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もはや完全に勝負は着いた。ルヅキはうつ伏せのまま、動く事は出来ない。
「うぅ……何がお前を……そこまで突き動かす?」
“何故そこまで闘えるのか?”
ルヅキはその真意を、ユキへと問い質す様に呟いていた。戦闘に超絶的に長けた特異点、という理由だけでここまで闘えまい。
「ルヅキ……貴女は強かった、私よりも。だけど私はここで負ける訳にはいかない。何故なら敗北は私一人の敗北ではないからーー」
“私一人負けて死ぬ分なら、それでもいい。だけど私が負けて死ぬ事は、そのまま終わりを意味する”
「――だから私は……アミの為にも絶対に死ねない!」
常に死と向き合いながら、そう力の限り抗うユキ。その想いは、ただ彼女をーーアミを守る事のみに準ずる。
だからこそ、負けて死ぬ事は許されない。
「それが……お前の強さ……か」
ルヅキはそうゆっくりと、長巻を支えに必死に立ち上がろうとする。
「それ以上動かないでください。今すぐ手当てをすれば、命は助かります」
勝負が着いた以上、ユキに止めを刺す意思は感じられない。それ処か、その掌には黄金の輝きが。ユキはルヅキへ再生再光に依る治療を施そうとしていた。
それは、お互い力の限り闘い抜いた者にだけ理解出来る、敵味方を越えた感情。彼女に生きて欲しい想い、そのものだと云う事を。
「私の……私自身の闘いは、もう……終わった。だがっ!」
ルヅキはその想いを受け止めながらも一蹴する。腹部から溢れ出す夥しい出血も厭わず、立ち上がった彼女は長巻を構えた。
「私の……筆頭としての使命は、まだ終わってない!」
****
再び切り結ぶ両者。否、ルヅキの信じ難い猛攻に、ユキはただただ受け流すしかない。
“一体何処にこんな力が残っていたのか?”
「何故……」
それは疑問。敵討ちでは無い、ルヅキを突き動かすものとは何か? と。
“狂座の為?”
“死さえも縛られる程、重いものな筈が無い”
「何故です!? もう止めてください! それ以上動けば本当に死にますよ!」
ルヅキは腹部貫通の重症。このままだと失血死は免れない。だからこそ、彼女程の者を無駄に死なせたくない一心で、ユキはそう訴え掛けていた。
それでもルヅキは攻撃を寸断する事無く、長巻を振り回し続ける。だがそれには、確実に以前程の力強さは失われつつあった。
「お前の気持ちは嬉しかった……。もし違う形で出会っていたのならば……」
切り結ぶ最中、彼にしか聴こえぬか細い声で、ルヅキはそっと囁いていた。
“きっとユーリと同じく、弟の様な存在になったのかもしれない”
「だが! 今更どうする事も出来ぬ! 私の……いや、我々にとって敗北は死では無い」
“敗北は無。何も残らない。それが狂座に悠久と引き換えに魂を売った者の盟約”
だがそれは口には乗せない。乗せてはいけない。
「だから私は……自分が生きた者としての、存在証明の為に闘い続けなければならない!」
“例え何も残らないとしても、確かに其処に生きた証しを”
「だから――」
“どうか最後まで闘って欲しい”
ルヅキの力の限り、想いの限りを長巻に乗せた振り下ろしを、ユキは刀でしっかりと受け止めたのだった。
ユキには彼女のその想いが、長巻を通して痛い程に伝わってきた。その真意までは、明確に理解する事は出来なくとも。
「……くっそおぉぉぉ!!」
そう力の限り抗い、慟哭する。
ただ一つだけ確かな事は、ルヅキは既にその命を捨てているという事。ならば出来うる事は、最後まで闘い抜く事のみ。
「うおあぁぁぁっ!!!」
ユキはその刃を弾き、確かな決意を以て闘いの渦中に身を投じるのだった。
***
「ねぇ、どうしてよ……」
二人の闘いを見守っていたミオが、その思いの丈を口に乗せていた。
「どうして闘い合わなきゃいけないのかな?」
それは、この闘いに於ける無意味さ。確かに敵同士であっても、二人が憎しみ合って闘っている様には見えなかったからだ。
“ならば闘う意味は?”
