テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
#悪役令嬢
#ドアマットヒロイン
眼前にいるのは、見たことのある種族だ。尖った耳、男女ともに見目麗しい細身で、白い肌に金髪碧眼、そして狩人として民族衣装か、神官のような袖や裾の長い装束──間違いなく森人族だ。
「間違いない。聖女様じゃ」
「召喚は成功だ!」
「これで、この都市も救われる!」
(聖女!?)
前世の知識が正しければ、森人族は排他的かつ人族を嫌悪している。彼らは風と緑から派生した種族で、人族を野蛮で炎を飼い慣らす怪物だと認識していたはずだ。
その彼らが人族を歓迎することに、違和感を覚えた。
(それとも私の知る前世とは異なる別の世界?)
「なによ、ここ? 映画の撮影?」
(そして、なんであの子がいるのよ……)
召喚術式の上にいるのは、私と同じ大学でゼミで何度か見かけたことがある女性だ。ちなみに私の存在など誰も気付いていないのか、誰とも目が合わない。
「ようこそ聖女様、我らはずっと貴女様を待っていたのです」
「まあ……私が聖女?」
「その通りでございます!」
「きゃっ、そんな……私、困っちゃう」
(……始まった)
最悪なのは学年一いや大学一性格の悪い女子、高無美玲が聖女という評価だ。この世界は改めてクソ最悪なのだと実感する。
(彼女は聖女じゃなくて、悪女です。まあ、私のことなんて完全無視ですか、オマケというか、巻き込まれ召喚されたモブAですものね。今世では真っ黒な髪に、背丈は百六十センチ前後、顔もフツーのフツーオブフツー。名前だけは少し変わっているぐらいの、青春真っ只中の大学生だったのに! 異世界転移とか、ほんと勘弁して欲しい。お家に帰りたい。クレープ……)
前世とは違う異世界であってほしいけれど森人族のあの紋章、クレパルティ大国から西の森の奥にある森人族の紋章にソックリなのだ。前世の世界に似ている別世界であってほしい。
そう思うことで発狂しそうな感情を押さえ込んだ。どちらにしても大事なのは、元の世界に返してくれるかだ。
「あの。私は人違いだったようなので、元の世界に返してくれませんか?」
「ん? ああ。もう一人居たのか。地味すぎて気付かなかった」
(悪かったわね!)
ムッとしたがここで反発しても良いことはない。大人の対応をする。
「それで、元の世界には返していただけるのですか?」
これは分の悪い懸けだ。なにせ異世界転移は高位魔法の一つ、そんな大それた術式を人族のために使うような奇特な種族ではない。
案の定、森人族たちは、面倒そうに答えた。
「召喚に巻き込まれたのは不運だったが、君のために魔法陣を展開する魔力の余力はない。今後の者振り方だが、この都市に留まるか出て行くかは選ばせよう」
「……留まるか出て行くか、ですか」
「そうだ」
なんだ、その態度はとムカムカしてしまう。そっちが勝手に呼んでおいて、なんとも酷い対応じゃないか。
「ええええええ!?」
美玲は途端に声を荒げた。しかも薄ら涙を浮かべている。涙って自由に出せるものだったかしら。
不意に美玲の手や首に、歪んだ紋様が痣のように浮かんで見えた。自分も同じになってないか確かめたが、痣らしいものはない。
(……美玲にだけ痣?)
「私も出ていかないといけないんですか!?」
「まさか。聖女様は、この国で私たちを救ってください」
「そうです。手や首周りの鮮やかな紋様こそ聖女様の証ですから」
「紋様? そんなの私には見えないけれど?」
(え?)
「ご安心を。高貴な貴女様には見えないのでしょう。大丈夫です。我々がしっかり判断いたしますので」
「まあ!」
森人族のその言葉にゾッとするも、美玲は素直に喜んでいた。整った顔立ちで好意的なことを言われて浮かれているようだ。
その光景は前世の自分を見ているようで吐き気がした。甘い言葉を言って、囲い込む。
(まずいわ。このままじゃ彼女は……)
「まずは宴を開きますので、そこで話をさせてください」
「嬉しいです。……でも」
美玲と目が合う。
彼女は悲壮感たっぷりの涙目で彼らに縋る。排他的な森人族たちが少しだけ頬を赤く染めていた。チョロい。チョロすぎる。
「宴……ですか?」
「ええ。ぜひ聖女様に我らの料理を食べていただきたいです!」
(料理を……。あの種族が?)
「そうなんですね。とっても嬉しいです」
(宴……。森人族たちは、風と水を司る風と緑から生まれた妖精寄りの種族。火と鉄を使う人族を毛嫌いしていたのに、人族を歓迎するって、やっぱり別の世界なのかも?)
大歓迎を受けて美玲はふふん、と鼻息を荒く勝ち誇った顔で私を見下ろしてきた。ああ、とても嫌な予感がする。
「よかったぁ♪ でもそこの彼女、春夏秋冬さんがこの都市にいると、私をまた虐めるかもしれないの。だから……この都市から追い出すことはできますか?」
「は?(イジメって初耳なのですけれど? というか貴女と、会話したことほとんどないし)」
「彼女、すっごく意地悪で、嫌がらせや物を盗ったりするのよ」
(はああああああ!?)
美玲の言葉で、周囲の空気が一気に凍り付いた。森人族たちの向けてくる視線は鋭い。けれどまだ殺意がないだけマシだろうか。
(はぁ……。前世の私のようにならないようにって思ったけど、もういいや。好きにして)
私を悪者にする展開に、飽き飽きしてしまった。
前世、嫁ぎ先の国で私の味方は誰もいなかった。今回の召喚もそうだ。勝手に連れてきて巻き込んだくせに、全ては私が悪いというのだからやってられない。何もかもウンザリだ。
(ううん、今世は独り身を満喫して、楽しく暮らすって決めたんだもの!)
「狩人よ、その女をすぐに森の外に放り出してやれ」
「ハッ」
細身だけれど背丈の高い狩人が、私の腕を掴んだ。抵抗する気はないのに、罪人みたいじゃない。私が貴方たちに何をしたというのか。そう思ったら腹が立った。
「痛っ、抵抗しないから離して」
「黙れ」
「……ぷっ、いい気味」
口元に手を当てて笑う麗美が視界に入った。ああ、どの世界でも私を悪者に気が済まなきゃ気が済まない人がいる。そんな悪意が心底嫌だった。
「痛いから離してっ!」
「言うことを聞かないのなら──!?」
狩人の一人が私の頭を押さえようと手を伸ばした瞬間、白亜の光がその手を弾いた。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!