テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
激しい狂乱の波が静まり返った後、FORSAKENの最奥の領域には、ただ荒い呼吸の音と、重なり合う肉体から立ち上る微かな熱気だけが残されていた。
周囲を満たしていた濃密なエラーデータや影の触手はすっかり影を潜め、あたりは再び絶対的な静寂と暗闇に包まれる。
不揃いなR15フレームの継ぎ目を軋ませ、心身ともに完全に疲弊しきったRigは、ぐったりと力なくスペクターの腕の中に身を預けていた。
スペクターは、乱れた髪を湿らせた兄の頭部を、まるで壊れ物を扱うかのように優しく、愛おしそうにその指先で撫で続けていた。
冷酷な領域の支配者としての仮面は完全に剥ぎ落とされ、そこにあるのはただ、手に入れた宝物を誰にも渡すまいと抱え込む、幼くも執着に満ちたひとりの「弟」の姿だけだった。
「いつか……君が、自分にぴったり『合う』体を手に入れたとしてもね」
静寂を引き裂くように、スペクターの低い、しかし底知れぬ甘さを孕んだ声が暗闇に響く。
その瞳には、かつて『The Nest』で親に見捨てられた恐怖を二度と味わうまいとする、狂気的なまでの独占欲が深く湛えられていた。
「その前に、僕が君を完全に満たしてあげる。君の隅々まで、僕の痕跡で塗りつぶしてあげる」
いつの日かRigが自分に合う体と居場所を見つけ、青むしが蝶へと羽ばたいていくような自立の未来。
それらの可能性を、スペクターは心の底から拒絶していた。
美しく変貌して、自分の手の届かない遠くへ行ってしまうくらいなら――。
「不完全な青むしのままのほうがいい。サナギの殻に閉じ込められたまま、二度と誰の元へも、どんな空へも飛んでいけないように……僕が君をここで永遠に繋ぎ止めておくから」
スペクターは微笑んだ。
それは冷酷な支配者の笑みでも、神格の慈悲でもない。
ただひたすらに歪み、純粋すぎる、圧倒的な「囚われの愛」の表情だった。
深く重なり合ったままの結合部から、再びかすかな熱が脈打ち、眠りに落ちかけていたRigの意識を心地よい痺れとともに揺さぶる。
スペクターはさらに深く、逃げ場のない奥底へと自身を滑り込ませ、あたたかなエッセンスをその内に注ぎ込んだ。
「ん……ぁ……っ……」
微かに身悶え、夢の中でもすがるようにスペクターの衣服を掴む兄の姿を確認すると、スペクターは満足げに目を細めた。
足元にはシルクハットが静かに転がっている。
世界から見捨てられた者同士の、終わらない孵化の儀式。
二度と外の世界へ羽ばたく必要などない。
この暗く温かい奈落の底で、二人は永遠に互いの体温と狂気に溺れ続けるのだ。
スペクターは深く重なり合ったまま兄を抱きしめ、暗闇の中で満足げに微笑み続けるのだった。
END
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
#Vanity
ゆ♨️
1,897
べっこう雨
174
あめ猫@絵チャ依存症マン
8,549