テラーノベル
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「小さな魔王と丸い悪魔」
🧣✕ショタ🌵
10 🌵視点
翌日。俺は外に出る方法を探すことにした。
まずは本で調べた。悪い魔女に塔に閉じ込められたお姫様の絵本のことを思い出して書庫から引っ張り出してきた。助けに来た王子様のために長い髪の毛をロープにするなんて、カンゼンハンザイってやつじゃん。でも俺の緑の髪は昔からずっと短いままで、伸びたことがないんだよな。
「……こうして塔から出たふたりは誓いのキスをして、永遠に結ばれました。めでたしめでたし」
つい最後まで読んじゃった。でもこれは駄目だろうな。髪の毛もそうだし、ここには王子様じゃなくて青いまんまるか、配達人さんしかいないもん。うーん、ひらめいたと思ったのに。
本っていうのは不思議で、一冊読み始めると止まらなくなっちゃう。うっかり他の本も読んでしまった。今までは学問として触れていた外の世界。憧れとしてすら見ることもなかった世界の話が急にリアルに感じられて、俺は夢中で次から次へと本をめくった。
海の音が聞こえる貝殻。飛べない鳥のいる白銀の大地。虹色の花と蝶の舞う花畑。そしてたくさんの魔石で輝く古戦場。それが壁の向こうにあるんだ。
街のお店の絵本も食い入るように読んだ。世界中のスパイスを売ってるお店に、いろんな形のパン屋さん。冷たいアイスクリーム屋さんの絵を見てお腹が鳴った。
らっだぁがお昼だよって呼んで我に返った。しまった、午前中全部使っちゃった。これだから本は時間を吸い取られちゃうんだよなぁ。
「らっだぁ、アイスクリームって知ってるか?」
「らぁ?」
らっだぁの作ってくれたマカロニスープを飲みながら、俺は本で頭がいっぱいだった。ひやひやの甘いお菓子!今までは気にしてなかったけど、どんな感じなんだろう。きっとすっごく珍しいんだろうな。
「夏でも冷たくて、急いで食べないとすぐに溶けちゃうんだって。さすがに配達人さんも持ってこれないよなぁ……」
「……らぁ」
なんからっだぁも悔しそうな顔してる。でも俺の顔を指差して、それから窓の外を指差した。
「そっか、外に出たら食べに行けばいいんだ!」
「らっ!」
また夢が増えちゃった。お昼を食べ終わったらすぐに地図にアイス屋さんって書き込んだ。どこかにお店があるといいな。
文献調査は程々にして、午後は実際にここから出る方法を探すことにした。
まず玄関を見に行った。分厚い木の板が打ち付けてあって、そもそもドア自体が見えない。しかもすごい魔力の封印がされてるみたいで近寄るだけで肌がピリピリする。俺は魔力もないし、魔法も使えないからここは論外だな。
次に窓の鉄格子を全部見て回ったけど、俺の腕ぐらい太くてどれもサビ一つない。隙間も俺の身体じゃ通れない。配達人さんに鉄鋸を頼んでみようかな?でも俺の力で切れるのかな……。
だんだん雲行きが怪しくなってきた。書庫の中も駆け回ってみたけどやっぱり窓は全部塞がれている。配達人さんが物を持ってきてくれる一階倉庫の窓、あそこは一番望みがあるけどやっぱり鉄格子が強すぎる。
窓も玄関も出られそうな場所は全部しっかり塞がれていた。今更だけど、俺は本気でここに閉じ込められてたんだな。ちゃんと考えたことなかったけど、俺を閉じ込めた人はよっぽど俺のことが怖かったのかな。
方法を考えつかなくなって、俺は自分の部屋の床に寝転がった。体の横には地図が置いてある。それをちらっと見て、また寝転がった。
結局駄目なのか?こんなにいろんな夢を思いついたのに、結局叶わないのかな?外に出たいなんて思わなけりゃここがこんなに窮屈だとも思わなかったのに。
お腹のあたりがぎゅっと痛い。目がふにゃふにゃしてきて、今まではしゃいでいた疲れがどっと押し寄せてきた。
胸が苦しい。心は強く羽ばたいてるのに、この鳥籠から出られない。
石の床は冷たくて、もふもふの服を着ているのにだんだん体が冷えてきた。そんなことしてたら涙までじんわりにじんできて、急にみじめな気持ちになってきた。