「哀しいね……」
アミも二人の闘いから目を逸らさず、その想いに同調するかの様に呟いた。
その宿命に抗う様に闘う二人の姿が、とても哀しく見えたから。
“それでも”
最後まで、この闘いを見届けなければならない。
もはや技でも力でも無い。限界を越えた二人に余力等、残っていよう筈が無い。
ただ、確実に訪れる終幕へと向けて。
――エルドアーク宮殿――
※王の間 立体映像中継前
「ルヅキぃぃぃ! もうやめてえぇぇぇ!!」
まるで風前の灯火が如く闘うルヅキの姿に、それ以上正視出来ないユーリの悲痛な叫びが響き渡る。
しかし、此処からでは手助けする事も出来ない。ただ見ている事だけだ。
「最早これまでの様です。我々をルヅキの救助へ!」
ハルのその当然の提案に、ノクティスは聞こえていないかの様に、惚けた表情で映像のみを凝視している。
「ノ……ノクティス様?」
そしてノクティスは、玉座からゆっくりと立ち上がった。
「うっ……美しい……」
突然のノクティスの第一声。
「えっ!?」
その意外な一言に二人は唖然。
“この期に及んでいきなり何を?”
その真意を理解出来よう筈が無い。
ノクティスは二人の闘いを見ながら恍惚の表情を浮かべ、上の空で口を開いていく。
「私はこれまで多くの闘いを見届けてきた。その強者達の一つ一つに命懸けのドラマがあった……」
ノクティスの突然の過去回想。その金銀妖眼は潤いを以て燦々と輝いていた。
「だが、これ程までに美しい輝きを放つ闘いは見た事が無い! なんという二人だ……とっくに限界の筈なのに、お互いがお互いを高め合い、限界が限界を超える。これぞ正に……魂の煌めき!」
ノクティスの独り喋り続けるそれは、もはや心ここに在らず。
「見たまえ! 二人の生体レベルを! 二人は正に今、神の領域に突入しようとしている」
ノクティスに促され、ハルはサーモに依る二人の臨界突破レベルを確認。
「なっ!?」
その数値にハルの瞳は驚愕に見開かれた。
“第二マックスオーバー、レベル『250%』を突破した……だと!? しかもまだ上昇を続け、モードエクストリームのオーバードライヴーー第三マックスオーバー、神の領域に二人共、突入するつもりですか!”
それは冥王ーーノクティスと同じ領域へ。だが、いくら高め合おうとも、二人が限界を超えて終幕へ向かっている事もまた確か。
このままでは間違いなく狂座の要、筆頭ーールヅキを失う事になる。
「ル、ルヅキの加勢に……」
それだけは避けたいハルは恐る恐る、加勢の主旨を問い掛けた刹那。
「駄目だ! それは赦さない」
「なっ!?」
「そんな!?」
突然の却下の怒声に、二人は茫然と立ち竦む。
「私達は最後まで見届けなくてはならない。二人の魂が奏でる……儚くも美しき最終楽章を……ね」
そう語り、再び二人の闘いを凝視するノクティス。だがその表情には何処か、哀しみの憂いを帯びているかの様に。
「ルヅキ……」
ユーリとハルの二人も、もはや声が出ない。
画面上で激しく闘い合う二人の姿。だがそこに憎しみ合う感情は、画面越しでも伝わって来ない。
ただ燦々と煌めく闘いの軌跡は、確かに我を見失う迄に魅入られる程、激しくも優しい美しさに満ちていたから。
“それでもーー”
ユーリが願うは、ルヅキの勝利と無事を。そして再び逢える事だけを。