任せていい?」
「うん、勿論。岩本くん…いいよね?」
「…………」
「照はふっかさん乗せてマネさんの後ろついて行って。めめは俺の車な。阿部ちゃんは一先ずマネさんに任せるぞ」
澄んで通る声での指示の下、俺達は操られたように無言で動いた。
そして、操り糸が切れた時には、翔太くんの隣で車に揺られていた。
コメント
11件
どうなるんだろう…⛄️から悪者?というか、敵がいないといいんだけど…🥲 続きが気になります✨✨

え…どういうことでしょうか??💙?パニックパニック…

😳えっ どうなってしまうのでしょうか? 続きが気になります 💚ちゃん早く意識が戻ると良いな