コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
目撃者 下
(闘技場中央)
「ギョエェェェェ!」
劈く咆哮が響き渡る。
――ドンドン!グサグサ!
「打て!奴を止めろ!これ以上好きにさせるな!」
――ドン!
「うわぁ!!」
警備兵の何人かは怪物に向かって投擲するが効いていない。それどころか多くの兵士はその鋭利な尻尾で壁へ吹き飛ばされていた。
「くそ、まるで歯が立たん……」
「いったいどこから!」
「ダメージは与えてるはずなのに!‥あ、あれは!」
遠くの席に1人の女の子が取り残されていた。
「まずい、市民が取り残されている!おい!奴を止めろ!!」
兵士達は皆傷を負い、すぐ動ける者がいなかった。
「っ、おい、動ける者!一斉に放て!」
――バンバン!
兵士の何人かが銃弾を投げたが、そんなものには興味がないというように翼竜は背を向けて、少女の元へ進行を止めない。
「くそっ!」
怪物はその少女が不思議なのか、ゆっくり向かっていく。
「うあぁーん!ママぁあ!どこー!!」
ひとりの少女が咽び泣いていた。おそらく母親と逸れたのだろう。
「ヒッく、うぅ――!」
翼竜はその子供の前へ歩みを止めた。
「グルルルル――」
覗き見る大きい眼が2つ、上から子供を見下ろす巨大な生き物。
「ぁ、あ、」
少女は恐怖で立ちすくみその場から動けない。掠れた悲鳴が喉から出ていた。
翼竜が大きく口角を上げた。次の瞬間、発達したその大きな爪を少女へ振り下ろした!
――ビシャ!
盛大に、あたりに血が飛び散る――。
――はずだった。
「きゃぁぁ!」
「ぉお邪魔しまぁぁす!!」
悲鳴と共に翼竜の爪より早く、少女を掻っ攫った者がいた!
――バッ!ゴロゴロ!
「君、大丈夫?!」
そこに現れたのはポッドだった!彼は咄嗟に少女を庇って数メートル先へ転がった。
「ひっく、うん……」
「はぁーよかった!!もうだい「ギョエェェェェ!!」っじょばない!逃げるよ!ちょっと我慢してね!」
ポッドは女の子をすぐ抱えると、その場から走り去った!
後ろでは翼竜が目をぎらつかせてポッドを睨んでいた!
「ひぃー!!(あぁ!もう何でここに戻っちゃったんだよ!でも助けないと……この子は――」)
(闘技場の一時避難場所にて)
「誰かっ!誰か私の娘を見ませんでしたかっ!!」
1人、見なりがボロボロな女の人が娘を必死に探していたのだ。何度も他人に問いかけては落胆しているその姿を、ポッドは無視できなかった。
「僕、……みてきますよ!」
だから様子を見てくるつもりで、闘技場へ戻っただけだったのに。
(闘技場中央)
ポタ、ポタ――。
走る先々で後ろから迫りくる音がする。
――ポタポタ、じんじん。
背中が異様に熱かった。
「はぁはぁ、(僕じゃなくたってよかったのに!)」
――ポタポタ。
「……っお兄ちゃん痛い?、血が、」
抱えられている少女は、ポッドの背をつたって、地面に跡を残している赤色に気がついた。
「わ、私のせいでっ!」
少女の目はうるうるして、今にも泣き出しそうだった。
「っ、このぐらい平気、大丈夫!」
――嘘だ、痛くてたまらない。
さっきの攻撃が避けきれていなかったのだ。
ポッドは頬を伝う汗を拭いながら、それでも少女の不安を消す為に走りながら笑顔を作った。
女の子は不安そうな顔でポッドを見るが、ぎゅっとポッドの肩に顔を伏せた。
タッタタタ――。
ポッドは闘技場の階段席を駆け回っていたが、避難場所へは行けなかった。
「はぁ、ハァ、(このまま、避難場所へ行けば、着いてきてしまう!どうしたらっ)」
ちらりと警備兵を見た。ポッドは翼竜のさらに後方を見た。
倒れ伏している警備兵がいた。
「はぁはぁ、(またあそこに戻ったら、警備兵の人たちが危ない!)」
ポッドは抱えている女の子に話しかける。
「後ろのアイツはっ、まだ追ってきてるよね?」
「っうん」
少女は抱き抱えられている為、正面は見えない状態だが、後ろの翼竜の動きははっきりと見えている。
――血走った眼光でこちらを見ている化け物。
「ひっ」
少女はすぐ顔をポッドの肩口に伏せた。
ポタポタと、背から血が垂れながらポッドは少女を抱え階段を更に駆け上がる。翼竜も飛び上がって階段席まで上がってきた。その動きにポッドは逃げなら疑問に思った。
「!(警備兵のさっきの投擲で羽が傷ついている!思いっきり飛べないんだ!)」
「ギョエェェェェ!」
血の匂いに惹きつけられているのか。翼竜はまるで意志があるようにポッドと少女を追っていた。
ポッドと女の子は障害物のある、櫓へ向かっていった。
――――――――――
――どうしたら、誰かっ!
