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どうなることかと心配していたが、シーニャに変化は無さそう――というより、おれにしか懐いていないのだと再認識。”イスティ”の名を授けているということで、シーニャの心にも変化が表れた感じだろうか。
「シーニャ。魔導士はどうなった?」
「魔法が来る前にやっつけたのだ! でもおかしいのだ」
「……ん? 何がおかしいって?」
「一匹だけ当たった後、目の前からいなくなっていたのだ。シーニャの爪は絶対当たっていたのだ! でも変だったのだ……ウニャ」
傭兵たちと違い、やはり魔導士だけは瞬時に離脱出来る程度の実力があるようだ。ザヴィ遺跡にいた魔導士の女のように、ザームでは魔導士を別格にしているとみた。
「いなくなったから探していたんだな?」
「そうなのだ。もっと早くアックのところに戻れたのに悔しいのだ……」
「ともかく、シーニャが無事で良かったよ」
ヘルフラムという女魔導士が筆頭だとして、他の魔導士は防御に長けている感じか。シーニャにしては時間がかかっているなと思っていたが、そういうことだった。
「ウニャ。全然大したことが無かったのだ!」
傭兵のリーダーを逃すつもりでいたが、魔導士が逃げたのならおれたちのことが伝わるはず。実力のある奴等に伝われば、さすがに本腰を入れて襲って来るだろう。
むしろそうしてくれれば兵力を削ることが可能になる。もっとも、今回の連中は遺跡の探索と遺物狙いで来ているに過ぎない。傭兵連中に関しては全くと言っていい程の脆さがあるし、どう考えても弱すぎた。
恐らく適当にかき集めた雇われの傭兵を追っ手に使っているだけだろう。
「……後ろからは何も来そうに無いし、ルティたちのところに戻ろう」
「ウニャ? アック、あの剣は置いたままなのだ?」
「え? あー……」
腰の辺りに重さを感じなかったと思っていたら、魔剣のことをすっかり忘れていた。地面に置きっぱなしのままで置き去りにするところだったな。
「――うっ! つぅぅ~……な、何だ」
ルストを拾い上げると、指の先に少しだけ痛みを感じた。感情の無い剣のはずだが、フィーサのこともあるし噛みつかれたかもしれない。
今のところ敵の剣を喰らうだけの魔剣に過ぎないとはいえ、扱いに気を付けることにしよう。
「ウニャ? アック、誰もいないのだ」
それほど彼女たちとの距離が離れたように感じなかったものの、バーニングシールドを発動した所から彼女たちの姿が見えなくなっている。
ミルシェたちもいないということは、ルティたちの方でも何かしらの戦闘があったのかも。
「先を急ごう!」
「ウニャッ」
ザームの別働隊がいた辺りはまだ道幅に余裕があった。だからこそ余裕で魔法を繰り出せたわけだが、ルティたちがいた所から極端に狭くなっている。
この状態で魔物に襲われていたとすれば、いくら火属性に強くても一人では厳しかったはず。ミルシェたちがいない時点でルティに加勢しているということが考えられる。
とにかく先の方に急ぐことにした。
「――! ん、あれは? 小屋か……?」
魔物に出遭うことなくシーニャと先を急いでいると、ダンジョン内とは思えない光景が見えてきた。屋根付きの小屋と監視塔のようなものに見えるが、その手前に柵のようなものも見えている。
ザヴィ遺跡と同様にダンジョン内でも村のような場所があるのだろうか?
「アック、アック! 誰かが向かって来たのだ!」
「敵か?」
「すごい勢いで突っ込んで来るのだ!!」
狭い道幅なうえ、火山灰のようなものが降ってきている。地面からは炎のような揺らめきが見えていて、視界が何となくぼやけているせいか敵の姿が見にくい。
並の人間だととてもじゃないが長く居続けることは厳しい環境だ。そしてシーニャの言うとおり、見づらい視界上で何かがこちらに突っ込んで来ている。
気配を探ると脅威となる感じでは無いが、防御態勢だけは取っておく。
「アックに向かって来たのだ!!」
「……上等だ。シーニャは念のため避けておいてくれ」
「分かったのだ!」
シーニャを脇の方に避けさせ、おれは突進して来る何かに備えた。