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「2年2組の望月千妃さん。生徒会室まで来てください」
それはちょうど六月の半ば、梅雨のまっただ中であるにも関わらず、よく晴れた日のことだった。
午前中の授業を終え、幼なじみの幸介と弁当を突いていたところ、教室に備えつけのスピーカーが急にそんな事を宣った。
昨今の事情から、都市部の学校ではこういった放送は控える傾向にあるという。
それはそうだ。みんながみんな、実名を全校生徒に宣伝されて喜ぶわけじゃない。
「おま……、また何かやったん?」
「いやたぶん無実だよ?」
「あー、いつものヤツ?」
「そうそう。困るよなホント」
眉を顰める幼なじみに対し、肩をすくめて応じる。
私個人のことなら別に構わないが、ここは望月家の名誉のために言わせてもらうと、これは確実にいつもの濡れ衣だ。
実際にやらかしたのは、ほんの数回ほど。それも1年の時の話である。
高校デビューではないが、我ながらすこし燥ぎすぎたのだと思う。あの頃は若かった。
もちろん、誰かに迷惑をかけるような内容じゃない。
「同じく2年2組の多賀見幸介くん。生徒会室まで来てください」
程なく、スピーカーが今度は幼なじみを名指しした。
ゆっくりと昼食をとることも出来ないとは、何とも世知辛い。
「また何かやった?」
「いやぜったい無実だろ?」
「だよね? ホント困るよな」
窓の外を見ると、梅雨の直中に期せずして広がった青空をのぞむ事ができる。
夏の気配は近い。
ジメジメと長雨が続くこの時季は、どうしても多くの人から敬遠されがちな印象がある。
しかし考え方を変えれば、これもひとつの準備期間と呼べるのではないだろうか。
今年の夏をどうやって過ごすか。 屋内から紫陽花など眺めつつ、ゆっくりと計画を立てることができる。
「ちょっとゴメンね? これマイクは……。OK? オッケー?」
まして、今日はこの天気だ。 来るべき夏に対する期待を、否が応でも掻き立ててくれる。
ゆるい熱気を含んだ薫風が、鼻先をふわりと掠めていった。
「二人とも早く来てください。1分以内に来ないと、二人の小っちゃな頃の話たくさんしちゃいますよ? すごく恥ずかしい話ですよ?」
途端、スピーカーが聞き慣れた声で恐ろしいことを宣った。
ご丁寧にも、“ごじゅーきゅー、ごじゅーはーち”などとカウントダウンが始まっている。
顔を見合わせた私たちは、兎にも角にも大慌てで教室を飛び出した。