違う違う、俺はもう怖くないんだ。自分に言い聞かせて、涙を飲み込んだ目にあるものが見えた。
「……落とし戸だ」
俺は飛び起きた。見慣れていたから気にしていなかったけど、この天井には落とし戸がある。たぶん、屋上に出るための。
ただここは塔の最上階で、天井がものすごく高い。10mくらいあるのかな?はしごでもなきゃどうやっても届かない。逆にあそこから逃げるなんて思ってなかったみたいで封印の魔力は感じない。
「あそこに、届けば……!」
俺は足場にできそうなものをかき集めた。部屋の隅にあった古い大きなトランクや、本棚を部屋の中央に寄せる。俺の身長より高く積み上げて試しによじ登ってみた。当然、届くわけがない。
「あっ?!」
せめて構造をもっとよく見ようと背伸びした瞬間、バランスを崩して俺は宙に投げ出された。
「わぁあぁ!!」
「らぁぁぁああああ!?」
俺以上にデカい悲鳴を上げてらっだぁが駆け寄ってきて、俺はらっだぁの上にポヨンと落ちた。
「らっ!らっ!!」
「ご、ごめん!見てよあそこに落とし戸があるんだよ!でも届かなくて……」
プンスカ怒ってるらっだぁにも見えるように落とし戸を指差した。ていうか今までどこ行ってたんだ?
「らぁー」
「あれは無理だから……わかった!やっぱり鉄格子をなんとかして切って、らっだぁのお腹の上に飛び降りたら……」
「ら゛っ!?」
「うそうそ、さすがに潰れちゃうよな」
「らぁ~~!」
らっだぁは首を振ってまだプンプンしてる。うーん、たぶん俺のことを心配してくれてるんだろうな。飛び降りるのはやっぱり無茶かも。
ふと見たら部屋の中は荒れ放題だった。足場にした本棚は倒れて本が飛び散ってるし、トランクもすっ飛んでいってる。それがなんだか面白くて、俺は笑ってしまった。
「あのな、ここから出る方法探してたんだ」
「らぁ」
「まだどうしたらいいかわかんないけど……でも、俺がなんとかしてやるぜ!」
「らっ!」
正直に言うと、立ち止まるのが怖かった。なにかしてないといても立ってもいられない。でもらっだぁのニコニコの顔を見ていると、わけもなく自信が湧いてきた。
「……出られたらいいな」
まだ夢、夢だけど、外の世界への期待だけが俺をグイグイ引っ張っていた。
🧣視点
「……てなわけで、数日中には出られると思う」
塔から少し離れた森の中、俺は白い猫と顔を突き合わせていた。白猫、なるせの使い魔は感慨深そうに息を吐いて本人と同じハスキーボイスで喋りだした。
「ついに、だな。長かったな」
「ここまで来ると一瞬だった気もするけどね」
「あーあ、洋服作りも終わりか」
「まだだよ、首輪を外す方法はまだわからないから」
「そっか、早く見つかるといいな。でっかくなったらそれに合わせて服を作ってやるぜ、楽しみだわ」
なるせは自信満々にそういった。俺も大きくなったぐちつぼのことをちょっと想像しようとしたけど、その顔が先代と被って考えるのをやめた。きっとぐちつぼは、ぐちつぼらしい素敵な大人になるんだろう。
「連絡してあんだろ?お仲間の運営たちにも」
「うんしたよ、最終的にはあいつらのいる隣町に行くつもり」
隣町は魔導研究が盛んな魔法都市だ。俺が王都で人間をボコボコにして憂さ晴らしの日々を送る中、あいつらは生き残った悪魔たちのために魔力供給とかの研究をしていた。首輪についても調べてもらってたから、連れていきさえすれば研究は一気に進むはず。
一人、自暴自棄に逃げ込んでいた俺は今度こそあの子を無事に送り届けないといけない。それが俺の果たせなかった責任だから。
「なるせも来る?」
俺が聞くとニコニコの猫の顔がかしげられた。なるせには服を作ってもらったり、サポートしてもらうばっかりで、肝心なぐちつぼの姿を見せれてないのが気がかりだった。
「あ?俺は王都で仕事があるしな。ま、落ち着いたら顔見に行くぜ。その小さな魔王様の、な」
「待ってるよ、もう本当に可愛いんだから」
「お前もすっかり親バカだよなぁ」
「親じゃないだろ」
「じゃあなんだよ」
なるせの問いに俺は詰まってしまった。親子なわけがない、親と呼ぶのであればあの子の親は先代魔王だ。じゃあ俺は?
