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昨日、母が亡くなりました。末期の胃癌でした。あの日のことはよく覚えていません。唯一覚えているのは、私の傍らで横たわっている、それはもうとても静かに寝ている母の寝顔だけです。涙は、出ませんでした。
以来、私はよく散歩をするようになりました。週に1回、週に2回、週に3回…。
無論、母を理由に感傷に浸るためです。母は昔から面倒見が良く、気さくな人でした。私の面倒くさがりな面を徹底的に叩き、時には褒めたりもしました。
ふと数年前、私が高校受験に失敗したときのことを思い出しました。酷く落ち込んでいる私を見慣れた暗闇の密室から引っ張り出し、一緒に散歩をしようと誘ってくれたのです。自宅を出て、田んぼの畦道を通り、堤防を上り、橋下の小道を通り…と私を連れ回しました。橋下の小道を通っている時、浮かない顔をしている私に向かって母は言いました。 全ての傷は、時間が全て治してくれると。当時の私はその言葉を気にも留めませんでしたが、今ではそれを反芻する程に恋しくなっていました。
丁度、その場所に着きました。歩いて心地のいい砂利道の両側には私の背丈ほどの草が茂っていました。凩が私を追い越していきました。もう冬だったのです。私は可笑しくもその場にうずくまりました。胸に開いた野球玉ぐらいの穴がまるで幻肢痛の様に痛みだしました。無意識に無に強請りました。
母に会いたい…
けれども、酷いことに母はこの世には居ません。今、母の亡骸は母の姓名が彫られた重石の下です。魂は黄泉の国へと行ってしまったのです。後悔と自責の念が胸の穴をちくちくとつつくのを感じます。
全ての傷は、時間が全て治してくれる。
私のこの胸の痛みは全治何ヶ月、いや、何年になるのでしょうか。
ごめんなさい、母さん…そしてありがとう。
本心で無の母につぶやきました。私の愚かな羞恥心が今、白旗をあげたのです。
そして、涙が一粒ほろり。