テラーノベル
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「あ、あなたが黒宮、仁……さん」
「ん? どうして俺の名前を知ってんだ? まあいい。とりあえず、呼び捨てにしろ。俺は『さん』」付けされるような人間じゃねえ。分かったかガマガエル」
「……はい。じゃ、じゃあ、じ、仁」
「なんでいきなり下の名前で呼ぶんだよ。お前、よく分からねえ奴だな。頭のぶっ壊れた奴だと思ったら、急にまともになったり」
それは私のセリフだっつーの!! アナタの方がよく分からないっつーの!
「あ! 私の自転車!!」
「それは後で俺が処分しておく。フレームが完全に曲がってたから使い物にならねえ。修理の方が高くつく。それでいいよな?」
「はい……あ、ありがとうございます」
「俺の背中にしっかり掴まれ。時間がねえから飛ばすぞ」
「え!? じ、時間がない? どういう意味ですか?」
「説明するのが面倒くせー。黙って乗ってろガマガエル」
さっきもカッチーンときたけど、もう限界。もうこの人に気を遣ったりしない! どうなっても知らないんだから!
「分かった! 分かりました! 黙ってます! この黒宮のクソ野郎!!」
「ふふっ。その呼び方、悪くねえな。それでいい。じゃあ思い切り飛ばすぞ!」
「ギャアアーーーーー!!!!!」
速い! 速すぎるって!! 飛ばすって言っても限度ってものがあるでしょ!! 怖すぎるんですけど!! 振り落とされちゃう!!
「も、もう少しゆっくり漕いでください!!」
「知るか! 舌を噛むから黙ってしっかり掴まってろ!」
* * *
私は『黒宮のクソ野郎』の自転車で病院へ。そこに到着するまでの間、私は怖くて怖くて仕方がなかった。病院での検査結果が怖かったわけじゃないのはお分かりかと。そう。黒宮の奴があまりにものすごいスピードで自転車を走らせるから、何度も何度も振り落とされそうになっちゃったから。
例えて言えば、まさに『ジェットコースターかよ!』って感じ。女子が後ろに乗ってるんだからもっと気を遣ってよ! 死ぬかと思ったよ!!
で、検査結果だけど、なんの異常もなし。
それは良かった。良かったんですけど……。
「ここ、どこーー!!!!」
一応、スマートフォンを使って病院名で調べてみたけど、私の家からめちゃくちゃ離れてるんですけど! 時計を見ると、もう二十時近いし、お金も足りないからタクシーも使えない。
「はあ……どうやって帰ろう。くそー、あの『黒宮のクソ野郎』め! こんな場所に女子を置いて黙って帰っちゃうだなんて! ほんっっとイヤな奴!! 腹立つ腹立つ腹立つ! ほんっっとうに腹が立つ!!」
もう、諦めて歩いて帰るしかないか。そう思いながら、私はトボトボと歩くことにして病院を後にした。外はやっぱり真っ暗。時間的に当たり前か
「こんなにも可愛くて可憐な私が、無事に家まで辿り着けるわけがないじゃないの! 絶対に途中で暴漢に襲われちゃう! それで、あんなことやこんなことをイタズラされちゃうに決まってるじゃない! どこに行ったのよ黒宮のクソ野郎!!」
「うるせえなあ、ガマガエル」
「……え?」
その声。そして呼び方。あの人だ。『黒宮のクソ野郎』だ。
彼は街灯の下で自転車にまたがっていた。仏頂面で。
その街灯は彼のことをスポットライトのように照らし、浮かび上がらせ、彼の容姿をより美しく、より幻想的に映し出していた。私は再度思う。思い知らされる。なんて魅力に溢れたルックスなんだろう、と。
「え!? あ、あの、黒宮さん……ずっと待っててくれたんですか?」
「なんでまた『黒宮さん』呼びになってんだよ。さっき思い切り『黒宮のクソ野郎』って大声で叫んでやがったのによ」
「い、いえ、そ、それは……ごめんなさい……」
「お前、本当にわけが分からねえな。言ってることも態度も支離滅裂すぎんぞ」
「そ、それは……」
「俺は一度病院からは離れてたんだよ。検査は色々時間がかかるからな。その間にお前の自転車を処分しに戻ってた。それでさっき病院に戻ってきたところだ。じゃないとお前、どうやって帰るつもりだったんだよ? 理解できたかガマガエル」
この黒宮っていう人、口は悪い。それは確か。だけど本当はめちゃくちゃいい人なんじゃないの? もしかして、やっぱりこの人が白馬に乗った運命の王子様?
「とりあえず、乗れ。それでまたあの断末魔みたいな叫び声を聞かせろ」
「断末魔!? え? 私そんな叫び声あげてました?」
「覚えてねえのか。上げてたよ。笑わせてもらったけどな。女子だったら『キャー』だとか、もっと可愛い叫び声をあげろよ。まあ、ガマガエルだし仕方がないか」
「だーかーらー!! 私をガマガエルって呼ぶのやめてください! それにあんな猛スピードで自転車走らせたら怖いに決まってるじゃないですか!! 私だって一応、可憐な女子なんですよ!? もっと気を遣ってください!!」
「お前に女子要素なんかねえ。猛スピードで走ったのは仕方なかったんだよ。時間がねえって最初に言っただろうが。急がねえと病院が閉まっちまうからな」
う、嘘!? この人、私のためにそこまで考えてくれてたの!? この人、やっぱり運命の人だ! ついに出逢えたんだ!! あー、夢が叶ったよー!!
「あ、あの、あの! 白馬に乗った王子様、本当にありがとうございました! なのでぜひ、私とお付き合いを!!」
「……置いて帰るわ」
「ご、ごめんなさい!! やめて! 置いて帰ろうとしないで!!」
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