TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

シェアするシェアする
報告する


《ミクラルギルド・数時間前》




ヒロユキが席を外していた間、

ユキはたまこを人目のない場所に呼び出していた。




「どうしたの~? こんな所に呼び出して~」




口調はいつもどおり緩やか。

けれどその目は、しっかりと“敵を見る目”になっていた。



「すいません、たまこさん。お忙しい中……まずは、お礼を言わせてください。助けてくれて、ありがとうございました」




「いいのよ~。……それだけの話なら、こんな場所に呼び出さないわよね~?」


「えぇ、その通りですよ……【六英雄】のヒーラー担当のたまこさん。」


「…………どうして知ってるのかしら。医者たちは、上手く記憶を消したはずなんだけど~?」




「もしかして助けた人の誰かが、たまたま覚えてた……とか?」




「そんな嘘が通じる相手だと思ってるの~?」




ピッ、とたまこが指先を弾く。


空中に魔方陣が展開される。それは攻撃の魔法ではない。

記憶操作――医師たちにも使用した“情報隠蔽”用の術式。




「……使わないんですか?」




「…………」




「私の身体、見ましたよね。訊きたいこと、あるはずです」




「……そうね~……確かに。あなたの身体、複雑な魔方が何層にも絡み合って繋がってた。

一度、自分自身が魔力に分解されて、もう一度再構築されたような……転送魔法の事故にでも遭ったのかしら?

とにかく、“今の魔法理論”じゃ再現不可能な状態だったわ~。

生きてるのが、そもそも“奇跡”。それを、私が治しきった……それだけでも異常なのよ~」




「さすがですね。でも、それだけじゃありませんよね?」




たまこの視線が鋭くなる。




「……身体を治している時に、私の魔方の痕跡がいくつかあったの。しかもそれは“ごく最近の”ものだった……。つまり、あなたは――」




「――そこまでです。

いつ、どこで誰が聞いているかわかりませんから」




「…………」




「今は、全部を話すわけにはいきません。

でも、これから先――私たちに付いてきてくれたら、きっと何か“思い出す”はずです」




「……ふふ。勧誘かしら~?

情報を渡す代わりに、私の力が欲しい~って?

でも残念ね~。私の力はね、パーティー一つには“余りある”のよ?

そこら辺のヒーラー拾ってきた方が、まだバランスは取れるかも~?」




「……あなたの“想い人”が、このままでは死ぬとしたら?」




「……っ!?」




その一言で、たまこの表情が凍る。


――誰にも話したことのない、“大切な誰か”。




「……その人、今どこにいるの……?」




「さぁ、どうでしょうかね」




「…………」




ふたりの間に、長い沈黙が落ちる。

どちらも簡単に“信じる”ようなタイプじゃない。

それでも、どこかで――似た空気を感じ取っていた。




やがて、たまこがゆっくりと口を開いた。




「……いいわ~。乗ってあげる」




魔方陣が消え、代わりに、たまこが手を差し出す。




「交渉成立ですね」




ユキもその手を握り返し、ふぅと息を吐いて汗をぬぐった。


――それほど、ユキにとってもこの話は“賭け”だったのだ。




「では、ヒロユキさんを呼んで、どこか美味しいお店で話しましょう。

今は若者の間で【ピコナッツミルク】が人気らしいですし!」




ふたりの握手の余韻を残しながら――

ユキはたまこを、正式に“パーティーメンバー”として迎え入れた。



そして何も知らないヒロユキだった。

loading

この作品はいかがでしたか?

8

コメント

0

👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!

チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