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「うーん……。ひょっとして、一般の兵士の人? いっしょに戦ってくれたのは心強かったけど、さすがに一人ひとりの名前や顔までは覚えてないんだよ。ごめんね?」
ふぅむ。
ヘルルーガとやらが一般兵であったのならば、シンカが忘れてしまったのも仕方ないだろう。
魔王である余ですら、記憶増強・保持系の魔法を使わねば、末端の兵士までは把握できぬ。
そういった魔法を習得していないシンカの記憶力は、そこらの人族と同程度のはずだ。
人族の中ではトップクラスの戦闘能力を持つ彼女にとって、末端兵の一人ひとりなど同格の存在ではないのだ。
「あたいは一般兵なんかじゃねぇっ! てめぇ、マジ殺すぞっ!!」
ヒートアップしたヘルルーガが、ついに闘気を開放した。
先ほどまで教師を相手にしていた時よりも、一回り強大な闘気だ。
「ちょ、ちょっと、ここで戦うのはまずいんじゃない?」
「うるせぇっ! こうなりゃ、ぶん殴ってでも思い出させてやるぜっ!!」
「うわっと!?」
ヘルルーガが大きく振りかぶった拳で、シンカに殴りかかる。
だが、彼女はそれを難なく回避すると、逆にヘルルーガの腹部に蹴りを放った。
戦いの始まりだ。
一見すると、そう思えるが――。
「ぐっはああぁっ!!!」
ヘルルーガは大ダメージを受け、あっさりと倒れ込んだ。
まぁ、シンカは余から薫陶を受けておるからな。
大戦の時よりもはるかに実力が増している。
ヘルルーガが一般兵なのかそれ以上の存在だったのかは知らないが、いずれにせよ今のシンカは彼女が知っているシンカではない。
「あっ……。ごめんね? ファンの人に暴力を振るっちゃった。結構鋭いパンチだったから、反射的に足が出ちゃったよ」
「ぐっ……!? だ、だからあたいはファンじゃねぇって……!」
「それにしても、悪くない感じだよ。うん。頑張って鍛錬したんだねぇ。偉い偉い」
シンカがヘルルーガの頭を撫でる。
彼女は嫌そうな表情を浮かべたが、ダメージが大きくそれどころではないようだ。
「お、お前、本当に流水なのかっ!? なんでこんなに強いんだよっ!! こんなの聞いてない!!!」
「まぁ、この一年でいろいろあったからねぇ……。今の僕から見れば、”流水の勇者”なんて呼ばれていい気になっていた過去の自分をぶっ飛ばしたくなるよ……」
「あたいが知ってるのは、あたいより少し強かっただけのシンカなのに……! クソぉ!! こんなはずじゃなかったのに!!」
「ほら、そんなことより、入学式をメチャクチャにしたことを反省して? みんなにごめんなさいしようねぇ」
シンカがそう促す。
ユリアやヘルルーガのせいで、今年の入学式はメチャクチャだ。
教師たちは倒れているし、一般生徒たちはみな動揺している。
謝罪すべき局面だ。
「ふ、ふざけんなぁっ! あたいはまだ負けてねぇっ!!」
「もうっ! 往生際が悪いよっ!!」
再び暴れようとするヘルルーガを、シンカが押さえる。
実力の差、それに闘気の出力の差は歴然だ。
ヘルルーガ程度では、今のシンカに逆立ちしても勝てない。
「ぐぬぬっ! こうなったらヤケだ! この入学式場まるごと、あたいの全闘気で爆破してやるぜぇぇっ!!」
「えっ!? そ、それはまずいよっ!!」
「知らねぇっ! 死ねやぁぁっ!!」
その言葉通り、ヘルルーガは全闘気を開放しようとしている。
余やシンカがあの程度の闘気でどうにかなるわけもないが、一般生徒たちはマズい。
倒れてしまっている教師たちも、まともにレジストできないだろう。
さすがにそれを許すことはできな……ん?
「ひぃやああああああっ!?」
ヘルルーガが絶叫する。
彼女の闘気開放を妨害するべく、シンカが動いたようだ。
「君が悪いんだよ? ファンなのは嬉しいけど、やり過ぎだから」
「だからっ! あたいはファンなんかじゃっ! ひゃうんっ!?」
ヘルルーガが情けない声を上げる。
それも当然のこと。
シンカがヘルルーガの股間部を足で刺激しているのだ。
子ども同士のイタズラでたまに行われる、いわゆる電気アンマというやつだな。
「過激なファンにはお仕置きしないと。僕に絡んでくるだけでもちょっと迷惑なのに、他の人も巻き込もうとしたよね? 入学式もメチャクチャにして……」
シンカが小言を言いつつ、足を小刻みに振動させる。
「や、やめっ! ああんっ! そこはダメェッ!」
ヘルルーガは両手でシンカの足を持ち、必死に抵抗している。
だが、力の差は歴然。
大人と子どもほどの差がある。
「うーん……。どうしたものかな……。やっぱりもっと追い込んでおくべき?」
「あ、謝るっ! 全部謝るから! だから許してくれぇっ!!」
「ほんとに悪いことしたって思っているなら、態度で示してほしいんだけどなぁ。僕は誰? 君は何?」
そう言いながら、シンカの足の振動が激しくなっていく。
彼女のそっち方面のテクニックは、この1年でずいぶんと向上している。
余とよく夜を共にしていることに加え、時にフレアやイリスともいっしょに寝ておるからな。
ヘルルーガは顔を真っ赤にし、必死に耐えていたのだった。