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(まあ、お手並み拝見って所かな……)
ルーメンさんに任せ、私は、彼にかけた風魔法がきれないようにネズミを見下ろしていた。おびただしい数のネズミを見ていると、胸がウッとなるような感覚になる。集合体恐怖症じゃなくても、この数は気持ち悪いと思う。
それに、あの赤い瞳が恐ろしさをよりいっそ引き立てていた。
ルーメンさんは、魔力を集めると、それをネズミたちに向かって放ち、次の瞬間には、そこにはなかったはずの土の土台が出来る。隆起のように、ぐわっと、したから生え出てきた。私がイメージしていなかったことで、さっきルーメンさんがいった、影を形にする、と、どう繋がるのかと見ていれば、出てきた土台が、はっきりとネズミの影を映し、その上で、彼らをその土台に貼り付ける。形に、というよりかは、影を縫い付けるといった方が正しいだろう。
ルーメンさんが、ネズミを土台に貼り付けたことで、ネズミたちは身動きが取れない状況になり、ちゅうちゅうと鳴いている。しかし、長い間は持たないだろう。
「エトワール様、後はお願いできますか?」
「え、う、うん」
いきなりふられて、驚いたが、私は、少しずつ溜めていた魔力を一気に集め、ネズミに向かって火の魔法を放った。火の魔法は、龍のようにとぐろを巻き、渦を巻き、貼り付けられたネズミたちに向かって燃え広がっていく。先ほど、ネズミたちを巻き込んだときよりも手応えがあり、これならいけると、私は、さらに火力を強めた。
「いけるかも……って、うわっ」
「うわああっ!?」
火の魔法に集中しすぎたせいで、私とルーメンさんにかけていた風魔法が消え、私達は、炎が渦巻く地上へと落ちていく。火の魔法を緩めようと思ったが、このまま焼き尽くさないと、次のチャンスはないだろうと、解除することが出来なかった。ルーメンさんも土魔法を解除していないようで、二人とも、自分の身を守る術がない。
そうして、私達は、真っ逆さまに落ちていき、火の海へと沈む。
どぷん。
「……って、ここ、どこ……水?」
小さな水しぶき、音がし、私はハッと顔を上げる。息をすると、コポコポと酸素が抜けていく感覚がした。ここは何処だろうかと辺りを見渡すが、めぼしいものは何もなかった。まだ、体内から抜け出せていないのかも知れない。
「早く、ルーメンさんと合流しないと」
また、はぐれてしまったら。この闇の中をさまよっていたら、会えなくなってしまうと、私は必死に藻掻いた。酸素が抜ける感覚はあっても、何故か息苦しくはなかった。けれど、水の中のように、思い通りに動けない。
少し泳いでいれば、ルーメンさんらしき人影が見え、私は必死に手を伸ばした。ぼんやりと輪郭が見えてくると、ルーメンさんは食い荒らされたような、惨い姿になっていた。
「ルーメンさん!」
「えと、わーる……さま?」
「よかった。どうして……でも、そんな」
衣服もかなり食われており、所々穴あきだった。出血はしていないようだが、引っかかれたような傷はある。ネズミにやられたにしろ、先ほどやっつけたはずなんだが……と、私は、取り敢えず彼に治癒魔法をかける。服までは治らないが、彼の傷は徐々に癒えていったのが分かった。
私とはぐれている一瞬の間に何があったのだろうか。
「ルーメンさん、大丈夫ですか。痛むところとか……」
「多分、酷いことになってるんですよね……でも、痛みとかはないんで」
「ないって……でも、何でそんな状態に?」
そこが謎だった。ルーメンさんが落ちたところが、まだ消し炭になっていない、ネズミの所だった? とか色々考えたが、あの後、水の中に落ちる感覚があったし謎である。そもそも、人工的魔物の体内が均一だったことがあるだろうか。いつも、入るたびにその空間の大きさが変わるというか、空間自体がおかしい常に変わり続けるものだから、理解しようとしても出来無いものだと思う。
