テラーノベル
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掴まれていた腕の力が、微かに緩む。
それから、直哉は静かに口を開いた。
「兄さんは……」
「……」
「俺と付き合ってること、誰かに知られるのが恥ずかしい?」
「は!?」
思わず、弾かれたように顔を上げた。
直哉の顔を見ると、あいつはひどく切なそうに、今にも泣き出しそうな歪んだ笑顔を浮かべていた。
「んなわけあるか!恥ずかしいわけねぇだろ、バカ!」
「じゃあ、なんでそんなに嫌そうな顔して俺を拒絶するの」
「嫌じゃねぇよ……!嫌なわけ、ないだろ…っ」
声が、情けなく掠れた。
違うんだ。嫌だから避けているんじゃない。
むしろ、あいつのことが好きすぎて、この関係が愛おしすぎて
失うのが死ぬほど怖いから、どうしていいか分からなくて逃げていただけなんだ。
すると直哉は、俺の必死な言葉に少しだけ救われたように
ふっと困ったように、けれど愛おしそうに目元を和らげた。
「俺さ」
「……」
「兄さんと付き合えて、毎日が本当に、奇跡みたいに幸せなんだよね」
「っ……」
「だから、学校で他人のフリをされたり、存在を隠されたりすると……ちょっと、いや、かなり寂しい」
その声が、あまりにも優しくて、温かくて。
自分の身勝手な恐怖のせいで、世界で一番大切にしなければいけない恋人を
こんなにも傷つけていたのだと突きつけられて、胸がぎゅっと、引きちぎられるように締め付けられた。
「……ごめん。俺、お前の気持ち、全然考えてなかった」
小さく、掠れた声で謝罪の言葉を口にすると、直哉はゆっくりと首を横に振った。
「謝ってほしいわけじゃないよ。兄さんが俺との未来を心配して、怖がってるのも分かったから」
「直哉……」
「ただね、俺、学校でもどこでも、兄さんの恋人なんだって……ちゃんと兄さんから感じていたいんだ」
真っ直ぐな、一点の曇りもない言葉。
もう、この男から逃げることなんてできない。
俺は俯いたまま、制服のズボンの上で、ぎゅっと爪が白くなるほど拳を握りしめた。
怖がってばかりで、大好きな奴に寂しい思いをさせて、背中を向けて。
そんなの、格好悪すぎる。
俺だって、直哉のことが好きだ。
ちゃんと、あいつが呆れるくらいに、すげぇ好きだ。
だから。大切なものを守るために、これ以上あいつの手を離して逃げたくない。
「……直哉」
「ん?」
「明日」
心臓がうるさいくらいに鳴り響く。喉が緊張で小刻みに震えた。
「……放課後、屋上来いよ」
直哉が、今度こそ本当に驚いたように綺麗な目を丸くした。
「兄さん……?」
「……お前に、ちゃんと話したいことがあるから。だから、絶対に来い」
それだけを一気にまくしたてると
俺は掴まれていた腕をすり抜け、直哉を置いて先に大股で歩き出した。
夕暮れの風が顔に吹き付けるが、一向に熱が引かない。
背中には、直哉の熱い視線が突き刺さったままだ。
おそらく今、俺の顔は耳の先まで真っ赤に染まっているに違いない。
でも。
胸の奥のモヤモヤは、嘘みたいに消え失せていた。
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