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遅くなりました…!
# 第8話 桜の下で
その日は、
久しぶりにらんらんの顔色がよかった。
看護師さんが「今日は調子が安定してるから」と、短時間の外出許可をくれたらしい。
「……外、行ってみる?」
そう聞くと、らんらんは少し迷ってから、
ゆっくり頷いた。
病院の裏手にある小さな公園。
満開には少し早いけれど、桜は淡い色で風に揺れていた。
「きれい……」
らんらんがそう呟くのを、久しぶりに聞いた気がした。
ベンチに並んで座る。
距離は近いのに、触れないまま。
「……すち、ありがとう」
「なにが?」
「毎日、来てくれたこと」
視線は桜に向いたまま。
でも、その声は少し震えていた。
「俺ね……正直、怖かった」
らんらんは、膝の上で指を絡める。
「治らなかったらどうしようって。
すちの時間を奪ってるんじゃないかって」
胸が痛んだ。
「……だから、突き放した」
小さく息を吸って。
「それでも、すちは来てくれた」
そこで、らんらんはようやくこちらを見る。
「……どうして?」
桜の花びらが、二人の間を通り過ぎた。
俺は、深く息を吸う。
言わないって決めていた言葉が、
喉まで上がってきていた────。
「らんらん。」
「……付き合ってほしい」
らんらんの目が、大きく開く。
「友だちとしてじゃなくて」
心臓がうるさい。
「らんらんのことが、ずっと好きだった」
一瞬、時間が止まったみたいだった。
「……え」
らんらんは、何度か瞬きをしてから、俯く。
「……俺、病気だよ?」
「知ってる」
「つらい日も多いし……」
「知ってる」
全部、分かってる。
それでも、言わずにいられなかった。
らんらんは、唇を噛みしめる。
「……俺も」
小さな声。
「すちのこと、好きだった」
胸の奥が、じんわり熱くなる。
「でも……怖い」
「失うのが?」
らんらんは、ゆっくり頷いた。
「……だからこそ、そばにいる」
そう答えると、らんらんの目から、
静かに涙がこぼれた。
桜の下で、手を伸ばす。
指先が、そっと触れ合う。
握る力は弱いけれど、確かだった。
この気持ちは、病気じゃ消えない。
そう、初めて思えた日だった。
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