「……親戚のおじさん?」
「あーね」
なるせは納得したようだった。卵のころに横で二人で話しているのをぐちつぼは覚えてたんだよな。近すぎず遠すぎず、それくらいの距離感がしっくり来るかもしれない。
今日は情報交換だけをして、そろそろぐちつぼのもとに戻ろうと俺はなるせに別れの挨拶をした。でもなるせは話を終わらせようとせず、外に出るならあーだこーだと忠告してくる。
「金はちゃんと持ってるか?細かくしとけよ、デカい札ばっかり出すと怪しまれるぜ」
「俺のいつもの財布持ってきてるから大丈夫だよ」
「服は?こないだ厚手のコート入れてやったろ、それ着せろよ。夜はエグい寒いぞ」
「わかったわかった、本当にありがとねー」
こいつも親戚、いや田舎のおばあちゃんみたいだな。まあ会うことはなくても一緒にぐちつぼを見守ってくれた仲だ。感慨深くないわけがない。
「ついたら絶対連絡しろよな!」
「するって、俺の使い魔おいてるでしょ。そっちこそ、あとは任せたよ」
「おう、任せとけ。情報屋としてあのクソ人間どもに特大の裁きを下してやるぜ」
「好きにやっちゃってね、もう容赦なく」
ぐちつぼさえ逃げ出せれば、あの子を塔に封印した勇者パーティーどもに用はない。やっと、やっとぐちつぼを苦しませた奴らを抹殺できるんだ。これでようやく過去が終わる。あとはまっすぐに未来を向いて歩くだけだ。
塔への道を歩きながらちらりと振り返ると、いつもみたいにすぐに茂みに消えることなくなるせはずっとこっちを向いて白い前足を振っていた。
*
急ぎ足で塔に戻ると、最上階から何やらガタゴト大きな音がする。午前中は外の世界を調べるのに夢中になってたけど、今度は何してるんだろう?
「……よいしょっ、これで……!!」
なにか苦戦してる声が聞こえた。俺が部屋に入った途端、部屋の真ん中に積み上げられた箱とかの上でジャンプしたぐちつぼが足を踏み外し、頭からひっくり返るところだった!
「わぁあぁ!!」
「らぁぁぁああああ!?」
ダッシュして滑り込んでクッションになる。ポヨンとはずんでびっくりした顔で飛び起きて、ぐちつぼは俺に謝ってきた。どうやら天井に落とし戸があって、そこを調べたかったらしい。あんなに高さがあるのに、この程度の足場で届くわけもないのにいても立ってもいられなかったんだろうな。
確かにあそこのハッチが開けば簡単に出ることができる。壁や玄関を破壊するよりも、上から出たほうが人間もすぐには気づかないだろう。どうせ供物は週に1回しか入れに来ないんだし。それにあの高さも、俺の力さえ戻れば問題ない。
「出る方法、まだわかんないけど……そうだ!出る時の服決めよう!」
飛び散った本を片付けようとしていたぐちつぼが、急に目を輝かせた。……本当に心がウキウキして立ち止まっていられないんだな。空に飛び立つのが楽しみで、狭い鳥籠なのに羽ばたいちゃうんだろう。
「外って寒いだろ?だから冬の服を着なきゃ!」
ぐちつぼはクローゼットとタンスを開けてなるせの作ってくれた服をいろいろ引っ張り出してくる。たちまち床が色とりどりの服で見えなくなった。
「これ、ふわふわして好きなんだ」
猫耳フードの付いたポンチョを被ってぐちつぼはくるくる回ってる。裾がヒラヒラして妖精みたいだ。本当に可愛い。
「あったかいけど……ちょっとスースーするかな?」
「らぁー」
「だよな、別のも考えないとな」
そこからはファッションショーが始まった。見覚えのあるいろんな服を一着ずつ着て、俺が大喜びで手を叩く。ぐちつぼ本人はどれが一番あったかいかを真剣に考えているみたいなんだけど、またあのかぼちゃパンツが見れて俺は心で涙を流した。本当に可愛い。
「……こんなにいっぱいくれたんだな、配達人さん」
何着か着たところでぐちつぼがポツリと呟いた。俺はサスペンダーのクリップを背中でとめてあげる。白いシャツに蝶ネクタイ、これも本当に可愛い。絵に書いて飾りたい。
