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ヤンデレみが出てる😍
ランデリック様、どうかリリアンナを幸せにしてください。
だが、証拠がなかった。
決定打に欠けていた。
だからこそ、ウィリアムからリリアンナの不遇を知らされて調べがついた後も、その件に関しては手が出せなかった。
拳が、無意識に強く握られる。
もし。
もしそうなる前に、ランディリックがダーレンの目論見を事前に把握できていたら、リリアンナは味覚を失うこともなく、両親の庇護の下、幸せに暮らせていただろう。
起きてしまったこと、起こせなかったこと。そんな〝たられば〟なんて考えたところで、意味はない。
だが、思考は止まらなかった。
リリアンナの両親が亡くなった際、彼らの馬車には異国の菓子や、珍しい果実が満載だったという。
そのほとんどが、彼女の母・マーガレットの祖国・マーロケリー国のものであることが、役人たちの反感を買った。
そのせいで、調べが不十分のまま、何もかもが闇に葬られてしまった。
船上で、マーロケリー国の特産品であるミチュポムの実を差し出してきた幼き日のリリアンナのことを思い出せば分かる。
ただただ、彼らは可愛い娘のためにと、わざわざ苦労して敵国の名産品を取り寄せただけなのだ。
きっと、リリアンナのほころぶような笑顔が見たかったのだろう。
――ただ、それだけだったのに……。
それが、あの結末に繋がった。
そして。
残されたリリアンナは……役人たちから、その事実を突きつけられたのだ。
馬車の荷台に積まれていた、異国の菓子や珍しい果実。
――すべてが、自分のために用意されたものだったのだと。
血に濡れ、それらが無残に散乱していたと。
どんな形であれ。
どんな言葉であれ。
――両親が、自分のせいで死んでしまった。
そう思い込むには、あまりにも十分すぎる材料だった。
そうして、きっと……それらの罪悪感がリリアンナの味覚を奪ったんだろう。
ランディリックは、ゆっくりと息を吐いた。
胸の奥に、静かに沈殿していく感情。
それは後悔であり、不甲斐ない自分に対する明確な怒りでもあった。
だが、それを表に出すことはできない。
出したところで、意味がないばかりか、今度はそれがリリアンナを傷つけかねない。
ランディリックはグッと拳を握ると、視線を上げた。
そこにいるのは、美しく成長したリリアンナ。
失われた味覚を取り戻し、静かに涙する彼女の姿は、胸が締め付けられるほど美しかった。
手にした実をもう一度口に運ぼうとして、激情にわずかに震える指。
それでも、リリアンナは逃げようとしなかった。
もう一度、確かめるように……自らの意思で、懐かしいリンゴの実を口にする。
長い間失っていた大切なものを取り戻す儀式かのような、崇高なその仕草。
ランディリックは、今度こそそんなリリアンナの機微を見逃したくない、取りこぼしたくない、と思った。
彼女の内側にあるもの、語られないこと、そのすべてを……今度こそしっかりと受け取らねばならない。
ランディリックは、静かに目を細めた。
表情は変わらない。
いつもと同じように、静かで、揺るぎない。
だが、その奥で、確実に何かが変わっていた。
それは決意と呼ぶには、少しだけ重い。
あるいは――執着。
あるいは――責任。
名前なんてどうだっていい。
ただ一つ、確かなことは、もう二度と彼女から目を逸らすことはないということ。
今度こそ、何ひとつ取りこぼさない。
彼女に与えられるはずだったものを、すべて。
――そのために。
リリアンナを手放す未来だけは、断じてあり得ない。