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「うん。博人について行く。地獄でもついて行くって約束したから」
その瞬間力が抜けた。気を抜くと倒れそうなほどだった。思わず大きなため息が出た。
「俺、今、人生で一番緊張したかも」
「博人…」
「律に断られたらどうしようかって、ずっと考えてた。こんな決断させることになって悪いけど…それでも、俺についてきて欲しい。幸せにする」
罪を犯した者同士が果たして幸せになれるかどうかはわからない。
それでも誓いたい。俺はお前のために生きたい、と。
「ありがとう。博人」
「どうした?」
「愛してるなんて、誰にも言ってもらったことなかったから…。すごく、嬉しかった」
「そうか」
(お前は旦那から愛の言葉のひとつ囁いてもらったことが無いのか…)
愛しさを込めて優しく髪を撫でた。
「なら、俺が毎日言ってやる」
「博人…もうこれ以上泣かせないで…」
「いっぱい甘やかせて、愛してるって囁いて、お前だけだって、何千何万回でも言ってやるよ」
「うん…」
「だから、俺の傍を離れるな」
「はい」
極悪非道な選択をさせてしまったのに、それでも俺を選んでくれた。喜びからくるのか恐怖からくるものなのかはわからなかったが、自分の手が少し震えていた。けれどぐっと拳を握ってそれを押さえつけた。
これから俺たちは、なんの罪もない旦那を地獄へ陥れる。
こんな選択肢は間違っているとわかっていても止められない。
「よし。そうと決まったら勝負は明日やな。もしかしたらもうすぐ旦那が帰って来るかもしれないし、俺もそろそろ家に戻ることにする」
「わかった」
「明日、サファイアが出演する生収録のラジオが始まる二十二時にここへ迎えに来る。俺はレコスタ(レコーディングスタジオ)も含めて、公表していない秘密の別荘を何軒も所有しているし、俺(しんどうひろと)が白斗だったことはほとんど誰にも知られていないから、俺たちの行先はすぐに見つけられないと思う。とりあえずできるだけ遠くの地へ行こう」
この恋に明日、決着がつくのか。
「いいか、律。今まで通り振舞ってくれよ。荷物も用意するな。少しでも旦那におかしいって思われたらアウトや。俺も普段通り振舞う。疑われないように最後まできちんと『新藤博人』を演じてくる。夜の七時から大栄で送別会をするけど、これは断わらずに参加するつもりや。適当に切り上げて迎えに来るから、俺が来るまで待っていてくれ」
「うん。わかった。待ってる」
「気をつけろよ」
「うん」
見つめて抱き合った。長いキスを交わし、荒井家を後にした。
賽は投げられた。
もう引き返すことはできない――