私
にとって大切なものはただ一つ、それはこの身に流れる血のみ。
そうすれば誰にも邪魔されず生きていけるはずなのだから。
だが今となってはその考えこそが間違っていたのではないかと感じている。
私にはそれが一番大事だったのだ。
それさえあれば他には何も要らないと思っていたのだが、結局は自分が独りになりたくないだけだったようだ。
他人との関わりが煩わしくて仕方がない。
何故皆して私を放っておいてくれないのか。
私のことなど放っておいてくれれば良いものを。
お前達など居ても居なくても変わらない存在だと言うのに。
だからいっそ消えてしまえば楽になれるのではないかと考えたこともあった。
しかしそれもできない。
ならばせめて何も言わずに去ることが自分にできる唯一の抵抗だと、彼女は思った。
もうこれ以上は無理だ。
そう思って、最後の最後に彼女を追い詰めたのは、他でもない彼女自身だった。
あの時、自分がもっと冷静であれば……と後悔しても遅いのだけれど。
それでもまだ、何かできることがあるんじゃないかと思ってしまう。
今になってこんなことを考えるなんておかしいかもしれないけど。……もしもう一度やり直せるなら。
今度は、絶対に間違えたりしないのに── ***
『お待たせいたしました! 只今のレースの結果をお知らせいたします!』
場内アナウンスの声が響く中、俺は目の前にいる人物を見つめていた。
「本日はお越しいただき誠にありがとうございます! これより『勇者様ご一行』によるショーを始めさせて頂きます!」
俺の名前は佐藤 亮介。普通の大学生だ。
今日は大学のゼミの仲間達と共に旅行に来ていたのだが……何故か今、勇者として祭り上げられている。
どうしてこうなったのか? 話は数時間前にまで遡る――
*****
「えーっと、これは……?」
「ああ、それはですね……」
「なるほど!そうだったんですね!」
「はい、そうなんですよ~」
俺の隣には今、なぜか女性がいる。
それもただの女性じゃない。
この世のものとは思えないくらい美人だ。
肌は透き通るように白くて綺麗だし、髪の毛は絹糸のようにさらさらしている。
瞳は大きくてつぶらで宝石みたいに輝いているし、唇なんてぷっくりとしていて艶がある。
顔立ちは整っていて非の打ち所がないのだが、どこか影のある雰囲気を漂わせている。目つきが悪いせいかもしれない。
普段は寡黙だが、いったん口を開くとマシンガンのようにまくしたてる。よく舌を噛まないものだと感心するほどだ。
他人に対しては冷酷とも思えるような態度をとることが多い一方で、身内には優しく面倒見が良い一面もある。
また、物事に対する執着が強い面もあり、一度こうと思い込むとなかなか考えを改めようとしない頑固さがある。
自分が納得するまでとことん追求する粘り強さもあるが、同時に飽きっぽくて気分屋でもあるため、いったん興味を失うとそれまで打ち込んできたものであってもあっさり放り出してしまうこともある。
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