──真っ暗な四畳半の部屋。
一人暮らしをするにはきっと充分な広さなのでしょうが、不気味な人形が何体か置いてあってより圧迫感がありました。
その部屋に私は、ようやく辿り着けました。
目的の人物が、机に置いてあるパソコンを見ていて、胡座をかいてました。
やがて彼は私の方向へ振り返ると、歪な笑顔を作り出しました。
「まさか本当に来たとはねぇ。いやはやびっくりびっくり」
「三浦先生、ですね」
私が彼の名前を呼ぶと、彼はケラケラと笑い出しました。
「そうだよ! 大正解だよ死神人形ちゃん!」
「私は死神人形ではないです。ただの、クエリィです」
「あっはは! 名前あるんだ、ウケるね」
何がそんなに面白いのか、彼はケラケラと笑っていました。
このままだと、彼のペースに飲み込まれてしまいます。
本題に移さなければ。
「……あの時、館の近くで貴方を見かけました」
「へぇ。見かけたの?」
「えぇ。それから──」
私は館から持ってきた人形達を見せました。
男の顔を模した人形と、一つ目の小さな人形。
「この人形達は、貴方の私物ではないですか?」
「……どうしてそう思ったんだい?」
三浦先生は真顔で疑問符を浮かべました。
私はその問いかけに対して、この部屋にある人形達と、妙に血生臭いゴミ袋を指差しました。
答えは入った瞬間から見えています。
すると、三浦先生はまた妙な作り笑顔を見せました。
「まぁ分かっちゃうか。しらばっくれてもいいけど、君だからいっかな」
「……それでは、認めると?」
「なーんか探偵みたいねぇ君。変な仮面も付けちゃって。しかも血まみれじゃんそのレインコート」
相変わらず不快な言動ですが、反応すれば話が進まなくなりそうなので、耐えることにしました。
私が黙りこくって回答を待っていると、つまらなそうに三浦先生はため息をつきました。
「そうだよ。あの日、あの館にその人形達を置いたのは俺だ。アイツの様子を見るついでに、人形を置いたんだ。まさか持って帰ってきちゃうとは思わなかったけど」
「えぇ。おかげで余計な体力を使いました」
「えぇー? 人形の癖に体力とかあるのー? 不便だね──」
「目的は何なんですか」
私は三浦先生の言葉を遮って、目的を聞き出すことにしました。
三浦先生は「無視かよー」と不貞腐れていましたが、やがて話し始めました。
「俺ね、現実はつまんねーものばっかだと思っててさ。だからかな、都市伝説にすげー惹かれるのよ」
「はい」
「でもさ、スポットに行っても結局なーんにもないのよ。化け物の気配すらない! つまらない……だからいっそのことさ──」
歪んだ笑顔を私に向けながら、その後、彼は言い放ちました。
「自分から作っちゃえばいいじゃんって。そしたら、つまんない現実面白くできるじゃんって」
つまりそれは、あの館にいた化け物は彼が作り出した、ということになります。
被害が出なかったとはいえ、一歩遅ければあの館では殺人が起こっていました。
……狂っています。
「……それを実行することも思考もぶっ飛んでいますが、そんな事ができてしまうものなのですか?」
「ははっ。ひとりかくれんぼのやり方で試してみたら、何か動き出してさ。試しに放置してるんだけど、ウケるよね」
三浦先生はゲラゲラ楽しそうに喋りながら、パソコンのキーボードをカチャカチャと打ち込んでいました。
打ち込み終わった後、今度はパソコンの画面を私に見せつけてきました。
その画面には、最近の都市伝説話の情報が載っていました。
恐らくここに載ってるもの全てが、彼が作り出したものなのでしょう。
ここに載っているものは、あの化け物のように人に危害を加えてくる人形もいるのでしょう。
「……分かっているんですか? 貴方が作り出した館の化け物は、無差別に誰かを殺そうとしていたのですよ……?」
「うん。それが狙いだけど?」
