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――次の瞬間、世界が輝いた。
それは、ほんの一瞬の事だったのかもしれない。時さえも止まり、世界そのものが止まった。
“これは……?”
刃を抜き放ってより訪れた、まるで視界全てが凍り付いた白光の中、雫は思う。
直感した。今この時だけ、全てが止まっている。そしてこの光が消えた瞬間には、全てが終わっている事も。
――果たして、自分にどれ程の事が出来たのか。この一瞬に自分達の、人類の命運が全て懸かっている。
だがこのままでは、全て終わる事は分かりきっていた。やはりこの力の前には、自分の力など遠く及ばない。
このまま流れに委ねていれば、全てが終わる。楽になれる。
“何の為に闘うのか?”
そもそも、人類を守るなんて大それた御題目は、最初から無かった。だから世界がどうなろうと、自分の知る事では無い。
ただ一介のエリミネーターとして依頼任務を遂行し、死ぬまでそれが続く日々。終わりは決して訪れない。それが人の持つ業なのだから。
なら一度、全てをリセットした方が良いのではとさえ思う。今が正にその時。
“これでいい……。このまま目を瞑っていれば、全てが終わる”
――だが、本当にそれで良いのか。
何も知らない人々は? 囚われの亜美は? そして時雨、琉月。――ジュウベエ、悠莉はどうなる?
危うく諦める所だった。まだ終わる訳には――終わってはいけない。
“過去でも未来でも無い。守るべきは――現在”
自分にどれ程の力が、この窮地を切り抜けれる力が、本当に有るのかは分からない――が。
それでも――
…
************
雫とエンペラーの二人が同時に刀を抜き放ち、御互い背中合わせに交差するまでは確認出来た。
交差した瞬間、思わず目を背けたが――何も起こらない。
「どう……なったんだ?」
彼等はてっきり、とてつもない衝撃が訪れるものだろうと思っていた。だが――衝撃処か、抜き放ったまま両者は微動だにしない。
“勝敗の行方は?”
一体どちらが勝って、どうなったのか。
先に反応したのは――エンペラーだった。
「そんなっ!」
やはり駄目だった。あの想像も及ばない力の技を、対処出来よう筈も無い。
全てが終わった。だが何故、何も起きなかったのか。
「フフ……」
振り返ったエンペラーは、動かない雫の背中へ向けて微笑を浮かべる。
「流石だね……」
「ああ……テメェの負けだ」
その瞬間、負けたと――動かないと思われた雫より発せられた言葉。
「幸人お兄ちゃん!?」
雫は生きて――無事だった。
それ処か、唐突にエンペラーの身体に傷痕が浮かび上がる。
捉えていたのだ、雫の刃が。
だが傷痕から血液の流失は無い。ただ蒼白の三日月痕が、輝きを遺したまま。
「遂に目覚めるとは……。やはり幸人、君は――」
エンペラーは感服しながらその場に座り込み、一息吐いた。
振り返り、刀を握り締めて座り込んだエンペラーの下へ向かう雫。
今度こそ止めを――本当の終止符を打つつもりだ。
「――っな!?」
「えっ!?」
「幸人……お兄ちゃん?」
永かった決着の時。訪れる勝利。だが、それ以上に彼等を驚愕させたのは――
「…………っ!?」
雫も気付いた。己の持つ刀の、磨き抜かれた鏡面反射で。
これまでの雫とは異なる変貌。それはノクティスとエンペラーと同様、雫の両目も二つに別つ金銀妖眼へと変わっていた事に。
“どういう……事だ?”
何より、本人が一番戸惑っている。雫は立ち止まり、何度も――何度も確認。
「…………」
悠莉も、他の皆も呆然と。
「それが君の本当の力、本当の姿だよ……幸人」
戸惑う彼等に、エンペラーの投げ掛ける真意。
それはつまり、雫にはノクティスやエンペラーと同等の力が、最初から備わっていた事を意味するのか。
否――そんな単純な問題では無い。
「君は見事に覚醒――到達し、この私を一瞬とはいえ凌駕して見せた。君は可能性を示せたんだよ。そして勝者である君の役目は、終止符を打つ事……」
気にはなるが、先ずはそれが先決だ。エンペラーが悟っているのは、それを受け入れているからか。
「そうだな……。これがどういう事か、貴様らが何を企んでいたのかは知らんが、もう遅い。お前を殺し、奴を問い質す――」
突然の己の変貌に戸惑っていたが、すぐに本来の目的を思い出した雫は、エンペラーへ向けて刀を振り上げた。先ずは当初の通り、ネオ・ジェネシスを殲滅。そして創主ノクティスへ事の真意を。
これで目的は達成だ。何の不備も無い。
だが――本当にこれで良いのだろうか。
まだ知らない事が多過ぎる。しかし躊躇っている場合では無い。
突然のエンペラーの反撃や、核の問題も有るのだ。
「死ね――」
雫はそれら全ての迷いを振り切って、刃を降り下ろした。
「――待って!!」
刃がエンペラーの首筋に届く直前、不意に響く声に雫は刃を止める。
“――誰だ、悠莉か? 何故今更止める必要が有るのか”
「――っ!!」
だが、違った。止めたのは悠莉でも、この場に居る誰でも無い。
「あの子は……」
「亜美お姉ちゃん!?」
止めたのは――亜美だった。
亜美はまるでエンペラーを庇うように、彼の前へと。
「亜……美? 何故――」
流石の雫も、これには戸惑った。そもそも囚われいる筈の彼女が、何故此処に居るのか。いや、居るというよりは、今来たというのが正しいか。
「……誰?」
一同、状況が掴めない。初戦で見た事が有る時雨はまだしも、全く面識の無い琉月は特に。
「幸人さんお願い、彼を殺さないで!」
――亜美は、前夜にエンペラーより託された『サーモ』。その機能の一つ、分子配列相移転の力で此処へやって来たのだ。勿論、エンペラーを救う目的で。
「なっ、何を言っているんだ亜美!? コイツはお前を拐かし、テロによって世界を支配しようしている危険人物なんだぞ? そこを退くんだ!」
亜美の懇願に戸惑いながらも、雫は彼女を退くように促した。
正直、ショックも大きい。囚われた亜美を救出保護するのも、この闘いに於ける重要な目的の一つなのに、何故彼女はエンペラーを庇いだてしているのだろうかと。これではまるで、此方が悪役だ。