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ちなみに、人を怨むより身を怨めとは 「相手の仕打ちを怨む前に、相手にそのような行為をさせる原因が自分にあったことを反省せよ」 という淮南子(エナンジ)という中国前漢時代の哲学書に載っている教えです。
/午後5時03分.ーー覆間高等学校 ?????/
(…ど、…どどどっ、どういうこと!?なんで悪魔が!?いや悪魔ってそもそも存在するの!?)
『………』
歩は混乱し、少しの恐怖を覚えた。
(…おお、落ち着こう。い、いい一旦んおち、ッ落ち着いて、)
全然落ち着けていないが、それは青年も同様であった。
表情はあまり動かないが、目を丸くしている。
そして、歩を見つめたまま、ピンと立ち尽くしている。
どうすることもできず、2人はただただ見つめ合う。
辺りは図書室本来の静寂さを取り戻しつつあった。
『………君…』
「ぇあ、ハっはい!」
元気の良い裏返った声が響く。
そして、青年は歩を見て、少し顔を強張らせてこう言った。
『逃げないんだね』
「…え?」
青年から発せられた声は冷たく、どこか からかうような声色だった。
そして驚く暇を与えぬほどの速さで、歩との距離を詰める。
「ぁ、あの……」
『どうやって此処に入ってきた』
「、!!」
先ほどとは比べものにならない程冷徹な声に、歩は心臓を掴まれたような感覚を覚えた。
あまりの恐怖に本能的に走り出す歩の腕を、青年はグッとひいた。
そして、歩の耳元で
『逃がさない』
と囁く。
瞬間、大きな脈動が歩の体を駆け巡り、全身の力が抜けた。
掴まれていた腕はいつのまにか放されていて、ストン、と床に膝から崩れ落ちる。
歩は今自分が何をされたのか理解出来なかった。
そのまま……どんどん意識が薄れていくのを感じた。
(ああ、もしかして僕殺されちゃう…?いやっ、嫌だ、嫌ッ)
歩は、まだ諦めきれないと、必死に抵抗をした。
動いたのは、まぶただけだった。
力を振り絞って開けた目に映ったのは、夕日で血のように赤く染まったステンドグラス。
そして逆光の中でこちらを見つめ佇む、悪魔の恐ろしくて…どことなく美しい姿だった。
『…よし、これでひとまず安心かな。』
青年は、横たわる歩に近づき、しゃがんだ。
『しかしまあ、何故普通の人間があの扉を開けられたんだ?鍵はしっかりかけておいたはず…』
『この子、普通の人間だし…まさかだけど、鍵が勝手に…いや、ないか?……まあ、一応確認するか』
歩のことを観察し終えた青年は、扉の方へ向かう。
扉は開けっ放しであったため、とりあえず扉を閉めたところ、原因らしきものを発見した。
『……あれ、魔法かかってない………』
人間の「あれっ鍵かかってない」みたいなノリで話す青年。
『もし無理矢理魔法が解かれたらとすると、その形跡が残るけど…この扉は一切そういう感じがない…』
『あ…今日、どうせ誰も来ないだろうとか思いながら魔法かけちゃったから?雑すぎたってこと?』
『うわぁ、最悪だ…勘違いだったのか……彼に悪いことしたなぁ…』
自分のミスに、青年は肩をガックリと下げ、落胆している。
扉が開いた理由は、ただの気の緩みだった。
『“どうやって”とか、“逃がさない”とか…やばいこと言っちゃった。ああ、恥ずかしい…』
顔を少し赤くして、下を向き頭を抱える青年。
そんな青年の頭上に一冊の事典が落ちてきた。
いてて…と言っているが、本が落ちてきた事にあまり驚いていない様子だ。
栞が挟まっている事に気がつき、青年はそのページをひらいた。
ひらいた途端、栞は溶けるようにしてなくなってしまった。
読んでいると、一箇所だけ赤い文字で書かれたところを見つけた。
『人を怨むより身を怨め?これは……………ッはは!まさに今の僕に必要なことだな!』
少しの間、青年は口をあけて笑った。
『ああ…ほんと、ここは面白い場所だな。部屋に叱られるなんて、生きてて初めての経験だ』
『そんなに鍵を閉め忘れられたのが気に入らなかったのか』
青年は笑みを浮かべたあと、天井に顔をやった。
『…………』
『…彼に、謝りに行くか』
そう言って、青年は倒れている歩の所へ向かって行った。