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季節が街を彩る頃――。
近江龍彦の会社が大きなプロジェクトを発表した。その日、新聞の一面に、彼の横顔と、隣に立つ若い女性の写真が載っていた。その笑顔は私に見せたことのない、甘く優しい眼差しだった。長い黒髪の女性と微笑みあうその左の薬指には、プラチナの指輪が輝いている。
――共同開発パートナー、婚約者である木原建設株式会社、社長令嬢との事業提携――
見出しはそう告げていた。
私はスマホを握りしめたまま、固まった。メッセージを送っても、既読がつかない。電話は繋がらない。愕然となった私は声を失った。
雪絵は、私の隣でその記事を読み、静かに微笑んだ。「……やっぱりね」姉の声は、氷のように冷たかった。でも、その瞳には、箱根で一瞬溶けたはずの炎が、再び激しく燃え始めていた。
私は震える声で言った。
「違う……きっと、誤解よ。龍彦さんは、そんな人じゃない」
雪絵は私の肩を抱き、優しく髪を梳いた。昔と同じように。
「紅子、覚えてる?私たちの掟。裏切りは、絶対に許さない」
私は首を振った。でも、涙が止まらなかった。雪絵は立ち上がり、パソコンを開いた。指がキーボードを叩く乾いた音が、静かな部屋に響く。ハッキングの画面が、次々と開いていく。木原建設株式会社の内部資料には驚くべき事実が隠されていた。
「見て、紅子。この婚約、半年前から決まってたわ。あなたと出会う前から」
次に婚約者のインスタグラムを見つけ出す。それは容易で、画面には、近江とのプライベート写真。旅行の計画メール。LINEには、愛を囁く熱いメッセージの羅列。
私は膝を抱えて、床に崩れ落ちた。雪絵は私の背中を撫でながら、静かに言った。
「今度は、私が主導する。今までで、一番残酷に壊すわ」
姉の指が、私の涙を拭う。冷たくて、でも確かな温もりがあった。
「紅子、一緒にやりましょう。もう、信じない。誰も」
私はゆっくりと顔を上げ、雪絵の瞳を見つめた。そこに映る自分は、もう幸せな恋する女の子ではなかった。紅薔薇の棘が、再び鋭く尖っていた。
――裏切りは、許さない。
永遠に。私たちは、再び双子として、1つになった。牙を剥き、棘を立てて。近江龍彦の終わりは、もう始まっていた。
復讐の計画は、雪絵の主導で即座に始まった。
旅行の記憶がまだ生々しいうちに、棘を研ぎ、牙を剥く。私たちはペントハウスのリビングに座り、パソコンとスマホを広げた。
まず、証拠の収集。
雪絵のハッキングスキルは、以前より洗練されていた。近江の会社のサーバーに侵入し、メール、チャットログ、隠しフォルダをすべて引きずり出す。そこには、下世話な友人とのやり取りが山ほどあった。
『紅子はただの遊び。結婚は予定通り進めるよ』
『モデルなんて、アクセサリーみたいなものだからね』
そんな一文が、私の胸を鋭く刺した。
さらに、会社の財務データ。近江コーポレーションの裏帳簿――脱税の痕跡、取引先への不正送金。これを公にすれば、彼の社会的地位は一瞬で崩壊する。
私は震える手で、雪絵に言った。
「雪絵……本当に、壊すの?」
姉は冷たく微笑んだ。
「紅子、あなたの涙を拭いたのは誰?この男は、父親と同じ。許せば、私たちの絆が壊れるわ」
私は頷いた。棘が、再び心に根を張った。
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