階段席から障害物のある誰もいない王候補席の櫓へ渡ったポッド達。
バギィ!バサバサッ!
頭部は爬虫類のような鋭い眼光と大きな歯、角もある。鳥類の様な大きい翼だが蝙蝠のような膜が張っており、空想上の竜と言われればその通りの見た目だった。光の反射で輝く鱗は神秘的な姿であるのにそう思わなかったのは、胸部にどす黒い球体が埋め込まれ、それが心臓のように脈を打っている事と傷を負い痛みを感じていても不思議ではない竜が我を忘れて暴れている点。そのことが、皆の恐怖を助長させていた。
「!っ」
「ギョエェェェェ!」
「やばっ!」
翼竜は、蛇行しながらポッド達がいる王候補の櫓へ飛び移った、眼光は獲物を捕捉し離れない。音を立てて、建物の柱の一部が崩れていく。その崩れた柱を足がかりとして、壁を伝いながらポッド達を追っていく。その姿はまるで、壁にへばりついている蜘蛛のようだった。
ポッド達は櫓のさらに奥へ逃げ込んだ。
「ギョエェ!」
――バギィ!バギィ!ガサガサ!
犬かきの要領で化け物は柱を壊してポッド達の元へ辿り着こうとしていた!その必死さは、木の中の虫を捕まえようとする鳥の動きのようにも見える。
「っ!くそっ、誰かっ……」
ポッドの額から尋常じゃないほど汗が吹き出ていた。背中からはドクドクと、血が垂れ流れて熱い。
「(狭いとに逃げ込めば、奴は入れないと思っだけど、そんな事なかった!」
思った以上に奴は動き回れる!ここへ逃げても、奴に殺されるのをただ待つだけ―。
「ぜぇ、はぁっはぁ!」
――どうしたらっ!
ぎゅと女の子を抱きしめ、できるだけ体を縮めた。
――誰か、誰か!誰でもいい!僕らを助けてくれっ!
少女とは反対の肩口で汗を拭った。
少女は男の人の横顔を覗いた。汗をかいて、顔色が悪かった。当然だ、今までずっと自分を抱えて逃げていたのだから。
「お兄ちゃんっ、痛い?」
「?はぁはぁ、、大丈夫だよ、これくらいっ、はぁ」
その眼には焦りと苦痛が浮かんでいた。傷が広がっているのだろう。少年の背から足へ鮮血は、少量でもその存在をありありと示している。
「っ、」
少女は眼を瞑った。
震えて動けぬ子を放置し囮にするという判断を、少年はできない。この優しい人はきっと考えてすらいないのだろうなと、子供ながらに少女は悟っていた。足手纏いは自分だと。
ならば――。
「(もしも――私が、)」
――やる事は決まっている。
ぎゅっと拳を握った。震えていた体は、いつの間にか止まっていた。
すぐ近くで迫り来る音が大きくなっていった。
ポッドは瞼をぎゅっと伏せた。
「……お兄ちゃん、置いてって」
「え?、」
傍で抱きかかえられている少女は、そう静かに呟いた。ポッドは目を見開いて凝視した。
「わたしね……お兄ちゃんだけならね、助かるって……分かるんだ。だからね……私を置いてって!」
少女の声は震えていた、怖いのだろう。けれど表情や態度には一切出さず、ただポッドを力強く、決意のある眼で射抜いていた。心なしかその瞳は潤んでいるようにも見える。
少年は大きく目を見開いた。同時に、顔を伏せた。頭の中はぐるぐると思考が回っている。
――あぁ!情けない!自分よりも小さい、守るべき子に気を遣わせてしまった!怖いはずなのに!冷静にも自分より状況が見えている!
