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第2話
太智side
「……ねえ吉田さん」
「ん?」
「最近柔太郎変やと思わへん?」
楽屋で着替えを終え帰り支度をする吉田さんに話しかける。
「別にいつもと変わらないと思うけど。どこらへん?」
「いや〜…なんていうんやろ……分からん…」
「なんそれ」
自分でもうまく言葉にできない。でもなんかおかしい気がする。忙しいから疲れている?それは…何か違う。
何か嬉しい事があった?…ちょっと違う気がする。
「なんか分からんけど…幸せそうなのに悲しそうっていうかさ。柔太郎そんな顔せえへん?」
「知らん。そんな顔見た事ない」
「もー!吉田さん冷たい!頼りにならんやん!」
ジタバタと手足を動かしながら文句を言う俺に吉田さんは冷たい顔をする。
吉田さんって柔太郎と仲良いんじゃないの?佐野さんに聞いたら分かるかなぁ…。
「てかそれはお前にだけ?」
「うん、舜太にも聞いたけど分からん言うてた」
「………」
吉田さんが考え込むような顔をする。
「え!?何か分かった!?教えて教えて!」
「………いや、ないなー」
「何それ!?」
俺をじっくり見た後にバカにしたような笑い方で言う吉田さんに殴りかかるふりをする。教えてとごねるが「いや絶対ないから」「何でもない」と笑うだけだ。
そうやってわちゃわちゃしていると楽屋のドアが開く。
「あ、柔太郎!」
「まだ帰ってなかったんだ、だいちゃん…とよっしー……」
一瞬嬉しそうな顔をした柔太郎の顔が曇る。あれ?どうしたんやろ…。
「…あーいや、俺今もう帰るとこ。こいつが柔太郎のこと心配してたから相談のってた」
「ちょっと!?」
「え…?そうなの?」
目の前でバラす奴おる!?そもそも乗ってくれてすらおらんやんあんなん!と文句を続けて言おうとしたら小声で吉田さんに囁かれる。
「意外と俺の予想当たってたかも。まあ、頑張れ」
肩をぽんと叩かれるが意味がわからなかった。どういうこと?と聞こうとしたがさっさと歩いていってしまう。去り際に柔太郎にも何か言って行ったようだった。
俺何も聞いてへんねんけど!?何を頑張ればええの!?
「ごめんね?心配かけて、俺なんか変だった?」
「え?いや別に…そやないんやけど……」
何だか急に気まずくてうまく言葉が出ない。柔太郎の顔を見ると困ったような顔をしていて焦ってしまう。
「大丈夫、何でもないから」
そう手をぎゅっと握られる。そしてまたあの顔をする。笑顔なのに切なそうな顔。
「う、うん…」
何故か心臓がどくんとなる。変な感覚。あれ?何やろ、これ…。
柔太郎の手が俺を手を離す。「あ…」と声が漏れる。
「?どうしたの?」
「ううん別に!心配ないならよかったわ!」
笑顔で答えると柔太郎は嬉しそうな顔をする。それなのに何でちょっと無理をしているような感じがするんだろう。やっぱり仕事が忙しいんかな?
柔太郎の手のぬくもりがまだ手に残っていた。
──────────────
「はやちゃん?どしたんそんなとこ座り込んで。着替えないん?」
「……いや、ちょっと……」
「?そこどいてや楽屋に荷物あるから取りに行かなあかんくて……」
「だめ!今はだめ!ちょっと一旦こっちこい飲み物奢ってやるから」
「ほんま!?ならええでー」
──────────────
柔太郎side
気づいたら好きになっていた。
一緒にいて楽しい、そんなありふれた理由。
でもその相手はありふれたものじゃない、よりにもよって同じアイドルグループのメンバーで同性。
「柔ちゃん!くすぐったいってぇ〜」
「え〜?じゃあ、こう?」
「あはは!もお〜!」
「太智お前撮影進まないだろ」
「ちゃうの、柔太郎が〜!」
撮影の途中、くっつくように指示されたからちょっと調子にのっちゃった。
少しくすぐるようにしただけだけど、これってセクハラとかになるのかな。卑怯?
そんな事を思うけどケラケラと笑うだいちゃんの顔を見ると笑みが漏れてしまう。本当にかわいい。
一緒にいるだけで愛おしさを感じて幸せな気持ちになると同時に切なさもわいてくる。
これ以上は踏み込んだらいけないと分かっているから。
「これにて撮影終わりです!ありがとうございました!」
スタッフさんの拍手やマネージャーのお疲れ様の声にみんなでお礼を言う。楽屋に戻ろうとした時、はやちゃんに肩を掴まれた。
「…あのさ、ちょっと、いい?」
楽屋から離れた隅っこの会議室のような場所に来た。その間はやちゃんは何も話さない。何だか予想がついた。
「……あのさ、全然勘違いだったらごめんなんだけどさ。変なこと聞いていい?」
気まずそうにはやちゃんがもじもじと言う。
「何?」
「柔太郎さあ……太智のこと、どう、思ってる…?」
「はは、何それ。もっと直球に聞けばいいのに。好きだよ、だいちゃんのこと」
真剣な顔でそう言うとはやちゃんはよろっとして机に手をついた。
「……その言い方ってそういう事だよな…」
「うん。はやちゃんもグループ内恋愛OKって言ったじゃん」
「マジで言ってる?」
「大マジ」
「……ええ〜…マジか……」
笑って答えるとはやちゃんが頭を抱える。まあそういう反応になるよね、なんて申し訳なくなる。
「大丈夫、仕事に支障出ないようにするし。てかはやちゃんよく気づいたね」
「いや、お前の目見てれば本気って分かるって。太智にしかしないじゃんああいう顔」
「……そうなんだ」
自分はそんな顔をしていたのか、少し恥ずかしくなると同時にそれぐらい好きなのだとじんわりと心が暖かくなる。いけない事なのにね。
「大丈夫だよ、別に伝えようと思ってないし」
「え」
「俺嫌われたくないもん。見てるだけでいいし…あ、でも触ってるか」
「………」
はやちゃんが複雑そうな顔で見つめてくる。はやちゃんは本当に真面目で仲間思いだ、そんな中で暴走する気はない。それにだいちゃんは俺の事なんてどうも思ってないだろう。
俺たちの歌ってる歌みたいにテレパシーが伝わったらいいのに、いや、ダメか。
拒否されるのが、一番怖い。
「…お前がそうしたいなら、否定はしないけどさ…それでいいわけ?」
「何それ、はやちゃんはその方がいいっしょ」
「いや別に…何かトラブルになったらダメってだけでさ。俺にそれを止める権利もないし。柔太郎が辛い思いして欲しいんじゃなくて」
「伝えた方が辛い思いするって分かってるよ」
さらっとそう答えるとはやちゃんが何かを言いかけるけど心の中に抑え込んだのか下を向いてしまう。
「心配かけてごめん。でもこれからは気をつけるからさ」
「柔太郎、待っ……」
はやちゃんが何か言いかけるのを振り返らずに会議室を出る。
大丈夫、俺なら全部隠せる。自分の気持ちも偽れる。
だいちゃんの笑顔をそばで見られるだけで、十分幸せだ。