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#女主人公
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「……被告人、白鳥美月。大丈夫ですか?」
裁判官の冷ややかな問いかけに、美月は答えられない。
ガタガタと歯を鳴らし、隣に座る私を、まるで化け物を見るような目で見つめている。
先ほど私が耳元で囁いた言葉——
「私が渡邉結衣だ」という事実が、彼女の脳内で劇薬のように回り続けているのだ。
「……せん、せ…うそ、よね……?」
掠れた声で縋ってくる美月に、私は法廷中の誰にも見えない角度で、口角を吊り上げて見せた。
だが、口から出た言葉は、慈愛に満ちた弁護士そのものだ。
「裁判長、被告人は極度の精神的混乱状態にあります。一時休廷を求めます」
休憩室に入った瞬間
美月は私から飛び退き、壁際に追い詰められた獣のように叫んだ。
「あんた、結衣なの!?生きてたの!? なんで、なんで弁護士なんて……!」
「死ぬほど勉強したのよ。あなたを、この手で『救う』ために」
私はゆっくりと彼女に歩み寄る。
「香織さんの証言で、あなたの『聖母』のメッキは剥がれた。今、世間はあなたを『稀代の嘘つき』だと思っている。このままじゃ、あなたは死刑台行きよ」
「いや……嫌よ! 助けて、先生……結衣ちゃん、お願い……!」
プライドも何もかも捨てて、私の靴に縋り付く美月。
10年前、校舎の裏で私が彼女の靴を舐めさせられそうになった時と同じ光景だ。
立場が入れ替わった今の景色は、最高に美しい。
「助けてあげるわ。……でも、条件がある」
私は彼女の顎をクイと持ち上げ、その濁った瞳を覗き込む。
「今回の事件、あなたがやったんじゃないことは知っている。毒を用意したのは、あなたの母親……白鳥恵子さんでしょう?」
美月の顔から、血の気が一気に引いた。
「な、なんで……お母様が……」
「10年前、あなたが私の母の青酸カリを盗み出し、事件を起こした」
「それを知った恵子さんが、私の母に罪を擦り付けた。…そして今回も、あなたの『衝動』を抑えられなかった恵子さんが、先手を打って園児を毒殺し、あなたを身代わりに差し出した……。違う?」
「あ……あああ……!」
美月が頭を抱えて蹲る。
これは私の推測だ。
だが、支配欲の強い恵子ならやりかねない。
そして、美月自身もどこかでそれを確信している。
「いい? 美月。あなたが助かる唯一の道は、母親を告発することよ。すべての罪をなすりつけなさい。そうすれば、あなたは『母親に支配された哀れな犠牲者』として、無罪を勝ち取れる」
「お母様を……売るの……?」
「そうよ。自分だけが助かりたいんでしょう? あなたが私に教えてくれたことじゃない。——『他人を蹴落としてでも、自分だけは笑っていたい』って」
美月の目に、ドス黒い決意が宿る。
親子で、殺し合いなさい。
愛という名の毒に侵されたあなたたちの「絆」が、法廷で崩壊する瞬間。
それこそが、私の母に捧げる最初の供物になるのだから。
「……やるわ。私、お母様のことを、全部話す」
「いい子ね、美月」
私は彼女の頭を優しく撫でた。
毒には、毒を。
悪女には、さらなる深淵の悪女を。
次なる標的は、白鳥恵子。
10年越しの復讐は、いよいよその本丸へと手をかける。