真夜中の12時。
今頃あそこでは、魔法が解けるお姫様と王子様が追いかけっこでもしているのだろうか。
真っ暗で静かな海の上から遠くのお城を眺めながら、どこかで読んだおとぎ話を思い出す。
ぱちゃぱちゃと水面に鰭が跳ねる音。
今すぐにでも走って会いに行きたいけど、残念ながら俺はここから動けない。
今夜お城を抜け出して会いに来てはくれないか、と叶わぬ願いを馳せながら待つばかりだった。
こんなところからじゃ、君が何をしているのか、何にも伝わってこない。鰭の先から伝わる冷たさが涙を誘う。
君はきっとこんな俺の姿を見たら気味悪がるだろうけど、一度でいいから君に触れてみたいと思ってしまった。
ねえ王子様。今すぐにここから連れ去ってくれないか、俺の知らない海へと。
波の冷たさの中に君の熱さを感じたかった。
もしも会えたならそれは俺たちだけの秘密にして、君が開いた複雑な心の内を俺だけのものにするようにそっと鍵を閉めて。
そしてそれを真夜中の真っ暗な海の底へと沈めよう。もう誰にも開けないように。
なんて馬鹿みたいなことを考えては時間が溶けていく。幸せな想像は掻き消され、この空と海のように真っ黒な感情が胸に渦巻く。
そんな自分に嫌気がさした。
波は一定に揺らいでいる。
俺は孤独を紛らわすようにその中を泳いだ。
何度も見た、退屈なこの景色。君といれば塗り替えてくれたのだろうか。
2人が結ばれる世界があるのなら、今すぐに連れ去ってほしい。
君に触れられずに死んでしまうその日には
この海は涙で満ちるだろうから。
ただ愛しているだけだった。
陽が昇るその時には泡となって消えていくから、一度でいいから、君と愛し合いたかった。
コメント
5件
なに!!かなしいけど!!! 普通に気になるしたのしみじゃん!!!すき!!!🥹🥹🥹