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最近、琴子の様子がおかしいことには気付いていた。

何か隠しているのが分かっていても、気付かないふりをした。


ブブブー ブブブー


週末金曜日の午後。

それは、珍しい相手からの着信だった。


「どうした?」

かけてきたのは、平石陸仁。


俺の同い年の従兄弟。

世間では、俺たちをライバルと見ているらしい。

本人達はそんな気はないのだが、ほどよく距離を保っておいた方がグループのパワーバランスも俺たちの仕事もやりやすいため、あまり親しげな行動をとらないことにしている。


「賢介、今日時間作れるか?」


もちろんお互いに一目置いた存在であることは自覚している。

しかし、外で会うのは本当に珍しい。


「何かあったのか?」


突然の誘いに、つい警戒してしまった。


「琴子ちゃんのことで」


俺は絶句した。

なぜ、陸仁が琴子を・・・


***


午後の仕事を無理矢理キャンセルして、俺はホテルに駆けつけた。


ラウンジの片隅に座る陸仁から、席に着いた途端に差し出された茶封筒。


「何?」

と尋ねた俺に陸仁はニヤリと笑った。


「琴子ちゃんに頼まれたものだ」


中を見ると、異物混入とDV騒動の証拠が入っている。

これを琴子が?

今回の件で、俺は表立っては動かないことにしていた。

俺が黙っていればいつかは収まる。

どんな悪い噂だって俺は平気だったし、ただ琴子も谷口美優も傷つけたくなかった。


「何で琴子がお前に?」

まず、それが疑問。


琴子と陸仁が知り合いだなんて知らなかったし、俺の知らないところでかかわっていたことになぜか腹が立つ。

しかし、陸仁はそんな俺の様子を気にとめる風もなく、


「琴子ちゃんは今回のことを自分の責任だと思ったんだ。だから、何でもするから調べてくれと言ってきた」

「何でもするって・・・」


開いた口がふさがらないとはこの事だ。

言葉の出てこない俺に、


「女は感情の生き物だよ。お前を愛しすぎた美優は手に入らないなら壊してしまいたいと思ったし、琴子ちゃんは自分を犠牲にしてでもお前を助けたいと考えた」

いかにも女性にもてる陸仁らしい台詞。


もちろん今回の谷口美優の行動には驚いているし腹も立っているが、そうさせてしまった発端は自分のような気がし黙認していた。

しかし、琴子がこんなに大胆な行動に出るとは・・・

これもまた俺の責任なのだろうか。

それからしばらく、陸仁と二人押し黙ったまま時間が過ぎた。


***


「で、どうする?」

どうすると言われても・・・


「止める気がないなら、俺は行くぞ」

陸仁が席を立った。


俺は黙って見送った。


これが琴子の選択なのか?

俺は正直に気持ちを伝えた。

好きだと言ったはずだ。

ずっと一緒にいたいとも言った。

その答えがこれなのか?

俺はその場から動けなかった。



どの位の時間がたっただろう。

時刻は午後9時過ぎ。

廊下の先に、陸仁の後ろを歩く琴子の姿が目に入った。


見た瞬間、我慢できなかった。

反射的に俺は走り出し、エレベーターで腕を捕まえた。


言葉の出ない琴子を、俺は強引に引っ張る。


「そんなに怒るな」

呆れたような陸仁の声と共に、部屋の鍵を渡された。


***


入ったのは、ホテル最上階のスイートルーム。


部屋に入ると、琴子をベットに投げ出した。

どんなに抵抗されても、このまま抱くつもりだった。

しかし、琴子は言い訳も抵抗もしない。


その姿を見ていて、急に虚しくなった。

結局、俺の一方的な思いなのだと思い知らされた。


俺は手を離し、「勝手にしろ。好きに生きろ」と言い捨てた。


出て行こうとする俺に、

「これをどう使うかは任せます。でも、私は美優さんを許せなかったんです」

泣きながら封筒を渡たす琴子。


この時、彼女の涙を思いやってやるだけの余裕が俺にはなかった。


***


部屋を出た俺はまっすぐ帰る気にもなれず、ホテルのラウンジに戻った。


「何で来たんだよ」

不機嫌そうな顔をする陸仁にかまうことなく、カウンターに並んで座った。


「本当に馬鹿だな」

しみじみと言われて、

「分かってる」

ふて腐れて答える。


言われなくたって、そんなことは自分が一番よく分かっている。


「このままじゃ、おじさんもおばさんも黙ってないぞ」

「ああ。何とかする」


いつもより速いピッチで、グラスが空いていく。


「あの部屋は1週間ほど押さえてあるから」

「ありがとう」


さすが陸仁。抜かりがない。

しかし、親父達を黙らせるのも1週間が限界だ。


明け方まで陸仁と飲んで、俺は自宅へと向かった。


***


明け方だというのに、母さんは起きていた。


「お帰りなさい」

「ただいま」


俺はリビングのソファーに座り、母さんを見る。


「何?」

「いや、あの・・・琴子のことだけど」

「何?」

母さんの表情が険しくなった。


「ゴメン。琴子を泣かせてしまった。家から出て行くかも知れない。すべて、俺のせいだから」


「琴子ちゃんは今どこにいるの?」

母さんが詰め寄ってきた。


「もう少しだけ時間が欲しい」

俺は頭を下げた。


しかし、

「嫌よ。娘がいなくなっても探すななんておかしいでしょう。一体何をしたの?」

母さんは激怒した。


「気持ちを、琴子の気持ちを傷つけてしまった。俺は琴子を妹とは思えないと」


パンッ。

頬を、叩かれた。


母さんをこんなに怒らせたのは初めてだ。

騒ぎを聞きつけた親父まで起きてきて、我が家のリビングは騒然となる。

それから時間をかけて話し合い、1週間だけ黙っていてくれと頼み込んだ。

2人とも納得してはいないが、とりあえず時間はもらえた。

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