だから、いきなり水の中に落ちたとか、闇の中だけど、人の輪郭はしっかりうつっているとか、おかしいことが起きているのだ。だから、何が起きても基本おかしくないのだけど。
水中にいるようでまだ身体が安定しない。今この空間に地面は存在しないのだろう。水の中で息ができるってやっぱり変な感覚である。
「エトワール様の思っているとおりだと思うんですけど、まあ、少しかじられたな程度で」
「ネズミの群れの中に落ちちゃったと」
「多分……ネズミ嫌いなので、目は開いてなかったんですけどね。でも、たまにかじられるような痛みというか、そういうのがはしって、気づいたらここに」
「そう……何かごめんなさい」
「謝らないでください。俺も、エトワール様に、風魔法で浮かせて貰っていた身なので。勝手に解除した、なんて怒りませんし、あの状況じゃあ、仕方ないでしょ」
と、ルーメンさんはヘラヘラ笑って返してくれた。その笑顔が、彼のお兄さんと似ていて、兄弟だな、なんてまた今関係無いことを思ってしまう。
痛くない、わけではないから、本当に申し訳ないことをした気がする。私がちゃんと風魔法を継続して火の魔法を使えていれば、こんなことにはならなかったんだろう。まだまだ、私の魔法は甘いなと感じた。もっと練習したいし、人の役に立てるように……自分を守りつつ、相手を守れるようなそんな。
「にしても、本当に変な空間ですよね。ここ」
「う、うん、そうなんですよ。ここ、本当に変な空間で。肉塊と戦ったことあるじゃないですか」
「あの、グロい……思い出すだけでも吐きけがする」
ルーメンさんは、ああ、なんて思い出しつつも、思い出したくないと首を横に振っていた。それほどまでに、彼の中でも印象的な魔物? だったんだろう。ヘウンデウン教が作った、犠牲の上に成り立つ化け物。あの時は、ルーメンさんもリースも、グランツも、アルベドもいたし、結構勢揃いだったなあ、なんて懐かしく思う。
あの時の肉塊は、災厄のこともあって、不の感情が頭の中に流れ込んでくる感じで辛かった。でも、今の人工的魔物にはその感じがない。私達の記憶を映しても、ネガティブな感情にはならないから、あの時は災厄の影響もあったんだなあ、と今更ながらに思った。それほどまでに、災厄の時の不安定さは、人を狂わせると。
(でも、私が強くなったのかも……とか、思えないわけじゃないんだよね)
あの頃と違って、今も少し不安定だけど、それでも、少しずつ精神的にも成長している気がするのだ。だから、過去の記憶を見ても、暗闇の中に居ても正気を保てると。
「ネズミは倒せたってことでいいのかな……うーんでも、ここから出られていないってことは、倒せていないってこと?」
「分かりませんね」
二人で頭を悩ましたが、いい案が浮かばなかった。
ここから抜け出せていないということは、倒しきれていなかったのだろう。でも、確かに手応えはあって、やっつけたと思ったんだけど。
そう思っていると、したから押し上げられるように何かが噴射する。マグマが噴火、みたいな、したからぐわああっ、と何かが湧いて出来てた。
「ルーメンさん!」
「エトワール様っ!?」
咄嗟に手を伸ばした。ここでまたはぐれてしまったらいけないと。バシッと手を掴み、私達は押し上げられてきたものに乗せられ何処かも分からない上へと上がっていく。その最中、キラリと光る何かを見つけた。
(で、出口?でも何で!?)
地上の温かな光。それでも、眩しいという感じはしなくて、あの地下道なんだろうなと予想は出来た。しかし、抗う方法も何もなく、私達はまるで吐き出されるような形で、その光につっこみ、ボチャンと何かに落ち込んだ。かすかに生臭い匂いがし、べたつくような感覚になりながら、今度は水が肺に溜まっていくような感覚に陥った。
地上に出た、ということだけわかり、私は息をするのもやっとで、波にのまれるまま流された。掴んでいた手は、いつの間にか離してしまったようで、プランと力なく私の手は沈み込んだ。