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#怪異
阿炎快空
123
リユ
232
#ダークファンタジー
阿炎快空
82
阿炎快空
111
ナギの父は、家族を守るため勇敢に戦った。
彼には自身の肉体を、完全な竜のそれへと変身させる能力があった。
それは半竜族の中でも一部の者しか目覚めることのない〝選ばれし力〟であった。
ナギとニアは、よく変身した父の背中に乗せてもらって大空を飛び回ったものだ。
しかし。
見上げるほどの大きさとなった父にも、魔女は全く怯まなかった。
「ひっひっひっ、そうこなくっちゃねえ!」
笑いながら、真っ黒な空に向かって両手を広げる。
途端、空が歪み、〝夜〟の一部が老婆と黒猫を包み込んだ。
魔女はあっという間に、父が更に見上げるほどの——身長十メートルはあろうかという真っ黒な怪物に姿を変えた。
漆黒の闇を身に纏い、全身赤い目玉だらけの巨人。
父は巨人相手に善戦したが、やがて叩き伏せられ、体を黒い炎で焼かれてしまった。
苦悶の声をあげながら、父の体は灰燼に帰した。
骨すら残らなかった。
魔女は元の姿へと戻ると、まだ幼いナギとニアを見て舌なめずりした。
「美味しそうな餓鬼共だねえ。半竜族の子供を食うのは久しぶりだよ」
「お願いします!どうか、子供達だけは!」
母は両腕を広げ、必死に双子を庇った。
「代わりに、私の命を差し上げます!ですから、どうか——どうか——」
「フン、筋張った大人の肉なんか食いたかないよ。だが、そうだねえ」
魔女は、「いいことを思いついた」とばかりに、ニヤリと笑った。
「アンタのその覚悟に免じて、後ろの子供のうち、一人は見逃してやろう。さあ、どっちを生かしてほしいか言いな」
「そんな——どちらかなんて選べません!奪うのならば、私の命だけを——」
「やかましい!同じことを何度も言わせるんじゃあないよ!十数える間に選ばなければ、餓鬼は二人とも殺す!それも、思いつく限りの残酷な方法でねえ!」
ひとーつ、ふたーつ、と魔女が歌うように数え始める。
その数字が九つに達した時——母は決断した。
震える指で双子の片方を差し、絞り出すような声で告げる。
「この子を……ニアを、助けてください」
ナギはただ、心臓が凍りつくような思いでそれを眺めていた。
目の前の事態を理解することを、頭が拒否していた。
「それがアンタの選択かい。それじゃあ、この子はいただいてくよ」
魔女は残忍な笑みを深めると、指をパチリ、と鳴らした。
子供の片方がふわりと宙へ浮かび、見えない力で魔女の元へと運ばれる。
しかし——魔女が食事に選んだのは、ナギではなくニアだった。
絶句する母に、魔女が告げた。
「何驚いてんだい?アタシは一言も〝アンタが選んだ方を助ける〟なんて言ってないよ?」
魔女は嘘はつかない。
しかし、狡猾な罠で人を騙す。
魔女は泣き叫ぶニアを小脇に抱えると、黒猫が吐き出した箒に乗って、空高く舞い上がった。
ひっひっひっ、という笑い声が山々に反響し、徐々に遠ざかっていく。
「ああ……ごめんね……ごめんね、ナギ……!」
母は嗚咽を漏らしながら、ナギのことを強く抱きしめた。
やがて〝夜〟は穴の中へと戻っていき、空は血のような赤色を取り戻した。
母の懺悔を腕の中で聞きながらナギは呆然と真っ赤な空を見上げていた。
やがて村では、父とニアの葬儀が執り行われた。
どちらの死体もない、形ばかりの葬儀だった。
母は、目に見えて憔悴していた。
誰が話しかけても、俯き、力無く「ええ……」や「はい……」などと短く呟くだけだった。
部族一の狩人として、皆からも一目置かれていた父。
卵の中でも一緒だった、魂の片割れであるニア。
二人を永遠に喪ったことが、未だに信じられなかった。
果たして今後、これよりも悪いことなど起こるだろうか?
——その答えは、葬儀の日から暫く経ってから明らかとなる。
母が死んだ。
集落近くの谷に、自ら身を投げたのだ。
家に残された羊皮紙には、ナギへの謝罪の言葉が書き連ねられていた。
あの時の母の選択について、ナギは母と話し合うことはしなかった。
すっかり生気を失った母に対し、ナギは精一杯、それまで通りに接しようと努力した。
だが——母を見つめる自分の瞳は、本当に彼女を責めてはいなかったか。
ナギはその後の人生で、幾度となく自問することとなる。
月日が流れた。
ナギが生まれてから十の季節が巡ったある日。
彼女は誰にも告げず、集落を旅立った。
〝宵闇〟の魔女を殺す。
その目的こそが、彼女の生きる原動力であり、人生の全てとなっていた。
コメント
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うわあ……このエピソード、重すぎて心臓ぎゅってなった🥀 魔女が「選んだ方を助けるなんて言ってない」って笑うところ、本当に残酷で……でもそれが魔女の本質なんだなって思った。母がニアを選んだのも、ナギがその選択をずっと背負うのも、全部が切なくて苦しい。 最後の「宵闇の魔女を♡♡♡」って決意が、静かに燃えてる感じがして、胸が締め付けられたよ。 阿炎快空さん、こんなに重くて美しい話を書いてくれてありがとう。続き、ちゃんと見届けたいです。