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第6話「副作用の次に」
透析を始めて数回目。
体はまだ新しいリズムに慣れていなかった。
その日も、透析を終えて病室に戻った瞬間、世界がぐらりと傾
「……っ」
膝が崩れ、ベッドの端にすがりつく。
喉に熱いものがこみ上げ、咄嗟に手で口を覆った。
次の瞬間、真っ赤な血が指の隙間から溢れ出す。
「……っ!マジかよ」
視界は揺れ、呼吸は浅く速くなる。
だが、そんな俺の耳に飛び込んできたのは──翔ちゃんの激しい咳だった。
「ゲホッ、ゲホッ……!」
翔ちゃんはベッドに体を折り、止まらない咳に喉を震わせていた。
顔色は青白く、唇まで紫がかっている。
「翔ちゃん!」
俺は吐血でふらつく足を無理やり動かし、翔ちゃんの元へ駆け寄った。
「息……できてる!?大丈夫!?」
翔ちゃんは苦笑しながら「お前の吐血のほうが派手やろ……お笑いライブか」なんて言う。
「こんなライブ、誰もチケット取らねえよ!」
必死にツッコミながらも、心臓は冷たい不安に締めつけられていた。
額に触れると、翔の熱は異常に高い。
「……すごい熱……!」
俺は枕元のタオルを濡らして翔ちゃんの額に乗せた。
しかしすぐに温くなってしまい、また水道へ。
ふらつく足取りのままタオルを替え、再び翔ちゃんの額へ。
「ほら、冷たいでしょ」
「……お前の手ぇの方が冷たいわ」
「うるさいな、文句言う元気あるじゃねえか」
次に、口元へ水を運ぶ。
コップを持つ手は震えて、水面が揺れた。
「ちょっとずつ飲んで……ほら」
翔ちゃんは弱々しく水を口に含み、咽せながらも飲み下した。
「……助かるわ」
「もっと飲むか?」
「ありがとうな………十分や」
俺は額の汗をタオルで拭き、胸元の服を軽く整える。
翔ちゃんの体から発せられる熱が、自分の掌にまで伝わってきた。
「大丈夫だよ、大丈夫だから……俺がいる」
自分でも驚くほど必死な声が漏れた。
翔ちゃんは苦しい中で、かすかに笑った。
「お前……ふらっふらやん。自分の顔、鏡で見てみ。ゾンビ映画やぞ」
「ゾンビでもなんでもいい。翔ちゃんを守れるなら、それで十分」
タオルを替えようと立ち上がった瞬間、俺の足から力が抜けた。
「……っぐ」
膝が床に沈み、吐き気とめまいが一気に襲ってくる。
咄嗟に口を押さえるが、再び血の味が広がった。
翔ちゃんが慌てて手を伸ばし、俺の肩を掴む。
「おい! もうやめろ! お前まで壊れるやないか!」
「でも……翔ちゃんを放っとけないよ」
俺の視界は霞み、翔ちゃんの必死な顔がにじんで見える。
「俺のことはええねん……! お前が倒れたら、ほんまに俺、笑えんのや……!」
その声には涙が混じっていた。
看病を続けたい気持ちと、壊れかけた体の現実。
その間で揺れながら、俺は翔ちゃんの手を強く握った。
「……それでも……俺はお前を守りたい」
「アホやな……」
翔ちゃんは涙交じりにそう呟き、弱々しく笑った。
夜の病室に、二人の荒い呼吸だけが響いていた。
終わりぃ
次回はさむしょも透析を使わせるんだ…!