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少しして、後ろから話し声が聞こえた後、足音が近づく。
「陽煌さん。陽雅さんは俺と居ても絶対に陽煌さんのことを忘れたりしません。だから、陽雅さんを信じてください」
兄ちゃんを見てそう言う恭也に兄ちゃんは冷たい声で言う。
「恭也くんに陽雅の何が分かるの?」
「俺は陽煌さんより陽雅さんと居る時間は短いです。でも、分かります。陽雅さんは陽煌さんの事が大好きです」
「なんでそう思うの?」
「だって、俺が陽煌さんが怪しいって言った時も、陽煌さんを信じてましたし、陽煌さんの本性を知ったら、凄く悲しんで、寂しそうな顔してたんです」
「…だからなんなの?」
「それって、陽煌さんが大切だからこれできる顔だと思うんです。もし今後どうでもよくなるなら、簡単に疑ってただろうし、悲しそうな顔も寂しそうな顔もしないと思うんですよ」
「そうかもしれないけど…」
兄ちゃんの目が、不安そうに揺れる。
「陽雅さんは、俺の事も愛してくれるし、陽煌さんの事もちゃんと愛しますよ。そうですよね。陽雅さん」
ニコッと笑って俺を見る恭也に笑い返し、兄ちゃんを見る。
「うん。俺は恭也の事も兄ちゃんの事も愛してるよ。だから絶対に兄ちゃんの事、どうでもよくなったりしない」
俺の言葉を聞いて、兄ちゃんは目を伏せた。
そんな兄ちゃんに恭也が言う。
「逆に陽煌さんはどうですか?」
「俺?」
「陽煌さんは泰輝さんの事を愛してますよね。だからって陽雅さんの事どうでもよくなったりしますか?」
「しないよ。俺は泰輝の事も陽雅の事も愛してる」
真っ直ぐな目でそう言う兄ちゃんを見て、恭也が言う。
「それと同じですよ。陽雅さんだって、俺の事も陽煌さんの事も愛してるんです。だから、どうでもよくなったりしないんですよ」
「でも…」
兄ちゃんはそこで言葉を止め、再び目を伏せる。
そんな兄ちゃんを見て、俺は兄ちゃんに近づく。
そしてそのまま、抱きしめた。
「兄ちゃん。俺は兄ちゃんの事ずっと愛すよ。だからそんなに心配しないで、俺の事信じてよ」
「陽雅…」
俺は抱きしめるのを辞め、兄ちゃんと目を合わせる。
「兄ちゃん。愛してるよ」
そう言ってニコッと笑うと、兄ちゃんは一瞬驚いた顔をした後、嬉しそうに笑う。
そして、俺を抱きしめた。
「ありがとう。俺も愛してるよ」
「俺の事、信じてくれる?」
「うん。信じるよ。今まで信じれなくてごめんね」
「ううん。いいの。信じてくれただけで嬉しいから」
兄ちゃんは抱きしめるのを辞め、恭也を見る。
「恭也くんもごめんね。俺のせいで、辛かったよね」
「いえ。大丈夫ですよ。二人が仲直り出来て、俺も嬉しいです」
「恭也くんは優しいね。悔しいけど、陽雅の事も任せられそう」
「もう兄ちゃん。悔しいって何〜」
「陽雅の事独占したいけど、恭也くんなら安心かなって」
兄ちゃんはそう言って、ニコッと笑う。
「任せてください。陽雅さんの事、幸せにしますから」
胸を張ってそう言う恭也を見て、笑みがこぼれる。
「ありがとう」
「ありがとう。陽雅の事よろしくね」
「はい」
「それと、陽雅の独占欲も元に戻すね。もう独占欲なんて、いらないから」
兄ちゃんはそう言って、俺の手を握る。
そのまま俺の手を見つめた後、手を離した。
「…ごめん。もうちょっと後でもいい? すぐに戻すから」
兄ちゃんは、寂しそうな目でそう言う。
ドルの力で俺の独占欲を戻したら、多分兄ちゃんはしばらく目を覚まさない。
だからドルの力を使うのが怖いのだろう。
俺は、兄ちゃんにニコッと微笑む。
「うん。大丈夫だよ。準備が出来たら教えて」
「ありがとう」
兄ちゃんはそう言った後、零斗と快くんの方を見る。
「快くん。近づいても大丈夫?」
「え?」