ポッドはいたたまれない気持ちになった。そっと抱えている少女を、床へ下ろす。
――死ぬかもしれないって時に僕は、なんで人任せに……誰かが助けてくれるって、信じているのだろう!
――最優先事項は、誰かの助けを乞い願うより、僕達で生き残れる道を探すしかないじゃないか!
それなのに嘆く事しかできていない!僕の方がよっぽど子供だ……。
ポッドは屈んで膝をつき、女の子の視線と同じように合わせた。そっと両肩に手をついた。
――誰かじゃだめなんだ。僕が助けるんだ!
「ごめんね、僕がしっかりしないといけないのに。不安にさせちゃったね……」
弟のリクにしているように、そっと女の子の頭を撫でた。
「見ての通り僕らは今ピンチだ。じきにあの化け物がここに辿りつくだろう。そうなれば僕らは終わり」
ポッドは覚悟を持って少女へ真実を告げた。
「でも……ただ怯えて死を待つなんて!僕は嫌だ!」
突然の大声に少女の肩はびっくとなった。
「助かる方法ならあるんだ。でもそれ は君の協力なしに実行できない」
ポッドは少女の眼をしっかりと見た。この子ならもう大丈夫だろうと。
「もう1人で動けるかな?」
ポッドは優しく微笑んだ。
「うん!もう怖くないよ!」
少女も同じく微笑んで見せた。2人は鼓舞しあった。
「よしっ!それじゃ――」
――――――――――――――――――
ジャングルジムのように木材と鉄で作られている櫓の高さは、マンションよ7.8階に匹敵する。
その中央階付近の踊り場に少年少女は逃げ込み、閉じ込められている状況だった。開幕式のためにあつらえた建物だからか造りは頑丈でなく、すぐ解体できるように設計されているのか、先ほどの化け物の動いた振動で、その階の避難階段が別の柱が崩れて使えなくなっていた。
とするならば、出口は今まさに翼竜がこじ開けたえぐられた正面のみ――。
ポッドは、素早く辺りを見回した。近くの木の破片を手に取り、少女を後ろに追いやった。木は折れていて、先が鋭く尖っている。
そこに散らばっている鉄の椅子が何個も倒れている事にポッドは気づく。
「っ!食らえ!!」
――バギィ!
「ギィぇ、!!」
まず、目の前の翼竜の口を開いた瞬間、その鉄パイプのような作りの椅子をわざと食らわせた。椅子を、即席の鋭い武器を作ったのだ。
その間に少女は床に転がっている絨毯をかき集める。引きずりながら、それをポッドに渡し指示された通り布を広げて、辺りに置いたりした。
翼竜は頭部だけ櫓に入っていだが、とうとう片腕も侵入してきていた!
ポッドは襲ってくる爪を避けながら、削った椅子で隙をついて竜の両目をつぶし、翼竜の口に鋭くとがった切っ先を口を開いたタイミングで勢いよく鉄パイプの尖った椅子を突き立てた!これ以上口を動かせないようにするためだ。
その瞬間、翼竜は今までに大きく揺れた。その動きで、ポッドは最後に竜の頭部で目と口を覆うように布をかぶせた。
よろめく翼竜は自身の片腕が、少女の不自然にばらまいていた布を踏んだことに気づかなかった。
瞬間、まるで縄にかかったイノシシの様に翼竜は、口と腕に布が絡まり、動きを封じられた。
それはポッドがいじめっ子たちに巻かれていた綱の結び方だったのだ。まさか長い絨毯で、こんな所で活かされるなんて……とポッド自身苦笑した。
だがなおも翼竜の頭は大きく揺れる。ポッドは自分の体を使って翼竜の頭部に自分の体で覆い動きを封じ込めた!そして、そのおかげで外への道が切り開けた。
その間に、叫びながら少女を外へ出るように指示する。
「そこの旗をつたって!!はやく!きみだけなら降りられる!」
「お兄ちゃんは?!どうするの?」
少女は不安そうにポッドを見る。
「僕が今こいつを押さえてるから!……後から行くよ!大丈夫さ!それより早くっ!!」
そう言って、少女をさきに逃げるように言った。その間も少年は必死に布で巻かれている翼竜を抑えつけていた。翼竜はなおも暴れる。
吹き抜けてる風によって櫓の外に垂れ下がっている旗が揺れた。それは――帝国万歳と書かれてきらめく、あの外の垂れ幕の長い旗だった。
少女はここら降りるのかと震えたが、意を決して、その布を伝って地上にゆっくりと降り始めた。
顔を布で覆わ押さえつけられている竜は胴体と尻尾を振り回しながら、そこから抜け出そうと体を捻る。
竜の鋭いその尻尾が布に掠っていた。少女が旗の半ばまで降りたところで、ビリリと、布が引き裂きを始めた!
