テラーノベル
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ざわめきが、一瞬で濃くなる。
チャンスとマフィオソの距離は、もう“普通じゃない”。
テーブル越しじゃない。
逃げ場もない。
ネクタイを緩められたまま、首元は半分開いている。
そこに残る、薄い歯型。
「で?」
チャンスが笑う。
「やるんだろ?」
その声は低く、完全に挑発。
マフィオソは静かに見下ろす。
「……ここでか?」
「場所選ぶタイプかよ」
「無駄な目が多い」
「それがいいんだろ」
一歩、チャンスが踏み込む。
ほとんど、触れる距離。
周囲の客がざわつく。
「おい……あれ」
「やばくねぇか」
「止めた方が——」
だが二人は気にしない。
完全に、互いしか見ていない。
「逃げるなら今だぞ」
チャンスが囁く。
「この前みたいに」
その瞬間。
マフィオソの目が、わずかに細まる。
「……言うようになったな」
次の瞬間——
ぐい、と引き寄せられる。
完全に距離ゼロ。
周囲の視線なんて関係ない。
そのまま、迷いなく唇が重なる。
一瞬、空気が止まる。
「……っ」
チャンスの肩がわずかに揺れる。
だが、すぐに笑う。
「は、いいじゃ——」
言い終わる前に、もう一度。
今度はさっきより強い。
逃がさない圧。
周囲からどよめきが上がる。
「おい、やめろ!」
ディーラーが声を上げる。
「ここはそういう場所じゃ——」
「どけ」
マフィオソが一言。
それだけで、空気が凍る。
誰もすぐには動けない。
だが——
「……ボス」
低い声。
マフィオソの部下が数人、前に出る。
「さすがに、ここでは」
空気が一瞬だけ現実に戻る。
チャンスが小さく舌打ちする。
「チッ……また邪魔かよ」
だが距離は離れない。
むしろ——
「やめる気あんのか?」
挑発的に言う。
マフィオソは数秒、黙る。
周囲の視線。
部下。
ざわめき。
すべてを一度受け止めて——
ゆっくり、手を離す。
だが完全には引かない。
距離は近いまま。
「……続きは、場所を変える」
低く告げる。
「逃げるなよ」
チャンスは笑う。
「お前こそな」
だがその目は、完全に火がついている。
ただの遊びじゃない。
もう“引けない勝負”になっている。
部下たちは安堵したように一歩引く。
だが空気はまだ張り詰めたまま。
チャンスはネクタイを軽く整える。
わざとゆっくり。
視線は外さない。
「で、どこ行く?」
「決まっているだろう」
マフィオソが背を向ける。
「私の場所だ」
「……は」
チャンスは笑う。
「いいね、分かりやすくて」
一歩、踏み出す。
そのまま並ぶ。
だが——
ふと、チャンスが止まる。
「……なぁ」
「何だ」
「この前の」
首元を指で軽く叩く。
「まだ残ってんだけど」
マフィオソは振り返らない。
だが、わずかに口元が動く。
「当然だ」
「消す気ねぇのかよ」
「消す理由がない」
短い返答。
チャンスは一瞬だけ黙る。
そして——
「……やっぱ気に食わねぇ」
口元が歪む。
「次は俺がつけるからな」
その言葉に、
マフィオソの足が一瞬止まる。
ほんのわずかに。
だが確かに。
「……好きにしろ」
その声は、低く静か。
だがどこか——
期待を含んでいる。
ゆゆゆゆ
ゆゆゆゆ
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