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そこまで話して、真帆さんはもう一度「なるほど、なるほど」と頷いた。
「警察の方にも、駅員さんにも、その男子学生の行方はまるで判らなかった。その男子学生さんの行方を知りたい、そしてお礼を言いたい、そういうことですね?」
「はい、そうなんです」
私はまじまじと真帆さんの様子を窺った。
彼女は口元に微笑みを浮かべたまま、そっと瞼を閉じていた。
長い、綺麗なまつ毛だった。
とても甘い、良い香りが彼女から漂ってくる。
あの名刺と同じ香りだった。
真帆さんは「ふふふっ」と声をもらすように笑い、
「わかりました。それでは、こちらの魔法具などいかがでしょう?」
言って、後ろの大きな棚から取り出したのは、小さな方位磁石だった。
東西南北が書かれておらず、代わりに五芒星?が下地に描かれており、針にはキラキラ光る石がはめ込まれている。
「……これは?」
「魔力磁石、といいます。説明は端折りますが、簡単に言うと探し物を見つけてくれる魔法の道具ですね。これを手にして強く願うと、針がその探し物のところを指し示してくれるんです。たとえそれが人であっても」
「で、でも、本当に何もわからないんですよ? 顔も、姿も何もかも。それでもわかるものなんですか?」
すると真帆さんは「大丈夫です!」と自信満々に頷いて、
「私を信じてください。何も根拠はありませんけど」
「……ないんですか、根拠」
「ないんですよねぇ、残念ながら。でも、魔法なんてそんなものですよ」
「そんなものなの?」
「はい、そんなものです」
……本当に大丈夫なんだろうか。やっぱり心配になってくる。
「まぁ、ものは試しです。口で説明するより、実際試してみた方が断然早いと思いますよ」
「――はぁ、わかりました」
私はその魔力磁石とやらを手に持つと、あの時の男子学生を思い浮かべた。
思い浮かべるといっても、私には腕を引っ張られたという記憶しかないのだけれど。
「え、あっ……」
その途端、魔力磁石の針がくるくるとゆっくり回り始めた。
真帆さんが何かしているんじゃないかと疑ってみたけれど、彼女はカウンターの向こう側で、両手の平を胸の前で合わせてにやにやこちらを見ているだけだった。
やがて魔力磁石の針は、店の扉の方を向いてぴたりと止まった。
「止まりましたね。では、行ってみましょうか!」
真帆さんはそそくさとカウンターを回り込んでこちらに来ると、スキップするように、お店の扉をがらりと開いて見せた。
「え? あ、はい」
私は流されるように、真帆さんのあとを歩き出した。