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「アカシック…レコード?」
「そうだよ、アカシックレコード。君が厨二病の時、検索していたものの一つだよ」
アカシックレコード。いわば、世界の理について綴られている書。これに書いてあることは絶対。何も間違いがない…だが、なぜそんな凄い本が学校にあるんだ?
「お前が?つまり全て書いてあるのか?」
「落ち着けって。僕がその断片だよ」
「断片?」
「僕は世界各国、もしくは別の次元に散らばっているんだ。言うなれば、こんな日記でも1ページに過ぎない。」
辞書よりは薄いが、割と日記は分厚い。それなのに1ページだって?
「それって日記っていうのか?」
「細かいとこは置いといて、僕はその書の1ページなんだ。さあ、せっかく見つけてくれたんだ。これも何かの縁だよ。僕が一冊に戻るのを手伝ってくれないかな?」
いきなりこんなことを言われ、頭はすでに混乱状態だ。きっと厨二病の時の俺ならYESと答えただろう、だがしかしbut今の俺は違う。
「悪いけど、手伝えない。黒歴史を思い出したくないんだ、他を当たってくれ」
「え、そんな返事初めてなんだけど!?」
日記が動揺したようで、さらに捲し立てる。
「もちろんタダじゃないよ!ええと…そうだ、アカシックレコードは未来のことまで記述されているから、君の未来を教えてあげる、それで君は不運な結末を回避するんだよ!それでいいかい?」
「報酬じゃない。やりたくないって言っているんだよ」
俺がすっぱり切り離すと、なぜだか相手は黙った。言い過ぎかもしれないが、これでいい。
「それじゃ、元の位置に戻しておくぞ」
脚立を登り、他の辞書が挟むようにして日記をしまう。せめてもの見つからないように。俺なりの気遣いだった。
「じゃあな」
「…」
日記は何も言わない。そこが不気味だった。
俺は家に帰って、そのまま自室に引き篭もった。あれから、日記のことばかり考えていた。
アカシックレコード…自分がそれに出会ったなんて、信じられない。まだ夢の続きなんじゃないかと思うほど。それに授業中に見た夢も気になる。偶然とは思えない。
父さんも母さんはまだ帰って来てない。(共働き)腹が鳴るが、それよりも眠気が強い。髪をくしゃくしゃにかきあげ、そのままベッドに突っ伏し、眠りに落ちた。
「…ん?」
俺は目を開ける。ほのかに香る花の匂いと、川のせせらぎに起こされる。これは…夢だ。授業中に見た夢の続き。一面に広がる花畑を眺めて、頭では何とも言えない気持ちが込み上げてくる。
「あれ」
日光をたっぷり浴びた茶髪を を前に垂らし、真っ白なワンピースを着た女の子が立っている。
「ぎゃあああ!!」
驚いた俺は叫んでしまった。女の子は何をするというわけでもなく、佇んでいる。日記を抱えて。特別、何かに驚いたわけじゃない。
だってその子は…
「うわあああ!!!!」
俺はベッドから落ちた。まともに腰を打ち、もんどり打って倒れる。痛みに体を丸め、しばらくうずくまっている。
…おかしい。痛みがこんなに続くなんて。身体からは何かが這い上がるような気持ち悪い感触とともに、頭の中をいじりまわされているような痛みが俺を襲った。
俺は頭を抑え、ひたすら唸っていた…
どれだけ経ったのだろう…。
気づいた時には痛みがなくなり、身体が自由に動かせるまでになった。
「…はぁ…」
頭を抑えていた手を離す。
「…は?」
髪の毛が抜けている。確かに俺の髪だ。束となって、床にも散らばっている。慌てて頭に手を触れると生えている。大きな足音を立てて、階段を降り、洗面台につき自分の顔を見つめる。
「おい…何でだよ…嘘だろ…」
俺は言葉を失った。
頭に生えた三角耳。髪を分けるように生えており、犬や猫を思わせる。そして黒い髪に変わって赤茶色の髪が生えている。爪はやや伸びており、赤みを纏っている。目の色も鮮血のような赤色になっている。
「な、何でだよ!」
慌てて風呂に入り、身体や頭をガシガシと洗う。しかし、そんなもので治るはずがなかった。
風呂から上がり、再び鏡と向き合うが、結果は一緒である。
「ど、どうすれば…」
