目黒の強い声は、パニックという嵐の海で溺れていた康二にとって、唯一の錨だった 。
完全な錯乱からは、ほんの少しだけ引き戻される。
🧡はぁっ…すっ、はぁ、ふぅ…
過呼吸はまだ続いている。それでも、目の前のぼやけた人影が、Aではない、別の誰かだということは、かろうじて認識できた。
🧡…だれ…?…なぐらないで…
掠れた声で呟くと、目の前の人影――目黒が、ゆっくりと、しかしはっきりと答えた。
🖤康二…大丈夫。みんなだよ…?
🖤誰も殴ったりしない
その声は、驚くほど優しかった。泣きそうなくらい、優しい声だった。
目黒は康二を刺激しないように、数歩離れた場所で膝をつき、視線を合わせる。 その周りを、他のメンバーたちが固唾を飲んで見守っていた。
しかし、一度刻み込まれた恐怖は、そう簡単には消えない。
優しくされればされるほど、「これは罠なんじゃないか」という疑念が鎌首をもたげる。
🧡やめて…、、ごめ、ごめんなさい…
まだ、反射的に謝罪の言葉が口からこぼれ落ちる。
そんな康二を見て、今度は隣から別の優しい声がした。阿部の声だった。
💚康二…落ち着こう?まずは呼吸を整えよう。俺に合わせて。吸ってー…吐いてー…
阿部はパニックになっている人間を刺激しない、一番正しい方法で、ゆっくりと康二の呼吸をガイドし始める。
💚ゆっくりでいいから。そう、上手だよ
目黒の、阿部の、そして心配そうに見守る他のメンバーたちの声。それは、暴力とは全く違う、温かい音色をしていた。
康二の荒い呼吸が、少しずつ、少しずつだが、その穏やかなリズムに同調していく。
現実と悪夢の境界線で揺れていた意識が、ゆっくりと、現実の方へと引き寄せられていくのが、自分でもわかった。
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涙腺がヤバイです。(T0T) 続き楽しみにしてます。
