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番外編菊葉家の茶飯事
― 泥の眠り、四つの銀輪が結ぶ夢 ―
深夜の菊葉屋敷。
任務から帰還した四人は、着替える気力すら残っていなかった。居間の畳の上、紺色の軍服のまま、重なり合うようにして深い眠りに落ちている。
中心にいるのは、大きな体を横たえた椿だ。その右腕は蓬の枕代わりになり、左肩には梅が力尽きたように頭を預けている。影の端では、桐が座ったまま壁にもたれ、静かな寝息を立てていた。
部屋を照らすのは、雲間に隠れがちな月光だけ。
けれど、その暗闇の中で、四人の手元には小さな、けれど確かな輝きが灯っていた。
四条河原町で手に入れた、お揃いの銀の指輪。
椿の人差し指にある深紅の石が、彼の浅い呼吸に合わせて、トクン、トクンと規則正しく拍動している。その鼓動は、指輪を媒介にして、隣り合う梅や蓬、そして桐の指にある銀の輪へと波及していく。
「……ん……みんな、……一緒だ……」
椿が夢の中で、小さく、けれど幸せそうに呟いた。
一人の命を四人で分かち合う一蓮托生の術。かつては彼らを縛る「呪い」でしかなかったその術式が、今夜は、指輪を通して互いの生存を確認し合う、優しい子守唄へと変わっている。
梅の銀色の指先が、椿の腕を無意識に強く握りしめる。
蓬の寝顔が、椿の体温を感じて安らかに緩む。
桐の影が、三人の眠りを守るように屋敷の隅々まで広がっていく。
四条で買った指輪は、ただの飾りではなかった。
それは、戦場で散ることを許さない「楔」であり、日常に帰るための「標識」。
たとえ明日、また過酷な断罪の任務が待っていようとも。
この指輪が共鳴し合う限り、彼らの明日は誰にも奪えない。
泥のような眠りの中で、四つの銀輪は、一蓮托生の譜を静かに、力強く奏で続けていた。
「……泥のように眠る四人。あなたがもし、この静かな寝顔を見守る立場なら、彼らにどんな言葉をかけてあげたいですか?」
次なる記録:夢の続き、椿の草原に降る銀の雪