「……は?」
私自身が人間だったら、口をぽっかりと開けてしまったでしょう。
この男が、言った言葉の意味を理解するまで時間を要しました。
私が「なぜ?」と問いかける前に、彼はすぐに口を開きました。
「さっきも言ったけど、つまらないんだよ現実って。というか人間か。しょうもないよ」
「……え」
「死神……じゃなくてクエリィ。人間って俺を含めて、情報一つ一つで何でも偏見の目で見つめてくるもんなんだよ」
さっきの作られた表情とは打って変わって、真顔で三浦先生は喋り続けます。
「君のそのあだ名も、俺ら人間がネットで勝手に付けたレッテルさ。俺も学生時代、妙なレッテル貼りをやられたもんだよ。顔が何か周りにウケてたらしくてさ」
……この顔と今の思想が、彼の本性なのでしょう。
「嫌だったんだよねー。それで弄られるのがさ。だからその後に試しに整形とかしてみたらさ、これがびっくり。弄られなくなって人気者。今度は女の子も寄ってくるようになって。何だ結局、顔かよって思ったね。ははっ」
「……それで貴方は、人間が嫌いに?」
捲し立てる彼を止めようとして、問いかけました。
しかし、彼は簡単には止まりませんでした。
「嫌い? まぁ確かに学生の時は嫌いだったよ。でも今は違うねぇ。いい役者さんだよ彼らは。だって俺が作った都市伝説の化け物を相手してくれるんだよ? いやぁ面白いね」
「……それはもはや、人をおもちゃのように見ているのではないですか」
「そうだねぇ。そう見れば何だか自然と笑えるようになったものさ。ははっ」
「……例え、その化け物の相手をするのが、貴方の教え子だとしても?」
「あぁ──」
乱暴に私は、目の前の男を押し倒しました。
よくないことをしています。
これでは、私もあの化け物と同じです。
ですが、怒りが収まらないのです。
「歪んでいます貴方は。何もかも」
「酷いなぁ。仮にも君を作ったお父さんだよ俺は?」
薄々勘づいていましたが、私が生まれた理由は彼にありました。
信じられないです。
いや、信じたくないです。
「別に殺しても構わないよ俺は? その代わり、君はあの化け物と同等の存在になるだけだしねぇ。ははっ」
「……うるさい。そんな事、言われなくてもっ」
「あっはは! 俺の想像していた以上の反応するね君は! ウケるね!」
「黙れ黙れ黙れ黙れっ!!」
自分でも驚くくらい、大きな声を出してしまいました。
余計なエネルギーは使いたくないです。
彼の思い通りになりたくないです。
「まぁ殺さないなら殺さないで、そうしてほしいね。俺、これからやることがあるからさ」
「……これから、何をするつもりですか」
「決まってるじゃん。化け物を作るんだよ──」
どんな言葉を吐くのか、どんな行動をしようとしてるのか、聞く前に分かっていた気がします。
だから、彼の答えを聞いた瞬間から、私は既にナイフを振り下ろしてしまいました。
何回も。
何回も何回も何回も。
ナイフを振り下ろしました。
血飛沫が舞い、彼の奇声が部屋を覆いました。
私がここで食い止めなければ、被害者は増えてしまいます。
なら今だけ私は悪者に、みんなが思っている殺人鬼にならなければなりません。
やがて、彼は動かなくなりました。
全て彼の思い通りに動かされた気がします。
台本通り、というやつでしょうか。
だって。
そうでなければ。
死んだ後も、彼が歪んだ笑顔を残すはずがありません。
……彼の言う通り、私はやはり死神人形のようです。
これではお兄さんに顔向けできません。
でも、こうするしかありません。
例え、死神だろうと殺人だろうと揶揄されようとも、私は正しい行動をしたと思いたいです。
──私の使命は人を救うこと、ですから。
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