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数日経って、僕が学校から帰るとちょうど父さんが玄関にいた。


「何してるの?」

「いやあ……変な箱が置いてあってな。なにか変なんだよな……」


父さんは〝変〟を連発しながら、丁寧に紐が掛かった桐箱を矯めつ眇めつしている。


「今ちょうど物音がしたと思ったら、玄関に置いてあって。宅配かと思ったんだけど、宛名シールも何も無いんだよな」


父さんが箱を傾けた瞬間、僕の目にある印が目に入った。


「それ! 僕が頼んどいた物!」


素早く箱を奪い取る。


「頼んだっても……間違いないのか? 通販とかじゃなさそうだぞ」


「あ、ああ、いや、友達に頼んどいたモノなんだよ。ありがと」


妙な顔をしている父親を後目に、僕は急いで自室に駆け込んだ。……本当は通販なのだが、そんな説明出来るわけがない。


扉を閉めて、さっきの印を確認してみる。あった。


小さく子猫くらいの可愛らしい手形が、スタンプかハンコのように箱の片隅に押してある。


『根古谷猫屋《ねこだにねこや》』


僕にはそう読めた。どういう仕組みになっているのかはわからないが、とにかくそう読めるのだ。


猫語であれば書き文字までも理解出来るらしい。……書き文字か? これ。


紐はそんなにキツく絞められてはおらず、切らずに解くことが出来た。


「あー、着ましたにゃ」


気配を感じ、窓を開けるとハルがぴょんっと窓枠に乗った。


行儀良く、僕が〝入っていいよ〟と告げるまで待ってハルは畳に着地する。


僕はそれなりに厳粛な気持ちになり、ゆっくりと箱の蓋を外し中の品物を取り出した。


「……二本ある?」


中身は言うまでもなく手ぬぐいである。パッと見には普通の手ぬぐいと見分けがつかない。

ただ、模様は猫の手形がポンポンと無秩序風に並んでいるもので、ちょっと変わっている。が、普通の店屋にも無いこともないだろう。


「『根古谷猫屋謹製・化け猫手ぬぐい』……?」


「おおっ、猫代文字《ねこよもじ》まで読めみゃすとは。さすがですにゃ」


何故だがまた読めてしまったので、声に出したまでなのだが感心されてしまった。


「なんで二本あるの?」

「猫屋のサービスでしょうにゃあ」


猫屋通販の代金はカツオブシだった。


モノによって変わるらしいが、化け手ぬぐいは削ってないやつ支払いで中学生の僕としては、まあまあのお値段がした。


根古谷の修行で必要になるとかで、ハルは数本持っていったらしいがどこからどうやって手に入れたのだろう? まあ、そこは聞かなくてもいいだろう。


「せっかく二本ありますだによって、夏雄殿も参加しみゃしょう」

「ええ~……?」


「大丈夫。わたくし、はばかりながら術に関しては根古谷で修行した同期の中でも随一であると自負しておりみゃす。筆記はあまり得手ではありませんでしたが」


「筆記もあるんだ? っていうかそんなことはどうでもいいんだけど……」


カツオブシは僕が用意したが、通販の手続きは全部ハルまかせだった。


当たり前だけど。


どうも、ハルの言うことをそのまま信用していいのかどうか疑問が残る。けどまあ、仕方がないだろう。


ここまできたらこちらも乗りかかった船だ。


僕は腹を括った。

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