「なぁらっだぁ、ここ出たら配達人さんにもお礼言わないとな。俺のこと、あんなに気にしてくれて」
「……らぁ」
「ん?だってそうじゃん?俺なんて全然、こんなよくわかんない塔にいて、なのに来てくれて」
ぐちつぼはすまなそうな顔をしている。確かにあの俺は正体を一切明かしてないよな。急に現れて何でもくれる謎の人間だったかも。でもそれくらい無条件に愛されるべきだったんだよ、ぐちつぼは。
「ああそっか、らっだぁは配達人さんのこと嫌いだもんな」
「ら?らぁ??」
「大丈夫だぜ、俺が間に入ってやるからな!それがネゴシエーションってやつだもんな!」
いつの間にかなんかよくない方向に誤解されている気がするけど、ぐちつぼは胸を張っている。まぁ、力を取り戻してから説明すればいいか。なるせのこともちゃんと紹介しないとな。
ファッションショーはまだまだ続き、やっぱりなるせの言う通りこの前くれた厚手のケープコートを着ることで決定した。あの俺のコートと似ているデザインのやつだ。なるせのやつ、わかっててこの形にしたのか?決してそんなふうに思ってないのに傍から見たらきっと親子みたいで、……本当に複雑な感情になる。
この関係は親子なわけがない。この子はあいつの忘れ形見で、今度こそ必ず幸せにするって決めた。それがあいつの最後の願いで俺の使命だ。
「やっぱりこれが一番あったかいな!」
花がほころぶようにキャハキャハ笑うぐちつぼの顔に、ほんの一瞬あいつの顔が重なった。懐かしい、もう戻れない光景が誘惑してくる。
……でも違う。ぐちつぼはあいつじゃない。俺はこの子の記憶にちょっとだけ残ってた親戚のおじさんで。親なんかじゃない、俺は魔王を守る大悪魔だ。
この小さな魔王様が俺の今の主なんだよ。ここを出て力を取り戻したらいずれ領地を持って、広大な土地とたくさんの悪魔をその魔力で育むんだろう。
「……っだぁ!」
「らぁ?」
「だから、らっだぁも寒いだろ?」
一人で考えてたら頭に到底入るはずもない人間サイズのニット帽を乗せられていた。ぐちつぼは自分の服を決め終わって、俺のためにタンスの奥から服を引っ張り出してきて俺の身体に乗せてあーでもないこーでもないと考え込んでいる。着せ替え人形になるのも悪くない。滑り落ちた帽子をもう一度頭に乗せて、俺はちょこちょこ動き回るぐちつぼを愛おしく眺めた。
俺はこの小さな魔王様を、ぐちつぼを、一生守り続けることを誓うよ。これからも絶対にそばにいる。俺の正体を明かしたらこの誓いもちゃんと告げなきゃな。それまでは胸に秘めておこう。俺にとってぐちつぼは守るべき主で、それ以上に大切な友達だから。
「このマフラー、長すぎるなぁ。あ、でもちょうどいいかも……?」
捜索の末にぐちつぼはタンスから長い長いマフラーをズルズル引っ張り出した。それを俺の首(?)にコマみたいにぐるぐる巻いて、ほどけないように端を挟み込む。
「お?!ぴったりだ!らっだぁはそれな!」
「らあっ!!」
それは赤いチェック模様のマフラーだった。俺にも選んでくれたのが嬉しくて、不意に目の奥が熱くなる。
この子は本当に前しか見ない。追いかけてきたトラウマすら乗り越えて前しか見ていない。
「……ぐちつぼ」
「な、なんだよっ、苦しいぞ!」
俺は服を片付けようとしていたぐちつぼに思わず抱きついた。子供らしい熱い体温はこの子の中で燃える意志そのものだった。胸で希望が脈打つ音がする。そのすべてが愛おしくて、またぎゅっと抱きしめた。
絶対に出してやるからな。絶対に見せてやる、外の世界を。
コメント
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おもしろすぎて一気読みしてしまいました… 読みながら聴いていた曲が個人的にこの話にぴったりだと思ったので勝手に紹介させてください…良ければ聴いてみてください。 バンプオブチキンの『Aurora』『angelfall』 改めて素敵はお話をありがとうございます!これからも応援しております!!