「なんか能力持ってるでしょ。この前倒れたの、それのせいでしょ?」
「あぁ…はい。大丈夫ですよ。もう真っ黒じゃないので」
「真っ黒か。なんだろう。まぁ、わざわざ聞いたりしないけどね」
兄ちゃんはそう言って、二人の元へ行く。
「快くん、零斗くん、ごめんなさい。俺が陽雅に酷いこと言わせたせいで、傷ついたよね。あれは陽雅の本心じゃないから、安心して」
「大丈夫ですよ。陽雅も謝ってくれたし、もう仲直り出来そうなんで」
「仲直り出来た訳じゃないの?」
「はい。一旦仲直りはしましたけど、陽煌さんが陽雅の独占欲を戻したら、完全に仲直りです」
「そっか。じゃあもうすぐ仲直りだね。良かった」
「はい」
続けて兄ちゃんは、恭也の元へ歩いていく。
「恭也くん。陽雅の事好きになってくれてありがとう。それと、俺の事も許してくれてありがとう。陽雅の事、幸せにしてあげてね」
「はい。幸せにします」
続けて、泰輝の元へ歩いていく。
「泰輝。ちょっとだけお別れだね」
「そうですね。陽煌さんがいないと、寂しいです」
そう言う泰輝を、兄ちゃんは抱き締める。
「俺も寂しいよ。せっかく泰輝とちゃんと両想いになれたのにな」
「大丈夫ですよ。陽煌さんが起きたら、たくさん好きって言いますね」
「ありがとう。俺が寝てる時も、他の人とあんまり仲良くしないでね」
兄ちゃんの言葉を聞いて、泰輝は顔を上げる。
「大丈夫ですよ。俺は陽煌さんにしか興味が無いので」
「血は陽雅からしか貰っちゃダメ。分かった?」
「分かりましたよ。陽煌さんが起きたら、血飲ませて下さいね」
「うん」
「陽煌さん。大好きです」
泰輝はそう言って兄ちゃんの口にキスをした。
「俺も大好きだよ」
兄ちゃんがそう言い、二人微笑み合う。
そして兄ちゃんは、俺の元へ歩いてきた。
「陽雅。長い間苦しめてごめんね。もう、苦しくないから大丈夫だよ」
「ありがとう。兄ちゃんが寝てる間、たまに兄ちゃんに会いにいくね」
「ありがとう。嬉しい」
兄ちゃんはそう言って、ニコッと笑う。
そして、みんなの方に体を向ける。
「みんな、陽雅の事よろしくね。本当の陽雅は優しくて可愛くていい子だから」
兄ちゃんの言葉を聞いて、みんなが「任せてください」と返事をする。
その様子を見て、兄ちゃんは俺に体を向けた。
「じゃあ、戻すよ」
「うん。よろしく」
「全部戻すから。また俺の事嫌いになりそうで少し怖いけど」
兄ちゃんはそう言って苦笑いする。
「大丈夫だよ。俺は兄ちゃんの事大好きだから」
そう言って微笑むと、兄ちゃんは安心したように笑う。
兄ちゃんは俺の手を握り、深呼吸した。
《俺が命令したこと全部、元に戻って。本当の陽雅に戻ってね》
兄ちゃんの言葉を聞いた瞬間、俺の頭の中に様々な記憶が入ってくる。
過去の事で思い出せなかった会話も、兄ちゃんの今までの命令も、全部一気に入ってきた。
(頭が痛い…)
体の力が、フワッと抜ける。
そんな俺の体を、兄ちゃんが掴んだ。
「陽雅!」
ぼんやりとした視界から、心配そうな兄ちゃんの顔が見える。
みんなの俺を呼ぶ声が聞こえながら、俺は意識が遠のいていった。
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#そのじん
ヌシ
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コメント
1件
うわあ、もうこの回泣けました……。恭也くんの「陽雅さんは陽煌さんのこと忘れたりしません」って説得がすごく理路整然としてて、それでいてあたたかくて。陽雅くんが「愛してるよ」ってまっすぐ伝えた瞬間、こっちまで胸が熱くなりました。陽煌さんの不安な揺れもリアルで、二人が信じ合おうとする姿にほんとじんわり来ましたよ。素敵なエピソードをありがとうございます。