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ピカッッッッ ゴロゴロドシャーン「おぉぉ、今の凄かったなぁ」 我々国には今、滅多にないほどの強い嵐が襲いかかっていた。この軍に来てから、まだ1年ほどしか経っていないエーミールにとっては初めての経験だった。
強い風と雨が窓を打ちつけガタガタと音を鳴らし、すきま風がピューピューと薄気味悪い音をたてている。何より、時たま暗い窓から見える雷の稲妻が恐怖をさらに煽っているようだった。
しかしそんな雷には目もくれず、エーミールは残っている書類を片付けていた。ギィィ 突然ノックもなしに部屋の扉が開いた。雷よりもこちらの音にびっくりしたエーミールは扉を凝視する。すると、緑のフードを深く被った黄緑色の彼がひょっこりと頭を出した。「ぞ、ゾムさんかぁ。びっくりしましたよ!」
「す、すまん」
「にしても貴方が扉から入ってくるなんて珍しいですね。なにかご用ですか?」
「いや、そういう訳やないけど…エミさんが何してるんか見に来ただけや」
「なるほど??とりあえず、廊下じゃあれですし部屋の中へどうぞ」 少し違和感を感じながらも扉を開けると俊敏な動きで部屋の中へと入ってきた。来てもらったからには飲み物でも出そうと台所へ向かおうとすると、袖が掴まれて後ろへ軽く引っ張られる。「?どうしたんですか、ゾムさん」
「あっ。い、糸くず着いてたで!抜けてんなぁエミさんは」
「ありゃ、気づきませんでした。ありがとうございます!飲み物入れてくるので、ソファーで寛いでいてください」
「お、おん わかった。わざわざありがと」 普段ならもう寝ている時間なので、コーヒーではなく暖かいココアを用意した。カップを持って戻ると、ゾムは常備してあるブランケットにくるまり、ソファーの上で体育座りをしていた。エーミールその隣に腰を下ろしカップを手渡した。「はい、どうぞ。暖かいココアです」
「あ、ありがと」 ゾムが受け取ったココアを飲もうとした時、雷が小さく唸り声をあげた。ビクッッッ
「うっ」
「だ、大丈夫ですかゾムさん?いきなり音を立てて…」
「あ、いや、ココアが熱かってん。それにびっくりしただけやで」
「すみません、温めすぎましたね。火傷しないように気をつけてください」
「おう….」 エーミールはあと少し残っている資料も終わらせてしまおうと、再び手元に視線を移した。時々話しながら手を進め、数分がたった時、ピカッッッッ ドッッシャァァァァン 近くに雷が落ちたらしく、突然部屋の中が暗闇に包まれた。同時に隣から猛スピードで何かが突進してきた。苦しいほどの力で締め付けられ、ゾムが自分に抱きついていることを認識するエーミール。「ぞ、ゾムさん。もしかして、雷、苦手なんですか?」
ガクガク
「….なんや、わるいか…」
「そんな事ないですよ!でも、ちょっと意外でした」
「…….ち、小さい頃から、暗殺者になるための訓練めっちゃしててん。だから、グロいのとか痛いのとか、大体のことは慣れてる。でも、……か、雷だけは今でも慣れないんよ…ほんま、情けない」
「誰にだって苦手な事の一つや二つあります。完璧な人なんていないんですから。….俺は雷が苦手なところを含めても、ゾムさんのこと、かっこいいと思っとるし、最高の相棒だと思ってるんよ。だから、自分の事…俺の相棒のこと、情けないなんて言わないでや」
「……うん….ありがと……」 暗いと何も出来ないので、とりあえずポケットの中にあるライターをつけた。すると、ブランケットから頭を少しだし、時々聞こえる雷の音に震えているゾムの姿が見えるようになった。
エーミールは、落ち着かせるようにちらりと見えるブラウンの髪の毛を梳かしながら、特有の低音で話し始めた。「今までは嵐の日とかどうやって過ごしてたんです?」
「…そういう日は、なるべく早く寝て、音聞かんようにしてる」
「今日は眠れなかったんですか?」
「任務の報告書いてて、寝ようと思った時にはもう鳴ってたんや。音に反応して寝れんくなってしもた」
「….それ…私のとこなんかに来て良かったんですか?」
「なんか、無意識に足がエミさんの部屋に向かってたわ。エミさんなら一緒に居てくれるって思ったんかな」
「フフッ、いつでもお待ちしていますよ」 電気は未だにつかず、雷の音と2人の話し声だけが部屋に木霊していた。
ゾムの震えはだいぶ収まり、眠そうに目をこすっている。「…そういえば先日、鬱先生が48人目の彼女に振られたらしいですよ。顔にすごい大きい絆創膏に貼ってましたね」
「あの傷の正体、それやったんやなw気づかんかったわ…」
「あと、チーノくんが久しぶりにコネシマさんに麺つゆ出してたんですけど、あの人1ミリも疑わずに飲んでましたね。綺麗に吹き出してました。」
「ふわぁぁぁ…….ちーのも…あいかわらずやな….」
「グルッぺンが仕事サボってケーキ屋さんに行った時、彼が着くころには、トントンさんが先回りしてたのであっけなく捕まってました。まったく、いい気味ですよ」
「……..スゥ….スゥ….」
「…寝てしまいましたか。おやすみなさい、ゾムさん」 普段、人がいるところでは常に気を張っている彼が、自分には隙を見せてすぐ隣で寝ていることにエーミールは少し誇らしく思った。 この状態では仕事を進めることが出来ないので、諦めて寝ることにした。ゾムを、そっと自分のベッドまで運び、いつ電気が復旧してもいいように、部屋のライトをoffにしてからソファーに寝っ転がる。思ったよりもふかふかなソファーを堪能しているうちに意識は遠のいていった。
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外から聞こえる鳥のさえずりを合図に、ふと意識が浮上する。
目の前には自室では無い天井が広がった。体をゆっくりと起こすと、珈琲と微かなタバコの香りが鼻を掠める。「うぅん…昨日、あのまま寝ちゃったんか。エミさんどこいったんやろ」 昨晩まで隣にいたはずのエーミールを探すために寝室から出る。彼は、ソファーの上で寝っ転がりスヤスヤと音を立てていた。どうやらぐっすり寝ているらしく、近くによっても全く起きる気配がない。ちょっとした悪戯心でエーミールの頬をぷにぷにとつつくと、閉まっていた瞼がゆっくりと開いた。「……ぞむさん…..おはようございます…」
「おん、おはよエミさん」
「昨日はしっかり寝れましたか?」
「お陰様で、ぐっすりだったわ。なるべく怖くならんように色んなこと話してくれたんやろ?ありがとうな!」
「いえいえ、寝れたようなら良かったです」
グゥゥ
2人分のお腹の音が部屋に響く。そろそろ朝ごはんの時間だと気づいた2人は、食堂に向かう準備を始めた。「…また来てもええんかな」
「え?」
「…….別に、なんでもない」
「違います違います!嬉しくってつい!ぜひまた来てください」
「なんや、聞こえてたんかいな…」 不貞腐れたような顔をしたゾムが部屋から先に出ていってしまった。「ちょ、ちょっと待ってくださいよ!ゾムさァァん」 エーミールも、慌てて彼のあとを追いかけて行った。
嵐はもう息を潜め、暖かい陽の光が部屋の中を優しく照らしていた。
どうだった?…
短かったね……ごめん
次は、長くかけるように頑張るね!