俺は自室に戻り、パソコンを開く。これは何かの病気の一種だろうか?ネットの記事や掲示板では頭からツノが生えて来た、やさまざまな都市伝説の話が渦を巻いている。
それから何を思い出したのか、俺は自分の本棚から一冊の漫画を取り出す。その漫画はメイドインアビス。確か同じ症状があったはず。
「人間性の…損失…」
残念ながら当てはまらない。
しかも、これは上昇負荷だ。俺は上昇していない。
じゃあ何なんだ。
…いや、原因はあれしかない。
俺は適当にハンガーからパーカーを引っ掴み、家を飛び出した。
今日は満月の夜。月は地上を淡く優しい光を放って照らしている。その下を、俺は全力で走っていた。運動は元から得意だが、ここまで疲れないなんてことは今までなかった。
そして俺は学校に来た。
学校の校門には鍵が取り付けられている。
その鍵を壊す…わけではなく、門を軽々と乗り越えて侵入する。そのまま夜の校庭に侵入し、図書室まで階段を駆け上がる。
図書室の扉は閉まっていた。だが、爪の一振りで簡単に壊れた。脚立を使う必要もなく、少し腕を伸ばしただけで日記を掴めた。
「やあ、また僕と口を聞いてくれる気になった?」
日記は変わらない調子で答えた。
「教えてくれ、何で俺はこんな姿にされたんだ」
しばしの沈黙の後、日記は話し始めた。
「何でかって?面白いことを聞くもんだね…いいよ、教えてあげる…僕がアカシックレコードの一部ということは話したよね?」
「信じてはいないが、まあ」
「アカシックレコードはこの世の全て森羅万象を記したもの。それを人間の君が壊したらどうなるかなぁ?」
「…許されない、だろうな」
「大当たり、だから君は姿を変えられてしまったのさ…人間からかけ離れた、オオカミ人間…つまりは、”人狼”にね。戻ることはないだろうね」
「人狼…!」
俺はショックを受けた。だから満月は気分がいいのか。一生このままだって?そんなのは嫌だ。
「だいぶショック受けたみたいだね?安心して、治らないなんてことはないさ」
「…本当か?」
耳を疑った。こんな姿になっても、治る方法があるだって?
「うん、本当。僕は嘘をつけない。故に感情がないから。君達のいうことに従うのみさ」
「どうすれば、治るんだ?」
「さっき言ったように、僕、つまりアカシックレコードの書を全て集めるのさ」
さっき、確かにこいつは言っていた。
「どうすれば、それは見つかるんだ?」
「僕もわからない。でも、近くにあれば探知機みたいに感知するよ。それに、アカシックレコードは同じ場所に存在するなんてことはないから、色々な世界を飛ばないといけない。君の犯した罪の償いにぴったりだと思うし、お互いwinwinさ」
一気に捲し立てられた。そしてこいつは償いにぴったりだと言っていたか。確かにそれならいい取引だ。だが…
「それって、リスクを伴うか?」
「最悪の場合、死ぬかもね。でも、どのみち探したほうがいいよ?」
死。
言葉だけだとあまり実感もない。
「…少し考えさせてくれないか?」
「もちろん。君が飽きるまで考えていいよ」
とりあえず日記を本棚に戻すわけにはいかず、しっかりと抱きしめて帰った。
帰ってからは寝ようとも思わず、ずっと日記に話しかけ続けていた。日記は話しかけられると答えてしまうようで、俺が眠くなるまで付き合ってくれた。
「なあ、日記。」
「なーに?」
「具体的に人狼って何だ?」
「神話や伝承にもある通り、狼に変身できる人間のことさ。君は満月の時は意思のある狼人間に、普段は三角耳と尻尾、赤い目が特徴的な少年として見られるだろうね」
「へぇ…じゃあ、アカシックレコードは?」
「元始からのすべての事象、想念、感情が記録されているという世界記憶の概念のことさ。さっきからずっと”書”と表していたけど、正確に言えば図書館というべきかな?、神智学創始者である、ヘレナ・ブラヴァツキーが作ったとされているが…この世界と管理している人は別さ」
「アカシックレコードって、どこにあるんだ?」
「ざっと…10以上かな?いろんな人たちが探し回るからね」
「探し回る?そりゃ一体何で…」
「い、一体…!」
「見つけたぞ…アカシックレコード!」
急に窓ガラスが割れ、動揺する日記と俺、
そして…