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本当に、何故彼がここにいるのか謎である。
(う……闇魔法の魔力に当てられそう)
クラリと、頭が回る。ずきずきと走った痛みは、きっと反発の反動だろう。光魔法の人間の身体は、闇魔法の魔力を嫌う。本当に無意識だし、自然の原理だし、と仕方ないと思いつつも、アルベドとラヴァインをみることができなかった。
そういう風に身体が作られているせいで、自然と、光魔法と闇魔法は忌み嫌い合う存在になってしまったのだろう。
こればかりはどうしようもない。
「ふぅ……」
「ら、ラヴィ」
「魔力消耗しすぎ。どんな使い方したら、こんなに減るのさ」
「ラヴィって」
「兄さんはもう大丈夫だから、安心しなよ」
と、アルベドから離れ、ラヴァインはこちらを振向いた。確かに、そこにいたのはラヴァインだったし、服は一介の使用人のようなものだったけど、私の知っているラヴァインで間違いなかった。変身魔法で忍び込んでいたんだろうなというのはそれを見てすぐにでも分かった。
もし、彼がここに来てくれなかったらアルベドは。
ラヴァインは、少し呆れたように私を見ていたが、私が言いたかったのは、勿論感謝もだけど、そうじゃなくて。
「エトワール?」
「アンタが何でここに」
「だから、さっきも言ったじゃん。兄さんの魔力が減ってきてるなあって思ったからだって。色々すっ飛ばしてきたから、すぐに戻らなきゃだけど」
「そ、そうなの、ありがと」
「エトワールも元気そうで良かった」
と、ラヴァインはそれをいいたかったとでもいわんばかりに、にこりと笑った。優しい笑顔に、少しだけ胸が強く打つ。
久しぶりに見た、本物のラヴァインに、私は何故か安堵感を覚えていた。
別に、アルベドが、ラヴァインに変身して、私の隣にいてくれたことが、騙してたな! この野郎! 見たいな感情じゃなくて、またそれは別の感情で……でも、本物がそこにいるっていうのは、何というかその、安心感があるなと思った。その人からしか得られないものがあるというか。気持ち悪い話だけど。
アルベドと同じ、満月の瞳を私に向けながら、ラヴァインはふーんと、声を漏らす。
「な、何」
「いや、矢っ張り、兄さんの魔法の使い方は良くなかったなあと思って」
「え、え」
「エトワールって本当に気づかないんだよね。守られている自覚もない」
と、ラヴァインは、何処か冷たく、尖った言い方をした。
私の肩に触れたかと思えば、パンパンと誇りを払うような素振りを見せる。すると、私の肩上で何かが弾けた。瞬間、肩に痛みが走り、私は、思わずラヴァインから距離をとり、肩に手を置いた。焼け焦げたような匂いがした。反発の反動だろう。
ラヴァインは私がいたがっていても、どうでも良いように、私を見つめている。その冷たい目に、嫌な記憶が蘇ってくる。
「アンタ、私のこと嫌いなの?」
「話がどう繋がってそうなってるのかわからないけど、嫌いじゃないよ。寧ろ好き」
「そんな風に見えないんだけど」
「言ったじゃん好きだって。でも、兄さんには叶わない。それに、俺は兄さんの方が好き」
「兄弟愛って奴」
「そういうこと」
ラヴァインは肩をすくめ、ベッドに腰掛けた。
先ほどより、顔色は良くなったけど、まだ目覚める気配はない。アルベドは、まだ、何かと戦っているように魘されている。
目覚めてくれと思っていると同時に、あわせる顔がないとも思ってしまう。
アルベドがやりたくてやった事。だから、アルベドは私に自分を責めるなって言うに違いない。分かってるし、そうだろうなって言うのも納得する。でも、私が私を許せないのだ。
「私のせい……だよね」
「その思考やめろって、兄さんに言われたよね」
「じゃあ、誰のせいなのよ!」
思わず、心から言葉が漏れた。
誰かのせいにしなきゃいけないわけじゃない。でも、誰かのせいだって思っているから、それが私のせいだっていう話。
