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白山小梅
12
#借金
目を覚ました時、時刻は朝の四時を示していた。起きるにはまだ早いし、身体中がだるいし、何故か身動きが取れない。
昨夜何かあったっけーーいつもと違う感覚に、記憶を辿っていった七香は、全てを思い出して愕然とした。
そうだ、昨日は昴くんに部屋に誘われて、何故か流されるまま彼としてしまったのだ。ベッドの上での淫らな行為を思い出し、恥ずかしさのあまり両手で顔を覆う。
話をしたらすぐに部屋に戻るつもりでいたのに、実際には一線を越えて朝を迎えてしまった。一体何回しちゃったんだろうーー腰の痛みが昨晩の激しさを物語っている。
昴くん、起きたらどう思うかな……後悔するだろうか。それとも遊びのようなものだと割り切るのだろうかーーもし後者なら少し悲しい気もした。
彼が起きる前に抜け出す事も考えてみたが、体は昴の腕に強く抱きしめられ、出来そうにない。どうしたものかと悩んでいると、突然額に唇を押し付けられる。
「おはよう、七香……」
「お、起きてた……?」
「んー……まだ寝てる……」
目を伏せたまま答えたので、七香はつい吹き出してしまった。どうやら昨夜のことは忘れていなかったようで安心した。
「私そろそろ帰らないと。さすがに朝帰りはちょっと怪しまれちゃうし……」
「今帰っても、三十分後に帰っても、大差はないと思うよ」
確かに彼の言う通りかもしれない。今帰った方が、起こしてしまう可能性がある。七香は彼の腕の中で静かになった。
「じゃあ……三十分後に出ることにする」
「それならお喋りをしよう。昨日は出来なかったから」
「昴くんがなかなかやめないからでしょう?」
「……七香、本当に初めてだった? あんなにエッチに貪欲だと思わなかった」
「やだっ……そういうこと言わないで」
実は七香も同じことを思っていた。もちろん最初は痛かったし怖かった。それが休憩なく徐々に快楽を教え込まれ、気持ちいい感覚をすっかり覚えてしまったのだ。
とはいえ正気に戻れば、五年前に一度会っただけの男性と、再会した途端に体の関係を持って、今はお互いに裸のまま朝を迎えたことに不安も覚えた。しかし彼が意外と冷静な対応をしたので、七香の不安は心の中から消えていく。
「あのネックレス……まだ大事にしてくれてたんだな」
「あぁ、実はすごくお気に入りなの。ほぼ毎日つけてるかも。もう一つの買ってもらったのは少し大人っぽい気がして、まだ箱から出してないんだ」
あの後、家に帰ってから試しにつけてみた。だがどうも背伸びをしているような気がして、このネックレスが似合うくらい大人になれるまでは封印しとおこうと決めた。
でも本音は、心のどこかで自分と早紀を比べていたのだ。あのネックレスを見るたびに自分の幼さを痛感して、胸が苦しくなる。それならば、昴が選んでくれたネックレスをつけている方が、自分らしくいられるような気がした。
「そういえば昴くん、お医者さんにはならなかったの? 法医学を学んでるって言ってたけど」
「……七香、俺が医者に向いてないって言ったよな」
「ん? 言ったっけ?」
「まぁそんなようなことを言ったんだ。あれ、図星でさ。人付き合いが面倒な俺が、生きてる人間と向き合えるのかなぁって……。そんな時にアメリカの法医学のプログラムに参加して、すごくやりがいを感じたんだ」
「人付き合いが面倒なのに、あんなに女の子と遊べちゃうのね」
「まぁ俺からは誘わないし。来るもの拒まず、去るもの追わずがモットーだからね」
確かに昔も早紀以外と関わろうとはしなかった。本当の姿は早紀にしか見せないのだと納得せざるを得なかったのに、彼女以外の女性とも関係を持っていると聞けば、あまりいい気はしなかった。
ただこうして自分の話をしてくれることに、ささやかな喜びも感じる。
「法医学の道に進むの?」
「そのつもり。学位はアメリカで取るけど、まだその先は決めてない。七香は?」
「私? 憧れていた化粧品会社に内定もらってるの。だから四月からは新社会人だよ」
すると昴は何か考え込むように口を閉ざし、七香をじっと見つめた。
「何て会社?」
「トーコーっていうの。男性でも名前くらいは知ってるでしょ?」
「へぇ、そうか、トーコーか……」
「なぁに? なんか意味深な反応」
「いや、あの高校生だった七香が社会人だなんてと思っただけ」
「そうそう。もう子どもだなんて言えなくなるんだから」
「言わないよ。こんなに大人っぽいのに言えるわけがない。だって子どもにこんなことしたら犯罪だし」
微笑んだ昴を見て、七香の胸は熱く締め付けられた。きっと昨夜の出来事を後悔することはないだろうと思えた。
「そろそろ服を着ないと……んっ……」
彼の腕から出ようとしたが、その途端唇を塞がれる。
「あと一回だけ」
自然と触れ合う唇の感触を覚えてしまったーー受け入れてもらえなかったキスを思い出せないくらい。キスだけで腰が砕けてしまう。
だが七香は昴に抱かれながら、彼が別の感情を抱いているような気がしてならなかった。七香に早紀を重ねているように思たのだ。
昨日は本当は早紀と会うはずだった。早紀を想いながら七香を抱いたのではないだろうかーーそう思うと悲しいのに、初めてのキスもセックスも相手が昴で良かったとも思う。
五年経った今も心を占めるのは彼で、きっと一生彼が心から消えることはないに違いない。だからこそ、七香は昴の腕の中であることを誓ったのだ。
「これが最後だからね……」
昴の言葉に応えるように、そして自らの決意を心に刻むように、七香は彼の首に手を回した。
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