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「黒紀…?」
遥希くんは目を見開いていた。
知り合いだろうか。
私は黒紀と呼ばれた女の子は知らなかった。
いや、そもそも転校生なのだから知らないのが当たり前だろう。
だが、遥希くんと喋っているのを見たことがない。
保育園か幼稚園からの仲だろうか。
それはそれで何か嫌だった。
私はハッとして、頭をブンブンと振った。
駄目だ、駄目だこんな事を考えていては。
ただの自己中ワガママ女になりかけるところだった。
「え〜と…ああ。あの空いてる席に座ってくれ。」
先生がこちらを指差す。
あぁ、やはりか。
ここしか無いよなぁ。
黒紀ちゃんはこくりと頷きこちらに向かってくる。
歩く黒紀ちゃんをみんなはうっとりと見つめていた。
いや、それは男子だけかもしれなかった。
鼻血が出そうなのか、鼻を抑えているやつも居たし、
急いで髪を、セットしているやつもいた。
そこまでするか?
気がつくと黒紀ちゃんは、もう隣に来ていた。
とても良い香りがした。
香水をつけているのだろうか。
爽やかな、花の香りがした。
何にもつけていない、私とは大違いだ。
黒紀ちゃんは椅子に座り、カバンを横にかけた。
(可愛い…)
心の中でそう思ってしまった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
休み時間が始まった。
男子が黒紀ちゃんを狙っているのか、そわそわしながらこちらを見ていた。
だが、話しかけられない。
何故なら私が、一番に話しかけていたからだ。
どうやら、ウチのクラスの男子は、女子の会話に入れないらしい。
本当に、意気地なしだ。
私は、黒紀ちゃんから遥希くんの情報を聞き出す為、さりげなく話しかけた。
「あ、え〜と、お名前なんだったっけ?」
さりげなくと言えばこれだろう。
名前をもう一回聞くスタイルだ。
黒紀ちゃんは可愛い顔を、こちらに向け、
「え、えっと…ボクの名前…ですか?く、黒紀ですけど…」
ヒョエエエエエエエエエエッッッッ!!!!!!
ボクっ娘かあああ!
なんとも言えない気持ちを、心の中で叫んだ。
まぁ、そんなところにとやかくは言わない。
多様性な時代なのだから。
「あ、ありがとう!また教えてくれて!
仲良くしようね、黒紀ちゃん!」
私は、笑顔でそう言った。
情報を聞き出すのは、信頼が深まってからの方が良いだろう。
急に聞き出すのは、相手が驚くからだ。
“仲良くしようね”という言葉に反応したのか、嬉しそうな表情をした。
だが、すぐに困り気味な顔になった。
一体どうしたというのだろう。
「あ、ありがとうございます!…ですけど…」
何だ。
『ボク、遥希くん以外とは仲良くしたくないのですっ!』
とでも、言ってくるのだろうか。
うん、いやそれは無いな。多分。
「えっと…ボク…」
ごくりと唾を飲み込む。
次の言葉が待ち遠しい。
早くしてくれえええええ!
息を吸い込んで黒紀ちゃんは大きな声で、
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
ゑ?
え、そんなわけない。
こんなに可愛いくて「オトコ」?
私は、教室に響くぐらいの声で叫んでしまった。
だが、それよりも
「……嘘ダロオオオオオオオオッッッ⁉︎」
という男子の嘆きの声の方が、響きわたった。
私たちの会話は聞こえていたのだろう。
嘘だ…嘘だ…
「…あの?大丈夫ですか?」
心配して黒紀ちゃ…違う。
黒紀くんが話しかけてきた。
「…エッ⁉︎だ、だ、だ、だいじょぶダヨー!」
変な言い方になってしまった。
すると、黒紀くんの後ろから遥希くんが顔を覗かせた。
「…黒紀。なんでここに来たの?」
真剣な顔で黒紀くんに、問いかける。
こんな遥希くんの顔は、初めてだ。
二人の過去に何かあったのだろうか。
「…遥希…居たんだね?変わりすぎて分からなかったよ。」
まさかのタメ口だ。
私だって君づけなのに。
それに、私と話すときと喋り方が違う。
最後の方は笑いが少し、含まれていた気がする。
「質問に答えろよ。僕は何度でも聞くからね。」
遥希くんのこんな喋り方も、初めてだ。
「遥希に関係あること?まあ、確かに会いたかったけど…」
「早く!!!」
流石に私はビックリした。
黒紀くんも驚いたようだ。
遥希くんにとって、黒紀くんはとても大事な存在なのだろうか。
「…アッ!ご、ごめん。白華ちゃん。」
「…えっ!?」
素っ頓狂な声を上げた。
いきなり、遥希くんに声をかけられたのだ。
今まで、ぼーっと聞いていたな。
でも、私も気になるので
「黒紀くん、なんかあったの?」
「…」
黙り込んでしまった。
でも、待てよ。
大事な友人がまた帰ってきて、その理由。
ただ単に、親の都合じゃないだろうか。
それ以外に、理由…
…転校先で虐められた。
それしか私には考えられない。
遥希くんは何を心配しているのだろうか。
「…二人ともそんなに気になるんだね。
いいよ、しょうもない事だけど。」
黒紀くんは話し始めた。