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#主人公最強
かませ犬S
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#転生
歯磨き粉
886
レクトとフローラの決闘の話はすぐに広がり、学院長の知るところになった。
生徒と教師の決闘というのは想定していないものだったが――
……事情を知った学院長は、これを許可した。
彼は既に87歳という高齢であり、賢者の職才を持っていた。
彼の名前……賢者グランフェルといえば、この国でも知らぬ者がいないほど有名である。
「――ただ、レクト君にはメリットは無いだろう?」
修練場に立つレクトに、学院長は言葉を掛けた。
それに返事をしたのは、レクトの後ろにいたセシリアだった。
「確かに、フローラ先生の悪事は知れ渡りました。ただ、彼の――剣聖への夢を砕こうとしたのです。
それなら、相応の報いを受けるべきではないでしょうか」
「ふむ……。学院のルールではなく、か?」
セシリアが頷くと、レクトも言葉を続けた。
「俺も最初、学院のルールで決着をつければ良いと考えていました。
ただ、俺が過ごした1年……剣術ができなかった時間は、戻ってこないんです」
「剣の恨みは、剣で晴らす――と?」
学院長は、少し離れた場所に立つフローラに視線をやった。
学院という組織の中では、彼女は学院長の部下である。
そのため、思うところはやはりあるのだろう。
「勝ち目は――
……などと、聞くことはしないよ。全力で戦いなさい」
「はい!!」
フローラは愛用の剣を何度か振ってから、レクトを鋭く睨みつけた。
レクトは、入学のときに持参した剣を鞘から抜いた。
「レクトさん……。その剣で、よろしいのですか?」
「俺の剣は、こいつで止まっているんだ。だから、またここから始めるのさ。
……まぁ、全力で戦うよ。フローラ先生の強さは知っているけど――」
レクトは剣聖の職才を持っており、フローラは剣士の職才を持っている。
しかし、強さとしての差が生まれるのは、剣聖として――剣気を発現させてからの話だ。
単純に剣を振るうだけなのか、そこに強大な力を乗せていくのか。
剣に剣気を乗せることができれば、巨木などは簡単に斬り倒せてしまう。
……ただ、その剣気をレクトはまだ発現させていない。
そのため、この決闘は剣術での戦いになるのだ。
「……わたくしが、レクトさんの右足をサポートします」
そう言うと、セシリアはレクトの前で跪き、彼の右足に両手をかざした。
静かな輝きが、レクトの右足を包み込んでいく。
「局所の、身体強化の魔法……?」
「はい。前にお伝えしましたでしょう? わたくしが、レクトさんの右足をサポートします」
「でも、バランスが難しくて――本人以外には、調整が難しいんじゃなかったっけ?」
「ふふっ。わたくしは例外です。
こう見えて、かなりの実力者なんですのよ? それに――」
「うん?」
「わたくし、恋人募集中ですの」
「お、おう……?」
学院長はレクトたちとフローラの様子を確認してから、一歩前に歩み出た。
「それではこれより、決闘を執り行う。立会人は、本学院の学院長――
グランフェル・アドラムが担当する。両名、異存はないな?」
レクトはしっかりと頷き、フローラは仕方が無さそうに頷いた。
彼女からは既に、優しい教師の仮面は外され……恨みがむき出しになっている。
……決闘の場である修練場には多くの教師に加え、多くの生徒も見にきていた。
学院生活でもかなり珍しい事件……それを見逃す手はない。
「レクトッ!! がんばれーっ!!」
そんな中、エステルの声が聞こえてきた。
どこにいるかは分からない。ただ、レクトは右の拳を掲げる。
レクトとフローラの剣には、魔法が掛けられた。
この決闘は殺し合いではない。そのため、刃の切れ味を極限まで落としたのだ。
……しかし、思い切り振った剣が当たれば骨は砕ける。ただ、死ぬ可能性は下がる。
「――それでは、始めッ!!」
学院長の言葉と同時に、フローラが剣を突いてくる。
同時に、レクトの右足に力が湧いてくる。
これなら――
レクトは力強く踏み出し、フローラの剣を上に弾いた。
金属が打ち合う音が響き、一気に緊張感が増していく。
「……ちっ! 初撃を合わせるなんて、生意気な!!」
「ええ。フローラ先生の剣も、冴えていますね」
言葉を交わし、数度、打ち合わせていく。
さすがに経験を積んでいるだけあって、フローラの動きはレクトを翻弄する。
「――フローラ先生。俺、もっと先生から教わりたかったんですよ」
「決闘の最中に、ぺちゃくちゃと……!!
追い詰められてるのは、お前だぞ!?」
「そうですね。だから、一気にいきます――」
フローラの隙は見つけられなかったが、レクトは全力で踏み込んだ。
レクトの剣は強引に、フローラの剣を弾き飛ばして――返す刃で、彼女の右腕に襲い掛かっていく。
そして、骨の砕ける音は……歓声の中に掻き消されていった。
「がああッ!? 腕が――ッ!!」
「……さようなら。フローラ先生」
さらに大きな歓声が響いていく。
それに負けない大きさで、学院長の声が響き渡った。
「――それまで!! 勝負あったッ!!」
レクトは地面に倒れるフローラを一瞥する。
かつて自分が尊敬していた教師の姿は、そこにはもう無い。
生徒に負けた教師の姿だけが、そこにあった。
レクトとセシリアは、後のことを学院長に任せて、校舎に戻ることにした。
ただ、その後ろで――
「ちょっと!?