アルベドがいて、安心できて、最近楽しかったし、辛い思いも、吹き飛ばしてくれた。でも、アルベドが倒れちゃって、矢っ張り、楽しい時間は一瞬で、平穏なんてなくて。自分は狙われている、嫌われている身だって、そう感じちゃうから。
誰かのせいにしたい。でも、誰のせいでもないから、私のせい。
「エトワール?」
「いやだよ、もう……いや」
「今の君じゃあさ、もう一人のエトワール・ヴィアラッテアに勝てないよ。てか、俺達が束になっても勝てないと思う」
と、ラヴァインは何かを諭すかのように話し出した。
下を向いていて、ラヴァインが何て言っているのか、どんな表情で言っているのか分からなかった。でも、エトワール・ヴィアラッテアの話が出ると言うことは、きっと、彼女の近くにいて、何か掴んだと言うことだろう。それを、教えてくれていると。
とても、興味深い話なのに、聞く気力がなくて、私は顔を上げられなかった。
「彼奴の魔力の根源は、憎しみだ。第二の混沌といってもいいくらい、マイナスの感情が渦巻いてる。だから、本当の身体がなくても、実体として此の世界に存在できるんじゃないかなって」
「……」
「ねえ聞いてる?」
「…………」
「エトワール」
おーい、なんて、ラヴァインは私の顔を覗き込もうとする。そして、深く腰を曲げて私の顔を見たとき、ぎょっと目を剥いた。
「あ、あ、え……ご、ごめん。まさか、泣いてると思わなくて」
「最低」
「……いや、うん。最低だよね。ごめん」
さすがの、ラヴァインも女性の涙には弱いのか、なんていつもなら笑っていたかも知れないけれど、笑えない。途切れ途切れながら聞いていたけど、じゃあ、エトワール・ヴィアラッテアを倒すには、彼女の思いの根源を絶ちきらないといけないのだと。私が、身体を明け渡せば、それでいいの? それで、彼女の怒りは収まるの?
(ううん、多分そうじゃない。彼女が望んでいるのは……)
『愛されたい』
「じゃあ、どうすれば良いの」
「ど、どうすればって……えっと、エトワール。まず、泣き止んで欲しいなあ、って」
「アンタが泣かせた。アンタのせい」
「うっ……もう、それでいいよ。意地悪しすぎたね」
と、ラヴァインは「ごめん」と頭を下げた。謝ることが出来きるんだ、なんて失礼なことを思いながら、私は、改めてラヴァインの顔を見る。よく観察してみれば、彼の目元には黒い隈があった。彼も、彼で頑張っているんだって、だから、こっちが一方的に八つ当たりして傷付けてしまったことに気づいて、何だか一層辛くなった。
ダメだなって、自分のこと思ってしまう。
「エトワールって泣き虫だったっけ」
「今凄い暴言聞いた気がする」
「ごめんって。でも、泣かないで欲しいなあ。これ、兄さん見たら、俺が泣かしたみたいになるじゃん」
「実際そうなのよ」
ラヴァインは、もう一度肩をすくめ頭をかいた後フッと笑った。どこから来た笑顔なのか分からないけど、先ほどの、冷たい感情は何処かに行ったようだ。
「てか、アンタ戻らなきゃ何とかとか言ってたじゃん。あれ、大丈夫なわけ?」
「おっ、泣き止んだ」
「馬鹿にしすぎ。てか、話逸らしたけど実際どうなのよ」
「うーん、そうだね。俺としては、ここにずっと居たいわけだけど、兄さんを助けたのが俺ってバレるのが嫌だなあとは思う。まあ、でも、魔力で分かっちゃうかもだけどね」
「……アンタ、まだ仲直りしてないの」
「仲直りというか、兄さんに植え付けた恐怖は一生取り除けないんじゃない?」
ラヴァインはアルベドの顔をスルリと撫でる。
罪悪感とかそう言うのが這いずり回っているような顔で。
ラヴァインが、アルベドに植え付けた着ずと言えば、暗殺者を差し向けたことなんだろうけど。あの時、本当にラヴァインがやったのか、災厄によって感情が増幅されてやったのかは定かではないし、かといって、ラヴァインが悪くないわけじゃないのは分かっていて。
「まあ、言いたいことは色々あるけど、そろそろ行くよ。兄さんが起きたらいやだし」
そう言って、ラヴァインが立ち上がろうとしたとき、彼の細い腕をがしりと彼が掴んだのだ。
「勝手に行くな、愚弟が」
「……兄さん?」