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「貴方が蹴った妊婦さん、お亡くなりになったそうです……」


「ぅ、えっ?」


「傍で見ていた僕が、彼女を病院に運びました。そしたら僕がやったんじゃないかって疑われてしまって」


「お、ぉおお俺は知らねぇ! やった覚えがない。だから俺は無関係だ!」


すごすご後退りして、僕から距離をとったと思ったら、走って逃げようとした。寸前のところで彼が着ている緑色のベストの紐を慌てて掴み、遠くにいかないようにする。


「ちくしょう、放しやがれ!」


「この石を見てください」


怒りにまかせて、彼の目の前にいつも使ってる赤い石を見せて、その命を一瞬で奪った。生気を失ったズベールさんの体は力が抜け落ち、僕が掴んでいる紐を手放すと、道端にうつ伏せで倒れ込む。

記憶のない彼を病院に突き出したところで、僕の無実を証明できる気がしなかったのと、無責任なセリフを聞いたことに苛立ち、勢いだけでその命を奪ってしまった。

両親の命や、これまで殺めた人達については、なんの感情を抱くことなく、手にかけることができた。だからこうして、感情にまかせて人を殺したのは、生まれてはじめてだった。


「パパ、お弁当忘れてるよ~」


ズベールさんの家から、少女が声をかけながら出て来る。僕の足元に倒れている人物が自分の父親だとわかった瞬間、持っていたお弁当をその場に落とした。


「パパっ! どうしたの? パパ!」


駆け寄って抱き起こし、彼の体をゆさゆさ強く揺する。


「お兄ちゃん、パパはどうしてこんなことになってるの?」


「いきなり倒れたんだ。驚いて動けなかった、ごめん……」


感情がこもらないセリフを告げると、少女は半泣きしながらズベールさんに声をかける。


「パパ、起きてよ。目を覚まして!」


「病院に連れて行こうか?」


無駄なことだとわかっていたが、少女の涙に胸が痛み、思わず口からついて出た言葉だった。


「貧乏人が、病院なんて行けるわけないじゃない。病気になったら死ぬしかないの。もうおしまいなんだよ」


僕が住んでいたところだけじゃなく、ここも同じことを知り、なんだか虚しくなった。


「だったら貧乏人がひとりもいなくなったら、お貴族様はどうなると思う?」


「お兄ちゃん?」


「彼らができないことを、僕ら貧乏人がやっているから、この国の生活が成り立っているのにね。お金や地位がないだけで、病院にもかかれないなんて、そんなのおかしすぎると思わない?」


悪人をたくさん殺めても、いなくなることがなかった。それはすぐに、代わりが湧いて出てくるから。


「貧乏人が全員死んだら、きっと誰か代わりが出てくると思う。だからこれを見て」


そう言って、少女の目の前に赤い石を見せる。父親に被さるように、小さな体が倒れこんだ。

この日を境にして、ぽっかり空いた心の穴を埋めるように、僕は躊躇なくいろんな人を殺め続けた。朝も昼も夜も関係なく、次々と殺戮を繰り返す。

理不尽だらけの世の中を見ているだけで、なにもかもが嫌になった。天使の翼を手に入れて、少しでも早くマリカを迎えに行くためだけに、僕は今日も人に手をかけ続ける――。

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