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(さっきよりも、輪郭薄くない?)
私達に向かって走ってくるネズミの輪郭は、先ほどよりもぼやけていて、まるで影のようだった。
「これって、影ですか。エトワール様」
「か、かも知れない……」
ルーメンさんも気づいたのか、ネズミは輪郭がないようで、まるでもやや影のように揺らめいている。先ほどのネズミとは明らかに違い、目も鋭いような気がした。危険な香りがぷんぷんするなあ、なんて幼稚な感想を抱きながら、でもこのネズミに噛みつかれたら痛いに違いないと、私は、気持ちを入れ直す。どれだけ小さい相手であっても、危険な事には変わりないし。
「まあ、蹴散らすしかないんだけど!」
私は、何が効くか分からないが、取り敢えず、火の魔法を使い、ネズミたちを追い払おうとした。ボォと音を立てて火の魔法が発動し、ネズミたちを飲み込むようにして燃え広がっていく。生き物だし、火は怖いだろうと思っての魔法だったが、ネズミたちが消えたような手応えは感じなかった。なんで? どうして? と、手応えのなさに不思議がっていれば、ルーメンさんが私の身体をぐいっと持ち上げて横に倒れた。
「きゃああっ」
「あっぶねえ」
ルーメンさんは間一髪みたいな声を上げて、ネズミの大群を見た。ネズミは、鰯の群れのように、集団で行動しているようで、先ほどの魔法でかき消せなかったネズミが突っ込んできていたようだった。小さなネズミだったものが、ゆらゆらと影のように蠢いて、大きなものが突進してくるようにも見えた。
「い、一体何なの、あれ」
「わかんねえですけど、あれに触れちゃいけないような気がするします」
「ちょっと待って、ルーメンさん、お願いだから、敬語か、そうじゃないかにして。変な日本語になってる」
ネズミたちも驚異だが、ルーメンさんが気になりすぎて集中できそうになかった。ルーメンさんに抱きかかえられながら、ネズミたちが迂回していく様子を見、作戦は立てなきゃな、と体制を整える。
ルーメンさんの言葉遣いはいいとして、あのネズミは何なのだろうか。
(ネズミの影から出来た何か?でも、ネズミじゃないんだよね……うーん)
どういう原理で湧いてきているか分からないけれど、このネズミたちが出てきたってことは、核が近いってことでいいと思う。ただ、先ほどよりも殺傷能力が高そうなネズミをどうするかが問題である。
「ルーメンさん大丈夫?」
「大丈夫、だけど……エトワール様あれをどうやって倒す気?」
「まだ、考えている途中だけど、策が無いわけじゃない」
これまでも、相手をしてきたからこそ、倒せないわけじゃないって分かっている。ただ、どうやるかは問題だなあとは。ルーメンさんは、私の顔色を伺いながら、自分にも何か出来るかと考えているようだった。
ルーメンさんは、ここに来るのが初めてだろうし、先ほどもちらりと教えたが核というものを潰さなければ、このネズミもこの空間からも出られない。
ネズミたちは、暗闇から湧いて出てくる。まるでわき水のようだなあ、とやっつけることが出来ない数を前に私は魔力の温存と、核を早めに見つけ、たたきつぶさなければと思った。勿論、核を見つけたとしても、核を守る為に障害となるだろうけど。
「くる……ルーメンさん、このまま突っ込むよ」
「つ、突っ込むんですか!?危ないっていったのに!?」
ルーメンさんは驚いて少し反応が送れたため、私は彼の首根っこを掴んで走り出した。ネズミはうわああっ、と私達に向かって突進してくる。大きさはさほど内のだが、ゆらゆらと輪郭のないからだが揺れ、大きくも小さくも見える。その赤い瞳が爛々と輝き、集合体恐怖症の人にとっては地獄だろう。
私は、風魔法でとびはね、ネズミたちの頭上を通り抜ける。しかし、何処まで飛んでも、ネズミの大群が途切れることはなかった。核が近いと思ったが、全くそれらしいものは見当たらない。核がない人工魔物はいるんだろうか。
「く、くぅるしぃ、です。エトワール様」
「あっ、ごめん」
ルーメンさんが声を上げたことで、彼を掴んでいたことを思い出し、私は彼を離した。ルーメンさんに元風魔法で、地上に落ちないようにとしたが、彼は呼吸を整えて下を見て、ゾッと顔を青くしていた。
「もしかして、高所恐怖症だったりします?」
