今からしてみれば昔のことである。湧き水が美しく、流水が有名な山奥には日陰 でしか生活できない龍神が居た。まるで露草のごとく長らく日に当たらないことから、彼はツユクサと呼ばれている。そんなツユクサは治療を受けながら洞窟に籠もり、いつも太陽に当たることを夢見ていた。
「僕はこのまま死ぬんですか……」
主治医に白い包帯を変えてもらいながら、ツユクサはポツリと呟いた。言われることは分かっていた。でもしかし……その口から聞かないと気が済まないのだ。
「残念なことだ。太陽に当たることは不可能だろう。海の底で生活をすれば結果は変わるかもな」
主治医は冷淡としていて作られた台詞でも読むかのように感情がこもっていない。
聞いた途端、ツユクサは目からこぼれる涙を手で拭うと、彼に背を向けて深い溜息をついた。
「僕は……海底には行きません。せんせいは心配してくれるけど……いつか日に当たりたいから」
グッと吐き出した言葉には執念があった。病気に苦しんでいた幼少期から、よく月を見ていたが一度も日に当たることはなかったからだ。
「辞めたほうが良い、現在医療での治療は不可能だぞ。だから薬ができるまで安静にしてろ」
主治医も医者として引かない。真剣な目つきで大きく身を乗り出し、続けた。
「いいか、お前が日光に少しでも当たった瞬間、死んでしまう。月明かりさえも危ないんだ。だから地上から出たほうが良い」
「……そうですか」
残念そうに言い放つと、スッキリしない表情で地面の石を見る。気をそらそうとしているのか、どこか晴れない様子だ。
「分かりました。さようなら、先生」
突然、逸らしていた目を主治医と合わせてゆっくりとお辞儀をした。
主治医は唖然として「さようなら」と返したが、何故突然……とモヤモヤしながら洞窟を出る。外は夕暮れとなり残雪もある。地平線に沈む太陽は、どこか儚く感じた。
***
明け方には、水平線から太陽が姿を表し鳥がさえずる。ツユクサはこの瞬間を待ちわびていた。洞窟の奥から姿勢を低くしてふわりと空中に体を浮かせる。そして洞窟から飛び出た。
途端に日光を浴びて体が白くなる。ツユクサは唯一無為の金色の目を輝かせていた。
しかし、日光に当たった自覚はなく一瞬にして体が地面に焼きつけられて影のみとなる。
どうにか日光に当たることは出来たが、その罪として成仏することさえ出来ず影として今でも光を追っているらしい。
──影は光に触れることすらできないにも関わらず、だ。
今、全員が見ている影は彼の未練でもあり光に憧れた結果だと聞く。皆はこの物語を良いものだと考えるだろうか? 私の答えは──
コメント
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影…明けない夜。光…朝に咲いた花はすぐに枯れてしまう。…露草だなぁ((感涙)) …光の反射により影ができる。すなわち、影が無ければ光も無い(見えない)。…そう考えると、彼の憧れが光を保っていると言えるのでしょうか…😌(何とも言えない気持ちになるぜっ🫠) あ、明けましておめでとうございます🙇♂️✨((挨拶は大事だけど絶対今じゃない))
ツユクサ…ってどっかで見たな? ツユくん描いた覚えあるぞ?? お?これはついに来たのか?(
あけましておめでとうございます