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棚に並ぶ、様々な種類のチョコレート。
「……俺は一体、何をしてるんだ」
ポツリと呟いた俺の手には、小さなチョコレートの箱が握られていた。
しかも、どこにでも売っているような普通の市販品だ。
いや、だって、男の俺が手作りチョコなんて作れるわけがないし、そんなのハードルが高すぎる。
だけど。
『兄さんから欲しい。他のは、全部いらない』
あんな顔で、あんな風に真っ直ぐ言われたら、無視できるわけがない。
「……くそ、あいつのせいだ」
俺は半ばヤケクソになりながら
レジの横に置いてあった小さなラッピング用の袋を一緒に掴み、店員のいるレジへと向かった。
その夜────
リビングには誰もいなかった。
親たちは二人で仕事の打ち合わせを兼ねた夕食に出かけているらしく、帰りは遅くなるという連絡が入っていた。
静かなリビングのソファで
暇そうにスマホをいじっていた直哉が、パタパタという俺の足音に気づいて顔を上げた。
「兄さん?どうしたの?」
「……ほら、これ」
俺は自室から持ってきた袋を、考える前に勢いよく直哉の胸元へ押し付けた。
「え、これ……チョコ?兄さんから?!」
「コンビニで、たまたま余ってたやつだからな! 勘違いすんなよ!」
「へぇ……」
「別に、特別な意味とか、そんなんじゃねぇから! 義理だ、義理!」
「うん」
「……」
なんだそのニヤニヤした顔は。
直哉は手渡された安っぽい袋の中を覗き込み、一瞬だけ驚いたように綺麗に目を丸くした。
それから、じわじわと嬉しさが込み上げてきたような顔で、俺の顔を見る。
「これ、本当に兄さんからだもんね……?」
「他に誰がいるんだよ」
次の瞬間だった。
視界が激しく揺れ、気がついた時には
俺の身体は直哉の大きな腕の中にすっぽりと閉じ込められていた。
ぎゅっ、と骨が鳴りそうなほどの強い力で抱きしめられる。
「うわっ!?ちょ、苦し……っ!」
「嬉しい。めちゃくちゃ嬉しいよ兄さん」
「お、おま…っ、大げさなんだよ、ただの市販のチョコだろ……!」
「今年で、いや、人生で一番嬉しい」
「重い重い!感情が重いし距離が近い!!」
どれだけ暴れて押し返そうとしても
直哉は大型犬のように俺にまとわりついたまま、絶対に離れようとしなかった。
むしろ、俺の肩口にガシッと顔を埋めてくる。
「兄さんがくれた、初めてのチョコだ……」
「だから、そこらのコンビニで買った普通のやつだって言ってるだろ……」
「関係ないよ。兄さんが俺のために選んで、くれたから特別。世界で一つだけ」
耳元で、低くて甘い声が響く。
その振動がダイレクトに肌に伝わって、心臓がおかしくなりそうなほど激しく脈打ち始めた。
さらに、直哉は宝物を愛でるような目でチョコの箱を見つめながら、とんでもないことを口にした。
「俺、これ、もったいなくて食べられないから、一生取っておく」
「は?カビるから今すぐ食えよ!」
俺が全力で叫ぶと、直哉は本当に幸せそうに、クスクスと声を上げて楽しそうに笑った。
……くそ。
その、俺にしか見せない無防備な笑顔は、本当に反則だろ。
結局、俺の顔の熱さは、夜が更けるまで一向に引いてくれなかった。