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私
にとってこの世で一番恐ろしい存在とは、自分が何者か分からなくなってしまうことだと思うんです。
自分の中にもう一人の自分がいるっていう感覚があるんですよね。
普段は表に出していないけど、何かきっかけがあれば簡単に出てくるんです。
例えば誰かと話している時とかですね。
でもその時の私はちょっとだけ我が強いみたいで、相手の気持ちなんてお構いなしにグイグイ来ちゃうみたいなんですよ。……え? 普段の私がそうだって言うんじゃないですか? もう! 何を言っているんですか。
いつもの私はとてもおしとやかな女の子じゃないですか。
確かに少しだけ強引なところもあるかもしれませんけれど、それも相手を思ってのことなんです。
それに気遣いだってちゃんとしているつもりなんですよ。
ほら、こういう風に……。
「あ、あのさぁ」
「はい?」
「俺達付き合って一年経つじゃん? そろそろ次のステップに行ってもいいんじゃないかなって思うんだよねー……」
「うん! もちろんだよ!」
「マジで!? それじゃあさ今度の土曜日空いてたりする?」
「えっとね、ちょっと待ってて確認してみるよ……うん大丈夫みたい! お昼過ぎぐらいからだよね?」
「ああそうだぜ。待ち合わせ場所はいつもの場所で頼むわ」
「了解しましたー♪」
楽しげな声が聞こえてきたと思ったら、今度は別の女子の声へと変わる。
「ねえねえ聞いた聞いた? あの二人ついに付き合い始めたらしいよ!」
「えー!? ホントに!? うわぁ~おめでたいねぇ! でもちょっと意外かも」
「ねー! だっていつも喧嘩してたじゃん?」……なんて話を廊下の向こう側から聞こえてくるのだが、それを聞いている生徒達は苦笑いを浮かべている。
そりゃそうだろ。
お前らはあいつらが付き合っているところを一度も見たこと無いんだろうけど、俺達クラスメイト全員は毎日のように見せつけられてきたんだよ。
いがみ合ってばかりの男女がお互いのことを好きになるなんていう奇跡が起きる確率は低いかもしれないけど、それでもゼロではないはず。
それにこの広い世界でたった一人の人と出会うことだって決して不可能じゃないと思うんだよね。
そんなことを考えながら廊下を歩いていると、ふとある女子生徒の姿が目に入った。
彼女は同じクラスの女の子だけど今まで一度も話したことがなく、名前すら知らない相手だ。
でも何故か目が離せなかった。
別に特別な理由があったわけではないのだが、彼女の横顔を見た瞬間に好きになってしまった。
いや正確に言うと惚れてしまったと言うべきだろうか。
今まで恋愛などしたことが無かったために上手く表現できないけれど、この気持ちは本物だと胸を張って言える。
だって生まれて初めて異性を意識したのが彼女なのだから。
とはいえ一目惚れをしたからと言って簡単に告白できるはずもなく、そもそもまともに話したことすらない状態なので難易度はかなり高めだと思う。
それでもどうにかして彼女と仲良くなってみたかった俺は思い切って声をかけてみた。
「あの……ちょっといいかな?」
彼女は俺の声に反応してこちらを見ると一瞬だけ不思議そうな顔をしたが、すぐに笑顔を浮かべた。
「何か用かしら? もしかして愛の告白とか?」