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小6の時。紅の性格がよく出た出来事があった 。
俺にとっても忘れられない事件だった。
思春期に入り始めた当時の俺らは身体の変化だの恋愛だのに夢中になって、大人ぶっていた。
特に恋愛に関しては異様なまでに盛り上がった。
勿論、女子の方が盛んだった。だけど、この年齢の男子にしては本当に盛り上がってたと思う。
紅はあんまり興味は無かったらしいけれど、悔しいことに結構モテていたのだ。
ある日の放課後の事だった。
「お前告白されたのか!?」
「うん、近くの席の子から」
「いーなー!羨ましい!」
紅は男子から可愛いと評判の女子に告白された。誰も居ない空き教室で初恋だと告白された後、走り去ってしまったらしい。
これだけだったら、ただ紅のモテエピソードを語っているだけで終わったが、問題はここから。
告白してきた女子はクラスの中心にいる奴の好きな人であったのだ。
クラスの中心っていうか、力で物言わせている奴だったのだが、紅が告白され、振ったことを知ったそいつは紅に嫌がらせをするようになった。
あいつは先生にバレないように、授業中に嫌な言葉を書いた手紙を渡したり、物を隠したりしていた。
紅は最初、全く気にしていなかった。俺は正直かなり心配していたが、紅の様子も見て大丈夫だと思っていた。
毎日のように行われる嫌がらせに紅の心が擦り減っているとも知らずに。
それは突然だった。紅が嫌がらせをしてきたあいつを急にぶん殴ったのだ。
その時は昼休み。先生は居なかった。
とても鈍い、嫌な音が聴こえて、振り返ってみると、あいつが頬を押さえ、尻餅をついていた。
殴ったのだとすぐに分かった。
次に聴こえてきたのは煩い悲鳴だった。大方、現場を見ていたクラスメイトの女子のものだろう。
その場は悍ましい程、静かになった。紅の顔はよく見えなかったが、泣いている気がした。
昼休みはそのまま終わった。先生が教室に来るなり、あいつは半泣きで先生に何か言い始めた。
そして、あいつと紅は先生と一緒に教室を出ていき、残された俺達は自習になった。
少しすると話し声が聞こえ始めた。事件の詳細を知りたがってる人や紅やあいつの事を話している人がたくさんいた。
「紅君、何であんなことしたんだろうね?」
「何か嫌がらせされてたらしいよ?殴られたあいつ、好きな人がいて、その好きな人が紅君に告白したって聞いたよ」
「え〜!紅君悪くないじゃん!」
近くで聞こえたそんな声に俺はいつの間にか苛ついていた。何に苛ついるのか分からなかった。
6時間目になり、紅とあいつは戻ってきた。どちらも目に涙が浮かんでいたが、あいつの事など全く気にならなかった。
心配だった。紅があんな事になったのを俺は始めて見た。嫌なものが俺の胸を蠢いていた。
俺達は一言も喋らずに雨降花の咲く道を帰り始めた。俯きながら歩く紅に声をかけようとしても中々、出来なかった。
雰囲気が全く違った。優しくて、真面目な紅が何処かへ行ってしまったようだった。
このままじゃ、何かが駄目だと思った。俺は勇気を振り絞り何とか紅に声をかけられた。
「紅…先生と何話したんだ?」
「別に。僕が悪いってことで話がついた」
「はぁ!?」
紅が悪いだなんておかしい。嫌がらせをしたあいつの自業自得だ。
「あいつ、何て言ったんだ!?」
「急に殴ってきたって先生に言ってた。…恨みを晴らせたから僕は満足だよ」
「…ごめん。本当にごめん」
込み上がる感情のままに俺は謝った。謝ることしか出来なかった。何も気付けなかった自分が不甲斐なかった。
「謝んなくて良いよ。あいつはこれからは多分何もしてこないよ」
諦めるようにに言った紅に、俺は思いの丈全てをぶつけた。
「馬鹿野郎!一番辛かったのはお前だろ !俺やあいつ、クラスの奴らもお前に責められたって文句は言えないんだぞ!」
「朔…?」
感情をそのまま、支離滅裂だろうが関係なく俺は言い続けた。
「何にも悪くないだろ!あいつが被害者ヅラするのは一番駄目だろ!俺は明日、先生に何があったか全部告発する!」
「えぇ!?良いよ言わなくて!」
紅が咄嗟に否定したが、その時の俺はあいつを罰したい気持ちでいっぱいだった。自分を責めないでほしかった。
「頼む紅…!これは助けられないかった俺の贖罪でもあるんだ!先生に言わせてくれ!」
顔をぐちゃぐちゃにしながら俺は言った。昼休みから蠢いていた感情が言葉として、涙として出てきた。
「朔…ごめん。こんなに頼もしい親友が居るのに何も言わなくて…ありがとう」
気づいたら紅の顔も涙と鼻水でぐちゃぐちゃになっていた。多分、あいつをぶん殴っても無くなら無かった負の感情が一気に出たのだろう。
俺達はひとしきり泣いた後、それぞれの家に帰っていった。
その後、家に帰った紅は親にあいつにされてきた事を話したらしく、親から学校に連絡がいき、あいつの両親とあいつに謝ってもらったと俺は本人から説明された。
俺やその時現場にいた奴らも先生が当時の状況を知るために少し呼び出されたので、ハッキリとあいつの悪行を覚えている限り話した。
少しは紅に贖罪ができただろうか。
俺達はとてつもなく必死だった。余りにも強烈な出来事だったからか、どちらもこの事件の前後の事は全く覚えていなかった。
紅はネガティブな感情でいっぱいになると諦めてしまったり、一人で抱え込んでしまったりして自分の事を疎かにして卑下してしまう。
そんな性格を俺は思い知らされた。俺はまたこんな状態なならないようにするし、なったら絶対に止める。俺はひっそり心に誓った。
思い出すのも疲れ、俺はため息をつきながら雨の止まない外をチラリと見た。
そこには、あの時の道と同じぼんやりとした桃色の雨降花が咲き乱れていた。