「いいいい、いや全然。大丈夫なんで!いや、ちょっと高いなあ、とは思ってるけど……ダ、大丈夫」
「ネズミが苦手っていってたもんね……まあ、この量見たら、私もうえってなるけど」
この空間が殆ど闇に包まれている果てしない空間である為、出口や光はないわけだが、それにしても核が見つからないのはどうしたものかと思う。
ルーメンさんは、未だこの空間になれていないみたいだし、こんな光もない暗闇にいて商機を保っていられる自身は私にもないわけで。
(ほんと、あのネズミどうなってるんだろう……)
地上を見下ろせば、私達に構わずネズミは走り続けていた。マグロみたいに、止ったら死んでしまうから走っているみたいにも思え、何か違和感を覚える。
「にしても、核ってどんなものなんですか。心臓……とか、いってたじゃないですか。大きさとかは?」
「うーん、大きい方なんだけど、人の顔より大きい……かな。でも、人工の魔物……肉塊、全て大きさが違った気がして」
形状は似ていても、大きさまで合致していた、という感じではなかった。個体によって違う、見たいな。でも、かなり大きな心臓だったし、見たらすぐに分かるんだけど。
「なれてない俺が言うのも何だけど、エトワール様」
「何?」
「あのネズミの動きがおかしいってエトワール様も、気づいているんだよな……じゃあ、あの中に核があるって可能性はない、かな、とか」
と、少し歯切れ悪くルーメンさんはいって私に答えを求めた。
確かに、その考えはあり得なくもないと。どうして、ここまでその考えに至らなかったのか不思議なぐらい、そうかも知れない、と思ってしまった。
「ありえるかも……じゃあ、動き回っているのは、核が何処にあるか分からなくするため?」
「それか、あの中に核があって……いや、あのネズミ自体が核なのかも知れない、とか」
「ううん?」
いっている意味が分からないわけじゃなかった。核を隠すために走り回っているっていうのが私の中の答えなんだけど、ルーメンさんは、あのネズミ自体が核だというのだ。私はもう一度、あのネズミたちを見、光輝く赤い目を見て、眉間に皺を寄せた。あの小さな光が核の一部だとしたら?
(そんな、一体どれだけの数がいるっていうのよ)
そんな最悪な回答は望んでいない。あのネズミ一つ一つが各野一部だとして、全部消し去らないとここから出られないなんて、どんな鬼畜ゲーなのかと。でも、否定しきれないため、私は、どうしたものかと考えた。この広がり、終わりのない闇にネズミがいるとしたら。
(いや、でも私達が合流してからネズミが現われたってことは、数は限られている?)
この空間に放り込まれたときはネズミがいなかった。私達が合流し少し歩いてからあらわれた、ということは、やはり数は多いが、集団で行動しているという線が濃厚そうだ。となれば、やはり、あのネズミを全員消し去るのは、どちらだったとしても、有効な手で。
「よし、じゃあ、ルーメンさん。あのネズミを一掃するわよ」
「出来るんですか、数も分からないのに?」
「だからよ。火の魔法か、水の魔法なら、一気にネズミを倒せるんじゃない?」
「でも、影なんでしょ?どうやって魔法を当てるっていうんですか」
「あっ、そうか」
ルーメンさんにいわれ、あのネズミが普通のネズミと異なることを思い出した。よし、これからやるぞというときに、ルーメンさんから指摘が入ったため、何だかやる気がそがれていく。ダメなんだけど、勉強やりなさいって言われたらやりたくなくなったみたいな。ようやく見つかった答えを否定された感じでへこんでしまう。
それに気づいたのか、ルーメンさんは、ごめんなさい、と平謝りしてきた。
「い、いやあ、どうかなって思ったんだよ。ほら、えっと、さっき全然攻撃が通らないなって思って」
「じゃあ、どうしろっていうのよ」
「うっ……俺の土魔法で形を作る……とか」
「何それ」
ルーメンさんが何やらいいだしたので、私は彼を止めなかった。私よりも、色んな引き出しを持っていて、そこから、良さそうなアイディアを持ってきたんだろう。
「土魔法で、影を形にするんです」
「え、出来るのそんなの」
「……出来ないわけじゃ無い……と、いいたいけど、まあ、見ててください」
なんて、少し不安げなことをいって、ルーメンさんは魔力を溜め始めた。一体どうなるのか私には分からず、ただ彼の行動を見守っていることしか出来なかった。