テラーノベル
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土曜日の朝、私は小さなキャリーバッグに自室の荷物を詰め込んだ。
「これ……どうしよう」
昨日、篤久様にもらったキャンディー缶と、もう空になったキャンディー缶を両手に持って眺める。
「楽しかったです……」
いちご狩りを思い出すとキャンディー缶の柄が霞んで見えたので慌てて天井を見上げる。
そして缶が傷つかないよう、あの日篤久様が買ってくれた服にふたつの缶をくるんでキャリーバッグに入れると、ファスナーを閉めた。
これであとの荷物は、パソコンやタブレットが平机にあるのと、椅子に着替えが一式あるだけ。
「帰ったら……お母さんたちどう言うかな……」
決して褒められないこととは分かっているけれど、自分の起こした事件を忘れて、尚、人を見下し嘲笑うような遥香と、一緒になって笑い、愛人になれなどと言う池田を私は決して許さない。
私は投稿予約を確認して、またフォロワー数が増えていることも見てから業務を開始した。
「奥様と遥香様はお留守番みたいね。出掛ける用意をしていないみたいだもの」
朝食の片付けをしながら、広瀬さんが小声で言う。
「そうですか…」
「まあ、あの感じだったからお断りの方向で中園建設工業の社長が本人と出るってことなんでしょうね」
お見合いの結果に関係なく、このあと騒がしくなるに決まっているから、広瀬さんへの返事にも困って私は曖昧に頷いた。
「でもまあ、結婚もインスピレーションとか勢いとか、いろんなことを言う人がいるからね。会えば何かが始まるってことも、無きにしも非ず」
物知り顔でそう言った広瀬さんに
「ご飯が残っているみたいですけど……お昼、焼き飯にでもします?残り野菜を切っておきましょうか?」
と聞いておく。
私はその時間にはここを出されていると思うけれど、田中さんがもう来る時間で、広瀬さんと田中さんのまかないは必要だ。
「うん、そうしよう。適当にお願いします。私は洗濯に行くね。あとのアイロンはお願い」
「はい」
広瀬さんは、業務の中でアイロンがけが嫌いなので、私がやる。
そう考えると……家事しか出来ないからと高校卒業時に選んだ就職だったけれど、私はどれも嫌いではないな。
だから転職も出来たし、目的達成は目前だ。
キッチンを出て、ダイニングの椅子を全部動かしてから、第一家事室へ掃除機を取りに行く途中で
「使用人は使用人らしく、大人しく働くのがお似合いだわ、真奈美」
と初日と同じように、螺旋階段から遥香の声がした。
今日ここで初対面と同じシチュエーションなのは、別れの挨拶みたいね…
「もうお兄様は大門様と会った頃かしらね。いい報告を聞いて、お祝いは賑やかな方がいいでしょ?だからもうすぐ亮一も来るはずだけど、まだね…」
遥香はそれを見に来たのか……池田も来るのは好都合よ。
【奴隷家政婦】の暴露で、二人がどんな反応をするのか見られるってことだもの。
「あ、そうそう。あの痴漢騒ぎね……」
冤罪事件のことを痴漢騒ぎで済まさないでっ!
「大したことではないのよ」
はっ?大事件でしょ?
何を言うのか……私は遥香を睨みつける、もう…遠慮なく睨みつけてやる。
「あの日ね、定期テストの日だったのよね。で、全然テスト勉強が出来ていなくてテストを受けたくなかったのよ」
この女の魂はどこまで腐っているのか……私は自分の額に汗がにじむのを感じた。
「それで通学途中にトラブルがあれば、学校へ行かなくていいでしょ?って知恵を働かせたのよ。痴漢された!って、誰かの手を掴んだってわけ」
そんな幼稚な、くだらない理由で私たち家族はずっと苦しめられていたの……?
コメント
6件
は?そんなことの為に? 許せーへん😠
浅はかな貴女の考えで真奈美ちゃん一家がどんな風に生きて来たのか,絶対許される行為では無いよ…地獄の果て迄行って塗炭の苦しみを味わうがいい😡😡😡
そんな理由で!!この先の長い人生で死んだほうがマシというくらいの地獄をみてもらいましょう😠😠😠😠😠