何でセシリアさん、レクトの腕に抱き着いてるの!?」
――エステルの不満が、歓声に混じって聞こえてきた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
レクトとセシリアは、学院内の応接室にやって来ていた。
今日はどこにいても目につくということで、学院長から許可を得ていたのだ。
「……あのさ、セシリア。そんなにくっついていると、誤解されちゃうぞ?」
「ふふふっ、良いじゃないですか。
わたくしとレクトさんの仲なんですから……」
そこに、エステルが勢いよく入ってきた。
「きゃーっ!? 密室で何やってるのよ! 変態!!」
「え? いや……俺は何も――
……ほら、セシリアも!!」
「もう、良いところでしたのに……。
ところでレクトさんは、エステル様とお付き合いをされていますの?」
セシリアの言葉に、レクトとエステルは慌てた。
「い、いや!? 俺とエステルはそんな関係じゃ――なぁ!?」
「そ、そうですよ!! 私とレクトは、ただの幼馴染で……!!」
「それなら、わたくしとレクトさんがお付き合いしてもよろしいのでは……?」
「お、俺は今、剣聖の道を歩んでいるところで……!」
「それを言うなら、わたくしだって聖女の道を――」
「はいはい! とりあえずこの話は中断!
はい、多数決! 中断したい人!!」
その言葉に、レクトとエステルが手を挙げた。
それを見たセシリアは、渋々とレクトから手を離す。
「――はぁ。それでは悪ふざけは止めておくことにしましょう」
「それが良いですよ! レクトが勘違いしちゃ、いけないし!!」
「まぁ……そういうことにしておきましょう。
レクトさん、決闘お疲れ様でした。エステル様も、応援ありがとうございます」
「あ……、はい。突然決闘だなんて話が聞こえてきたから、慌てて、慌てて……。
それで一体、何があったの?」
レクトはエステルに、食堂での出来事を伝えた。
その流れで、セシリアはレクトに質問をする。
「――ちなみに懺悔室での録音は、どうやったのですか?」
「あれは、錬金術の魔導具でな。
……その、知り合いの錬金術学科の先輩から借りたんだよ」
「ふむ……。館内放送で流したのも?」
「あれは食堂のスピーカーだけジャックしたんだ。同じく、そういう魔導具を借りて……」
「危ないものを借りたのね……。その先輩って、大丈夫な人なの?」
「いや、なかなかクセがある人なんだけど――
でも、実力はピカイチなんだよ」
「わたくしは面識がありませんが、多分、ディアナ様のことですよね?」
「うん。やっぱり、有名だよな……」
残念ながら、知らないのはエステルだけだった。
それにしても、魔導具を復讐という目的のために貸し出す先輩――
「……レクトは、何か求められなかったの?
ただで貸してくれたわけじゃ、ないんでしょ?」
「もちろん……。ひとつ、頼みごとをされてね」
「また、厄介なことに巻き込まれないでしょうね……?」
エステルはふと、セシリアを見ながら言ってしまった。
そんなセシリアは、レクトを真っすぐに見て言葉を続ける。
「エステル様は、わたくしが憑依されるのを気に入らないようです。
レクトさんも、そろそろレポートを出して頂けますか?」
「あぁー……。一応メモは取ってるんだけど、まとめきれてないんだよな……」
「それでしたら、何回でも憑依して頂いて構いませんわよ?」
「ダメダメ! 気軽に憑依するのはダメです!!」
セシリアの提案に、エステルが割って入ってくる。
「はぁ……。それでは、エステル様の憑依体験も聞いておいた方が良いかしら?」
「な、何でそうなるんですか!?」
「わたくしとエステル様では、憑依に対する見方がまるで違うでしょう?
……わたくしは少しばかり、難しく考え過ぎているのかもしれません。
だから普通の人は、あれをどういう風に感じるのかな……と思いまして」
セシリアが静かに、エステルに近付いていく。
エステルは何となく距離を空けようとするが、それでもなお詰め寄られ――
「ちょ、ちょっと!? レクト、助けてよ!!」
「いやぁ、エステルはセシリアに憧れていたんだろ?
いい機会じゃないか。仲良くしろよ」
「そんな、無責任な!!」
「エステル様?
わたくしとあなたの仲のことは、レクトさんには関係がないでしょう?」
「うあぁ……。私の中で、セシリアさんのイメージが変わっていく……」
そんなふたりを眺めながら、レクトは仕方の無さそうにエステルに言う。
「……はぁ。そろそろ、修練場には誰もいなくなったかな?
エステル、少し手合わせをしないか?」
「あ、そうだね……! それじゃセシリアさん、今日はこれで……」
エステルの言葉に、セシリアの目がきらりと光る。
「レクトさん、わたくしも付いていってもよろしいですか?
右足に魔法を掛けることもできますよ?」
「うぁ……。それは魅力的な提案……」
「ちょっと、レクトぉ!!?」
「ま、まぁ良いじゃないか!
エステルも、身体強化の魔法に慣れておくのは良いと思うぞ!?」
「そ、それはそうかもだけどぉ――」
応接室を出て行くレクトとエステル。
それに付いていこうとするセシリア。
完璧な聖女――そんな仮面を付けていたセシリアにとって、レクトとエステルの関係は羨ましかった。
憑依スキルに興味を持っていた彼女だったが、いつの間にか、そんなふたりにも興味が移り――
「うふふっ。これから、楽しくなりそうですわね♪」
セシリアはふたりに聞こえないように……静かに明るく、呟くのだった。
コメント
1件
やっと決着がついたね…!レクトの「さようなら」って台詞がすごく胸に刺さったよ🥺 フローラ先生への想いが詰まった一言だった。セシリアの「恋人募集中」発言には笑ったけど、あの後エステルが嫉妬してるの可愛すぎ〜😭💕 三角関係、今後の展開がますます気になる!!