「っ!そんな、、」
ビリリリ!ズルズル!!
「キャァァぁあ!」
掴んでいた布の半ばから引き裂ぎがはじまった。少女は、地面へ一気に落ちていった!
下に影がさした。
翼竜はその櫓から顔を出すように頭を振り、外に出ようともがきだす。同時にポッドの体も大きく揺れる。
とうとう翼竜は、ポッドが覆った布で顔を覆われたまま、その翼で空中にとびったった!
ポッドは空中を飛んでいた!布を放してしまえば、地上に真っ逆さまに落ちてしまう。決して手を離さないように布を握りしめた。対して、翼竜は布を外そうとグングン上へ登る。空中で体を捩り蛇行しながら暴れていた。
ポッドも翼竜の動きと連動し、大きく振り子のように揺れた。翼竜を何とか地上へ行くように布を操作しようとするが、襲い掛かる翼竜の爪で、ポッドと翼竜をつなぐ布が引き裂かれ始めた。
鋭い爪で最後に引っ掻いた翼竜で、ポッドは空中へ投げ出された!
ポッドの視界に写る全てがスローモーションになる。
「っ、わぁ!!」
ふわりと体の重量が一瞬無になった。
――死ぬ、と冷静にもポッドは受け入れた。
「(あれ、前と似てる)」
視界の端で地上が見えた。街が一面に見え、向こうの山々も見えた。
走馬灯なのか、ポッドはいじめっ子達に吊るされた時を思い出した。あの時は地面が近かったなぁ、と。
「(あの時より、何倍も綺麗だ)」
唐突に浮かび上がった思考だった。瞬間、重力が蘇り、やがて下へ落ち始めた。
――ポッドの世界が、逆さまにひっくり返った!
―――――――――――――――――――
翼竜は、闘技場を脱出するかの如く、その傷ついた羽で、捻りながら上空高く飛んでいた。屋根を通り抜けた所で、ポッドを振り払った。
あぁ、死ぬんだな、とポッドは思った。地面に打ち付けられるまでの数秒、冷静に今の状況を把握し、次に体へ走る痛みに備えてぎゅっと目を瞑った。
タッタッタッ――シュン!
「ゔッお!」
衝撃がポッドの体に走った。思ったよりも想像していた痛みはなかったことに驚くと同時に、腹部のあたりにずっしりと暖かみを感じた。ゆっくりと瞼を開いた。
ドンッ、ガサッアア!!
砂埃が辺りに舞い上がる。太陽の光が砂塵の中にうっすらと指し、ポッドを抱えた人物を浮かび上がらせた。その人間をみてポッドははっと息をのんだ。
「ッ誰?!」
目をかっぴらいた。
動物の仮面をつけている人物。ポッドを米俵のように抱えたその人間は、地面に直撃する寸前で抱え込んだのだ。
「待たせたわ……ポッド」
「!、なんで僕の事を?」
――パカッ。
ゆっくりと、その仮面を取った。
「…よく頑張ったわね」
「!!由良?!」
――いつもの無表情な彼女の顔が、安堵したかのように微笑んだ気がした。
続く
ーーーーーーーー
ここまで読んでくださった皆様、ありがとうございます!
拙い文章で申し訳ありません。今後もカタツムリ並の速度で進行、修正、改変等発生しますが、どうかあたたかい目で見守って下さいm(__)m
・本作初めてお読み下さった方へ
当作品の注意事項等は、第一話の冒頭にて記載しております。
必ず一読してから本作をお楽しみください。