テラーノベル
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ビルの外に広がる朝焼けは、あまりにも美しく、そして残酷だった。
隣で私の手を握る蓮の小さな手は、まだ小刻みに震えている。
九条さんは、ボロボロになったトレンチコートのポケットからタバコを取り出そうとして
その手がひどく汚れていることに気づき、苦笑いして手を止めた。
「終わった……んだよね、お姉ちゃん」
蓮の掠れた声。
私は頷こうとして、ふと自分のスマートフォンに視線を落とした。
画面は真っ暗だ。美波がシステムを破壊し、パンドラというアプリはこの世から消え去ったはずだった。
だが、私の網膜には、消える直前の画面に表示された「ある数字」が焼き付いて離れなかった。
【パンドラ:完全消去まで……残り 9,999時間】
(消えていない。美波がやったのは、単なる『再起動』に過ぎないんだ)
◆◇◆◇
数日後
私たちは、九条さんの手配で、人里離れた古い別荘に身を隠していた。
表向き、私は「療養中の被害者」
蓮は「行方不明の少年」として処理されている。
世間では、あのオークション会場での狂乱は「集団ヒステリーによる事故」として片付けられようとしていた。
だが、平和な日常は、一通の「実物」の封筒によって破られた。
郵便受けに入れられていたのは、宛名のない真っ赤な封筒。
中には、一枚の集合写真が入っていた。
それは、10年前のあのクラスの集合写真。
美波、エリカ、沙織、真由美、愛華……そして、私とミチル。
奇妙なのは、その写真の中で、すでに死んだはずの者
行方不明の者たちの顔に、赤い×印がつけられていることだった。
そして、まだ生きている私の顔には、青い○印。
だが、もっとも戦慄したのは、写真の端。
10年前、そこには誰もいなかったはずの「教室の隅」に、知らない男が立っていたことだ。
その男は、私の父・誠によく似た、けれど決定的に違う「冷たい虚無」を瞳に宿していた。
「……九条さん、これを見て」
私が差し出した写真を見て、九条さんの顔から血の気が引いた。
「……バカな。…この男は、私の元上司だ。10年前に殉職したはずの、警視庁の……」
その時、別荘のテレビが、電源も入れていないのに勝手についた。
画面に映し出されたのは、更生施設にいるはずの美波の姿。
彼女は、檻のような部屋の中で、虚空を見つめて呟いていた。
『……栞。ごめん。…消せなかった。パンドラは、アプリじゃない。……この国の、血液の中に流れているんだ』
美波の首筋に、蜘蛛の巣のような黒いアザが浮かび上がる。
それは、かつて父が「暗号」を刻んだ際に見せた、拒絶反応の痕跡だった。
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深冬芽以